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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
107/121

褒めて伸びるタイプ

「………」

「………」


 その声の主はフィフィーお姉ちゃんでありマールとエリを半ば強引に握手させる。

 ダークエルフというだけで敵意を滲ませ睨みつけるマールなのだがフィフィーお姉ちゃんのオーラに畏怖したのか渋々エリと握手をする。

 そのお姉ちゃんをわたくしはお姉ちゃんに怒られた懐かしくも大切な思い出を思い出ししみじみと追憶に浸っていた。


 怒っている時ほどお姉ちゃんの笑顔が輝き出すあの不思議で懐かしい日々を。

 そもそも保有魔力量が桁外れなお姉ちゃんが振りまく怒りのオーラだけでドラゴンも逃げ出しそうな程なのだが。


「ところでマリアンヌ……」

「な、何んですの?お姉ちゃん」


 その懐かしき思い出が今実際にわたくしを押し始めているのは何故だろうと思う。

 この、笑顔なのに笑顔じゃない違和感に思い出になりかけていた恐怖が今わたくしを襲い始める。

 その懐かしき恐怖とシチュエーションに、懐かしさに浸る余裕すら無い。


「せっかくだからマリアンヌにもお説教ですっ!!」

「わ、わたくしは何も怒られる様な事はしてませんわ……」

「言葉遣い……聞いてないとでも思ったの?」

「あれは、わたくしは何も悪くありませんわ。むしろギルドマスターが悪いのであって仕方のない事ですわっ」

「仕方がないとマリアンヌは女性である事を捨てるんだ……へーぇ」

「そ、それは……そのーぉ……ごめんなさい」


 屁理屈であると分かっていてもとりあえずは抗ってみるものの、未だに口ではお姉ちゃんに勝てないと悟り早々に白旗を上げ謝る事にする。

 そもそもどちらが悪いか決まってる時点でお姉ちゃんが話の芯をブレさせない限りわたくしには逃げ道など無いのである。


 それからわたくしは王の謁見の時までこんこんとお姉ちゃんに淑女とはなんぞやとこってり絞られた。



◇◆◆◇



「王との謁見の準備が終わった。私について来るように」


 あれから小一時間、部屋の扉がノックされると白い鎧を着た美しいハイエルフの女性が王との謁見の準備が終わった事を告げに来るとすぐさま踵を返してついて来るように言う。


 ついていった先には二百名近い、呼びに来たハイエルフの女性が着ていた鎧と同じ物を装備しているハイエルフの男女が真ん中に敷かれた赤い絨毯を挟む形で左右一列に並び整列していた。

 その光景はどこか幻想的なのだがハイエルフの目はお姉ちゃんを見るなり侮蔑の感情を滲ませているのが見て取れる。

 そしてこのハイエルフの壁、赤い絨毯の先に五段程の階段、その上には神々しさすら感じ取れる椅子と、その上に座るハイエルフの男性の姿が目に入って来る。


「おぉ……そなたが我が未だ知らぬハイエルフと、奴隷として献上するハイダークエルフか……なかなかよの。ハイダークエルフなぞいつぶりに嬲ったか。ハイエルフのソナタも今まで出会ったどのハイエルフよりも美しい。そうだ、我の妃となれ。流石に第一妃は既に何人か娶っている故無理だがソナタの美貌ならばそんなものも霞んでしまうであろう。さて、まだ昼なのだが今から蜜月を交わすと行こうか」

「………寝言は寝てから言いなさい」


 そして件の王は開口一番これである。

 ハイエルフの王だけあってその顔も整っており美形ではあるもののまさかの中身がヘドロで出来ていてはたまったものではない。


 しかしながら腐っていても一国の王である。

 ある程度予想はしていたのだがここまで酷い物とは誰が想像できようか。

 その有様に一瞬固まってしまったのだがあんまりにあんまな内容に思わず「あ」と言われれば「ん」と、「山」と言われれば「川」と、そう返すのが当たり前であるかの如く、まるで呼吸でもするかの様に否定する言葉を言ってしまう。

 私の言葉にお姉ちゃんは目を見開くと笑顔になり怒りのオーラを纏い出すのだが、こればっかりは仕方のない事だと許してほしいと思う。

 むしろ言葉遣いが崩れていなかった事を褒めて貰いたいぐらいである。


 ほら、そこはわたくし…褒めて伸びるものですから。


 しかし怒りのオーラを纏い出すのはお姉ちゃんだけのはずが無く、当然ながら周りにいるハイエルフ達からも怒りを隠す気配すら見せずそのオーラを漂わせ始める。


「……もう一度とう。今、お主は何と言った?今度は良く考えて言葉を選びたまえ小娘。いくらハイエルフと言えども次はないぞ?」

「あら、長生きし過ぎて耳が遠くなってしまわれたのかしら。寝言は寝てから言いなさいと言ったのですわ。そうですわね……先程の言葉を頭を床に擦り付けながら謝罪して、全てのダークエルフを解放すると誓うのであれば……」


 ここでわたくしは一度言葉を止めるとハイエルフの王をこれでもかと見下し蔑み、まるで気持ちの悪い虫を見るかの如く嫌悪し、怒りを乗せ仰々しい態度を持って睨みつける。


「わたくしの足の指先程度ならば舐めさせてやっても良くってよ?」

「吐いた唾は飲み込めんぞ小娘っ!!貴様ら、この者達を捕らえよっ!!死ななければ腕の一本や二本無くなっても構わん。兎に角生け捕りにしろっ!!」


 そしてわたくしの言葉が終わると同時にハイエルフの王は唾を飛ばしその整った顔を赤面しながらわたくし達を捕らえる様に、周りにいるハイエルフ達に命令を飛ばす。

 その号令と共に弓矢を構える者、魔杖を一斉に構えわたくしに狙いを定め射撃および攻撃魔法を撃ってくる。


「今からでも遅くないっ!は、早く謝るんだっ!!」

「王を罵倒するとか馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないのっ!!」

「ひぃいっ」


 そしてわたくしの周りにいるエルフ達三人は頭を抱えてしゃがむと、ハイエルフ糞ギルドマスターとマールはこちらへ無数に飛んでくる攻撃の原因であるわたくしに抗議及び罵倒し、エリは小さく悲鳴を上げる。

 しかし、いくら待てども飛んで来るはずの弓矢や攻撃魔法が当たる気配すら見せず恐る恐るといった感じで三人はゆっくりと顔を上げて辺りを見渡す。

 そこには飛んで来る弓矢と攻撃魔法、その全てを己の拳で撃ち落としていく一人の美しいハイエルフの姿が目に入った。


「全く、とんだお荷物ですわね。貴方達、死にたくなければわたくしのお姉ちゃんの所で一ヶ所に固まってなさい」


 その三人にわたくしは、わたくしと同じハイエルフもしくはエルフだと言うのにこの体たらくぶりに「情けない」と思い無意識にため息を吐いてしまう。


 お姉ちゃんはもちろん特別枠なので寧ろ守らせて感謝の言葉が出てしまうくらいが丁度いいであろう。


「なっ……」

「信じられない……」

「綺麗……」


 そんなわたくしの姿にハイエルフ糞ギルドマスターとエリは信じられない光景を目にしたかの様に驚き、エリは当たり前の感想を口にしていた。


 わたくしが美しい事は今更なのですがエリには後でお菓子でもあげて差し上げましょう。


 そして気が付けば周りは騒然としだし、いつのまにか攻撃は止んでいた。


「ば、バカな……貴重なミスリルの弓と魔杖、そして選りすぐられた精鋭達から放たれた無数の攻撃を防いだ……だと」

「これで選りすぐられた精鋭達……武器も精鋭達も低レベル過ぎるのではなくて?」


 その光景が信じられないのかハイエルフの王は呆けた表情でわたくしを眺めていたのだが、寧ろ驚いたのはこちらも同じである。

 彼らの出す雰囲気から強いとまでは思っていなくとも、腐ってもハイエルフ達である。

 そのハイエルフを集めてまさかここまで弱いとは思いもしなかった。


「しかし、防いだだけではなくて攻撃も得意でしてよ?わたくし」


 そう言うとわたくしは身体強化の魔術とスキル、更に能力上昇率向上魔術とスキルを自身に付与すると一気に通路右手側のハイエルフの精鋭達とやらへと駆け出す。


「ハッ!」


 わたくしの攻撃時の掛け声と同時に鎧を装備しているハイエルフの精鋭達が吹き飛んでいく姿が見える。

 その者達が地面に落ちる前に次のターゲットへと駆け出し、脚や拳を使い攻撃を繰り出して行く。


「どうなっているんだっ!?」


 謁見の間を縦横無尽に駆け回り自慢のハイエルフの騎士達をまるで飴に群がろうとする蟻を払い除けるかの如く蹴散らして行くその姿は、ハイエルフやエルフと言った魔術に長ける種族の戦い方ではなく接近戦、特に打撃を得意とする獣人の戦い方と言われた方がまだしっくり来るであろう。

 しかし、獣人の猛者とも幾度となく戦って来たハイエルフの王は獣人と目の前で猛威を振るっているわたくしとの差に気付いたのか王という自身の立場も忘れ悔しげな表情で喚く様に声を荒げ唾を飛ばす。


「物理特化の魔術師が我の騎士達を圧倒出来る筈がない!あってはならないのだっ!!」


 彼がそう叫ぶ様に本来であればハイエルフまたはエルフが物理系の何かを極める事は、例えそれが物理系魔術であったとしてもまず大成しない事は常識であり、そんなものを覚え鍛錬する時間は無駄でありその者は蔑まれる存在であるというのが当たり前なのである。

 そもそもエルフという種族故に筋力は平気して弱くさらに持久力を上げる筋肉はつくものの瞬間的な力を発揮する筋肉が付きにくい性質を持つ代わりに扱える魔力量が魔族に次いで膨大であり人間ほどでは無いものの空気中のマナも魔力として扱う事が出来、魔術を扱う能力も高いいわゆる魔術特化型の種族と言えよう。


 例え物理魔術を100年間修行したとして十年修行した獣人には攻撃力、防御力、身体能力その全てにおいて敵わない。

 それにエルフという種族そのものが打撃に弱く接近戦自体自殺行為とされているのもその理由の一つなのだが、マリアンヌからすればそんな欠点など当たらなければ問題ない。


 そんな、今までバカにしてきたであろう存在である物理魔術師のわたくしに自慢の、選りすぐられたハイエルフの騎士達が倒される様はハイエルフの王にとってまさに悪夢そのものに違いない。

 しかし、だからこそわたくしはこの物理魔術師として育ててくださったクロ様に感謝と敬意を抱く。


 確かに、獣人と正面切って馬鹿正直に戦えば間違いなく負けるであろう。


 しかし物理といえど魔術師である。

 当然攻撃の一つ一つには魔力が込められており当然それは打撃であると同時に魔術でもある。

 その打撃は扱える属性を付与でき相手の弱点をつく事ができる上にエルフ特有の獣人には無いしなやかさと唯一凌駕出来るスピードで差別化を図る事が出来るのである。

 同じ物理といえどもはや別物であろう。


 そしてこの様に相手の意識外、想像すらしなかった戦法により意表を突いた攻撃は相手を錯乱させこの様に一気にかたをつける事が可能である。

 そもそも圧倒的に数の少ないハイエルフの物理魔術師対策をしている者はまずいない。


「物理魔術師は強いでしょう。同じ物理でも獣人との差別化もしっかりとしてますのよ?それこそ絡め手で獣人と互角に戦える程には」


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