妻と娘【村田さん五話から八話】
そして、それとともに罪悪感も増していき、気が付けば私はクロにしがみつき泣きながら謝罪の言葉を紡いでいた。
「あーもうっ……よしよし。泣かない泣かない」
「うぅー……っ、サラさんっ」
「わ、私まで泣きそうにになって来ちゃいましたっ……メアさんの気持ち、痛いほど分かりますからっ」
「ターニャさんっ、も、泣いてますよぅー……うぅっ」
そんな情けない私をクロの婚約者達が優しく慰めてくれる。
他にもクロの隣でクロの体温を感じたい者もいるだろうに、こんな私に譲ってくれているのだと思うとその優しさで余計に涙腺が崩壊してしまう。
「そんなんじゃクロの子を一番に産むのは厳しいわよっ!?私がいの一番に産んで見せるんだからねっ!!」
「やだぁ……っ、私が一番最初に産むぅー……っうぅ」
ある意味で赤子をあやすよりも面倒くさいであろうこの、泣きだす大の大人をキンバリーが優しく喝を入れて来る。
しかし、一番最初にクロの子供を産むのは自分であるとここに集まっている婚約者全員が思っている事である為、私も負けじと反論する。
ここで反論できなければ一番最初なんて夢のまた夢であろう。
結局譲ってしまい一番最後になってしまうのが目に見えてしまうのでその想像を振り払う。
「あら、一番最初はどう足掻こうがもう無理よ?だってもうお兄ちゃんの子供はいるんだから」
「「「………え?どういう事?」」」
アーシェ・ヘルミオネさんが放った言葉で世界が止まった気がした。
先程の微笑ましい光景など無かったかの如く静まり返る室内。
それ程までに強烈な一言。
飾ってある花を生けている花瓶からピシリと音が聴こえてくる。
既に、クロに………子供がいるって……聞き間違いなんじゃ……。
「あれ?……みんな知らなかったの?ほら、これがお兄ちゃんの娘でこれが奥さん。いわゆる第一夫人っていうのかな?」
そう言うとアーシェ・ヘルミオネさんは【スマホ】という魔道具を取り出すと可愛らしい人間族の小さな女の子と、同じく人間族の美人な黒髪の女性を写しだすと私達に見せてくる。
な、何ぞこれ……何ぞこれ……。
女の子の顔と女性の顔を見れば嫌でも分かる。
とても幸せであると。
「……この世界にはいないけどね」
その言葉の意味を理解して行くにつれ先程まで感じていた怒りや嫉妬と言った感情は一気に霧散してしまう。
この世界にはいないという事はもう会えない場所に旅立ってしまったという事である。
クロの婚約者に魔族が居ないのは今は亡き奥さんと娘さんの面影を無意識に求めていたのかもしれないと想像してしまう。
そしてアーシェ・ヘルミオネさんは語ってくれた。
奥さんと娘さんがいる事を知らなかったとは言え自分がクロを追い詰めてしまったという事、そしてクロは奥さんと娘さんを守る為に自分を犠牲にしてしまった事。
だから自分はクロとは結婚できないという事。
次はクロに出来た奥さんと子供達を守って行くと誓った事。
でも、クロは自らを犠牲にして大切な者達を守る事が出来るのならばそれを実行に移すと知っていながら今回も護れなかった事。
「ごめんなさい」
そして私達は一晩中泣いた。
結局みんな無理に明るく振る舞っていたのだろう。
◇◆◆◇
何だか懐かしい夢を見ていた様な気分だ。
そう、妻と娘の三人で暮らしていたあの日々のような懐かしく暖かな夢を。
そんな幸せな夢から覚醒させようとする雑音が聞こえ、初めは無視していたのだがその雑音も無視できないくらい大きくなり、幸せな夢ほどその雑音の不快感も増して行く。
そしてその雑音に耐えきれなくなった時、雑音だったものは複数の女性の声へと変わって行く。
それは雑音などでは無くとても大切な声だと今更ながら思い出す。
結局、今回も自分は身勝手に生涯のパートナーに何も告げずに居なくなってしまった。
それはとても残酷な事だと俺は思う。
妻や娘、そして婚約者や奴隷、家臣達にはいくら謝っても許してはくれないだろうが、自分一つの身で救えるのならばそれはとても安いものだとクロは思う。
「今日は私とスフィアがクロの隣で寝るんだ!いつもいつもお前達ばかり良い思いしやがって!!少しは私達の気持ちも汲んでくれてもいいだろうっ!?」
「そうだぞお前達!!私達はい・ま・だ・処女なんだからなっ!!」
「ちょおっ、スフィアっ!!いくらそれが真実で周知の事実だとしても大声で叫ぶものがあるかぁっ!!」
「寧ろ逆ですよ?フレイムさん。知ってしまったからこそ知らない者には分からない寂しさが私達にはあるのです」
「………スフィア、ターニャをシバいてイイカ?」
「エエ、シバき倒して差し上げましょう……」
この騒々しい毎日も今や懐かしく思うが、俺が手放した宝物でもある。
そんな懐かしい気分に浸りながら、婚約者者の中で未だに手を付けていない者達の事を思うと手を付けてあげた方が良かったのか、それとも次のパートナー探しに支障が出ない様に処女のままの方が良かったのかとタラレバの事を考えてしまう。
「子供の一人でも作って上げてればまた違ったのだろうか?」
そんな事を思ってしまうあたり、俺はまだあの世界に少なからず未練があるのだろう。
「上等ですっ!!かかって来なさ………え?」
「うそ………」
「意識が戻ったのかっ!?クロっ!!」
「ぐえぇっ!?ちょっ、苦しいからっ!!」
あの、ほんの一時ではあるものの異世界でのタラレバを思い口ずさんだ時首に、胸に、顔に何か柔らかい何かが覆いかぶさり首に絡まり苦しさで悶えてしまう。
そして周囲を見渡せば俺の胸でこちらを覗き込むようにして泣きじゃくるフレイム、スフィア、ターニャの姿が視界に入ってくる。
「い、生きてた……のか?」
今回はどうやら『しくった』みたいである。
「……心配かけたみたいで、すまなかった」
正直謝って済む問題では無い事くらいは理解しているのだが、だからといって謝らなくて良いという事でも無いため開口一番彼女達の頭を交互に撫でながら心からの謝罪をする。
それに、そうでもしないと俺自身の良心の呵責に耐えられそうにない事も正直なところ大きい。
「……三日間」
「へ……?たあ、アーシェ……?」
そんな俺の謝罪を聞き、横からムスッとした声が聞こえて振り向いてみるとそこには「私、怒ってます!」と言いたげな表情で腕組みをしているアーシェの姿が目に入って来る。
当然、心配してくれたのはありがたく思うし心配かけてしまった事は申し訳ないと思っているのだが、だからといってもアーシェを見てゾクっと感じてしまうのは仕方の無い事だと、俺は思う。
異議申し立てがもしアーシェにあるのならば今までの所業を胸に手を当て思い出して欲しい所である。
「三日間も意識を失っていたのよ?お兄ちゃん。それに蘇生したとは言え一度は死んでたのよ?そんな謝罪の言葉だけで足りるとでも思ってるんじゃないよね?お兄ちゃん」
「あ、当たり前だ。もちろんみんなには後日ちゃんと心から謝罪という形で何かをしてあげたいと思っている」
「何かって、どんな事でも良いのかな?私が選んでも良いのかな?
お兄ちゃん」
そういうアーシェの目は将棋の終盤、あと一手で勝利が決まる、まるでそんな表情をしており思わず武者震いと同時に寒気を感じてしまう。
「そうだな、出来る限りお前達の意向は汲んでやりたいとは思ってはいるのだが俺に出来ない事や非常識な事などは流石に無理だぞ?それ以外、あくまでも一般の範囲内だったら、何だってしてやるさ」
とは言え非があるのはこちらであるためアーシェの言葉を否定も出来ず、だからと無理難題を言われても困るため予防線は張っておく。
アーシェ辺り「私だけの性奴隷になって?お兄ちゃん」などと普通に言ってきそうなので言われる前にそのフラグを叩き折るのは当然の事と言えよう。
「じゃ、じゃあ…ね、お兄ちゃん……えっと、えっとね、そのー……」
「何だよ畏まって」
そんな俺の予防線を聞いた上でなおアーシェの顔に自らの欲望を絶たれた絶望感などは感じられず、寧ろプレゼントを前にした子供の様に期待と、それを口にする羞恥心にもじもじくねくねとしだす。
その姿に逆に警戒し過ぎたか?と思っていたその時。
「私ね、お兄ちゃんの子供が欲しいなっ!!」
何かが空気を振動させ、その振動が耳を刺激して鼓膜を震わせた気がしたのだが気のせいだろう。
そして、先程まで泣いていたはずのターニャ、フレイム、スフィアが目を輝かせ何かを期待している様な表情でこちらを向いているのもきっと気のせいだろうと俺は思う。
そして、クロが目を覚ました事を知った婚約者達と家臣及びメイド達によりこの後クロは文字通りもみくしゃにされると共に涙と鼻水でベトベトになったのだが、その時ウィンディーネから「赤ちゃん」という言葉が聞こえた気がしたのだがこれもまた気のせいというか風の悪戯であったと俺は思う。
◇◆◆◇
「マリアンヌ様ぁああ!!置いてかないで下さいよぉぉおおおっ!!」
わたくしを呼ぶ声が後方から聞こえてきている気がするのだが、きっと気のせいでしょう。
だってわたくしは今ひ・と・り・で!旅をしておりますしギルドで新しくパーティーを募った覚えも無ければ仲間を募集したり承諾した記憶も無い。
よって今聴こえて来る声は、いくらわたくしと同じ名前を読んでいようともわたくしとは関係ないと言えるでしょう。
そしてわたくしはその声を無視(当たり前です)してクロ・フリート様が建国した国の外、その更に東にある最果ての国と呼ばれるスタッフホルンという国、その更に東側にあるギルドの中へと入って行く。
即ちここが人族最果てのギルドという事になるのだが実際はそうではない。
というのもここから更に東、妖精の森の奥深くにはエルフの国ユグドラシュ国があるからである。
しかしながら人族はこの妖精の森を超える事が出来ず、結果的にスタッフホルモンを最果てと呼ぶようになった。
それがこの国が帝国に侵略されなかった理由の一つでもある。
その理由とは、エルフの国であるユグドラシュ国は今現在いる国スタッフホルモンとしか貿易をしておらずスタッフホルモンとしか貿易はしないと公言しているからである。
しかし帝国側がそれを黙っているはずがなく定期的に攻撃を仕掛けスタッフホルモンを生かさず殺さずで残す事によりエルフ作のアイテムを格安で買い叩ける状況を作っていた。
しかしスタッフホルモンからすれば後ろは「入れば命の保証は無い妖精の森」前は「帝国」と最早為すすべが無かった為に一方的な貿易を帝国にされていたのであるのだが、買い叩かれていたとしても腐ってもエルフ作のアイテムである。
スタッフホルモンはスタッフホルモンでそれなりに潤っており、定期的の戦争もその財で傭兵を雇いしのいでいたりするのだが自国民を積極的に戦争に駆り立てる国民数、人口からみた国力はその戦争のせいで未だに厳しい限りである。
「何かBランクで手頃の依頼は無いのかしら?」
「いらっしゃいませ。Bランクですね、少々おまち……へ?は、ははは、はいはい…」
「わたくしの顔を見ただけで何をそんなに緊張しだすのかしら?このエルフの顔がそんなに珍しいのですの?あなたもエルフでしょうに」
「ハイエルフ様っ!?」
「…?まあ、一応はハイエルフですけれどもエルフがいればハイエルフもいるでしょうに」
「そうなんですよっ!!何を隠そうマリアンヌ様はハイエルフ様なのです!!」
部外者の、いつのまにか金魚の糞の如く付けて来ているエルフの娘がうるさいのはもう相手にしない反応しない無視に徹するとして、たかだかハイエルフってだけでこの驚き様は一周回ってばかにしているのではと少し苛立ってしまう。
エルフがいればハイエルフもいる。
当たり前の事であるし、今までクロ様と共に何人ものハイエルフと闘ってきましたし、クロ様のご友人にも何人かのハイエルフがいた事を思えばそこまで驚く程のものでも無いでしょうにと思ってしまう。
特に好きな作品は「敷居の住人」「ハネムーンサラダ」「じゃじゃ馬グルーミンup」などといった展開の上下が激しくなく、読んだ後ほっこりする作品だったりします(^ω^)名作ですね!
⑤屍なう
⑥犬が一匹子供が三人
たかまれ!タカマルという作品の冴というキャラクターがいるのですが、12巻辺りで布団から顔半分だけ出して上目遣いをするシーンが数多ある恋愛シーンで一番私の胸を穿ち粉砕していかれました。
ちなみ一番好きな恋愛漫画はめぞん一刻です(^ω^)
一番好きな作品はキャシャーンです(^ω^)
話の根本が似てる銀河鉄道999も良いですけど、メーテル可愛いし。でもやっぱりキャシャーンかなー(^ω^)
こう、考えさせられますよね。あれ。シンス含めて。
⑦狐でした!!
⑧無理っす(キリ)