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ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記  作者: Crosis
第六章
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一人寂しい夜をだな

 お互いの剣がぶつかり合う音が庭に響き、その音からお互い手加減無しで打ち合っているのがうかがえる。

 いくら模擬戦用の刃を落とされた模造刀であったとしてもあの一撃を受ければ骨の一本や二本は折れるであろう。

 しかしフレイムとスフィアはその剣筋を弱めるどころか更に激しく、そして鋭くしていく。

 その光景はまさに高ランク冒険者と同等の実力を持つ者であると分かる。


「もう毎日毎晩期待して、いつ来るのかと気が気では無いぞ! そのお陰で毎晩っ……そのっ……あれだっ! 一人寂しい夜をだなっ!」

「寂しい割には凄い激しい声で感じているようだがなっ。毎晩毎晩外まで声が漏れておるぞ?」

「なななっ! う、嘘だっ! 声が漏れない様に防壁を貼って細心の注意を払っているのだぞっ!?」

「あ、私の勘違いだったわ……それにしても動揺しすぎ。隙ありっと」

「痛っ……!!」


 しかし模造刀での打ち合いもスフィアの言葉によりフレイムが動揺してしまい脳天に一撃を貰う形で終わりを迎える。

 その一撃は一応手加減されていたらしく、そして防御スキルも発動しているため大怪我などは無いのだがそれでも痛いものは痛いらしくフレイムは頭を抑えてしゃがみ込む。

 その口からは痛さからというよりかはわからない怨嗟からくるうめき声が「うぅー…」と聞こえてくる。


「謀ったなっ!? スフィア!!」

「んふふふふー……さて、何の事かなー? 毎晩一人で激しく慰めている事なんか私分からないなー」


 カマをかけられた事に気付いたフレイムはスフィアに食ってかかろうとするもの、それをスフィアはのらりくらりと交わして行き、知らない存じ無いとどこ吹く風である。

 その際「激しく」の部分を強調する旅フレイムの顔は真っ赤になって行き、それに伴いフレイムの勢いも弱くなって行く。


「まあ、私も似た様なものなんだがな……」

「お、お前も同じじゃないか!! 私ばかり恥ずかしい思いをさせて!!」

「さて、何の事かなー? ちょっと言ってる意味が分からないわー」

「ぐぬぬ……言わしておけば……もう一回っもう一回だっ!!」

「わっ!? コラ!! いきなり攻撃してくるんじゃない!!」


 そしてスフィアもまたフレイムと同じ夜を毎晩過ごしており、うっかり口を滑らしてしまいそれを聞き逃さなかったフレイムが突っ込むもそれを全力でとぼけ、痺れを切らしたフレイムが模擬戦の再戦をスフィアの了承を得ずに開始する。

 その少し離れた場所では同じく性欲を持て余したメアとミイアによる模擬戦が行われており、当然身体を動かしたくらいでは性欲を全て発散出来るわけもなくクロの知らない所で彼女達の性欲が順調に溜まって行くのであった。



◇◆◆◇



 デモンズゲートを開きウィンディーネのいる場所、俺の惰眠を妨害した原因がいるであろう場所へ移動する。

 ゲートの向こう側に街一つを奪わんとする力、人の言葉をしゃべれる程の知能を持ち、そして数多の魔獣を使役している魔獣がいるという報告をウィンディーネから聞いてはいる。

 しかしだからと言ってウィンディーネ一でも簡単に対処できる程の魔獣であるとも聞いているため緊張感も何も持たず、コンビニへ行く感覚で俺はゲートを潜る。


「お待ちしておりました。クロ・フリート様」

「元気そうで何より。それで……あいつか?」

「はい。そのようです」


 するとゲートをくぐって来たクロに気付いたウィンディーネは即座に、そして優雅に膝ま付き頭を下げる。

 その頭を上げさせ立たせるとウィンディーネから報告された魔獣の確認へと移る。

 ウィンディーネが肯定したその魔獣は全身が漆黒という言葉が似合う程の黒い毛並みをした狼に似た姿をしているのが伺える。

 しかしその身体は普通の狼とは明らかに大きさが違っており、軽く三メートルは超えているように見える。

 そして何よりも狼と違う箇所、額に生えた一本の剣のような角が輝きその存在感を放っていた。


「なんだ? お前もこの俺様に殺されに来たのか?」

「おぉ……この犬本当に喋ったぞ、ウィンディーネ」

「犬の中では少しは頭が良いほうみたいです……が、それまでです。強者がどちらか分からないぐらいには頭は悪いかと」

「誇り高き狼の王に対して暴言の数々……特に犬などと一緒にした事は絶対許さぬ。お前たちから先に殺してやるわっ!」


 そんな巨大な狼が報告通り喋りだしたので柄にもなく興奮してしまう。

 その犬と言う表現が悪かったのか激高した狼が自身の影から無数の黒い刃を俺とウィンディーネ目掛けて突き刺そうとしてくる。


「甘い」


 しかし俺がデモンズゲートから潜って来てから今まで何もしてない訳がなく、予め設置しておいた魔術を発動させ、尚且つ指を鳴らし無詠唱で更に魔術を発動する。

 発動した魔術は光の魔術段位三【反射】と時の魔術段位二【停止】である。

 【反射】の効果は段位三以下の威力とみなされた特殊攻撃を使用者に跳ね返すという効果を持ち、【停止】は相手と自分のレベル差分〇・二秒動けなくなる(レベルが同等もしくは相手の方が高い場合効果は発動されない)という効果を持つ。

 そして自称狼の王と俺のレベル差はかなりの開きがあったらしく自らの攻撃で串刺しになって尚、まだ動かず、少し間を置いて血しぶきが舞い獣らしい叫び声が響き渡る。

 そして自らの攻撃で自身を串刺しにされた狼型の魔獣は慟哭に似た叫び声をあげると身体に深く刺さった無数のトゲをパンプアップの動作で強引に身体から取り出していく。

 トゲを取り除いたその姿は、先程までの傲慢な態度は消え失せ野生の如くクロに警戒心を向け始める。


「今更クロ様の強さに気付いても遅いと思いますよ?」

「……何だと?」

「出会う前にこの場から立ち去るか出会った瞬間に自らの腹を見せ服従の意志をみせなかった時点で痛い目を見るのは火を見るより明らかでしょうに……」


 そんな狼の魔獣にウィンディーネは可哀想な者を見るような視線を向け、哀れみの言葉を投げかける。

 その態度と声音からウィンディーネはクロと戦おうとすることこそが愚かであるとまるで疑ってない事が伺える。


「よせウィンディーネ。無闇に煽るな、ややこしくなる。俺は別に喧嘩を売りに来たのではない。」

「すみません、クロ様」


 そしてクロはそんな喧嘩腰の態度を取るウィンディーネを諌めると小さくため息を吐く。

 最近、スーワラ聖教国国王と闘った時に気付いたのだが、どうやらクロの強さを過信し、盲目的に崇拝している家臣はバハムートだけだと思っていたのだが、どうやらサラやルシファー、そしてウィンディーネもその中に含まれているのではないかと疑っていた。

 そしてその疑いは確信に変わるのだが同時にどれほどの家臣、元NPCである者達が盲目的にクロを崇拝しているのかという事である。

 尊敬されたり慕われる事は有難いと思うのだが、それが行き過ぎて盲目的思考になってしまうのはいかがなものだとクロは思う。


「分かってくれたら良い。それで狼の王よ、一つ質問しても良いか?」

「ふざけるな人間風情がこの俺に口を聞ける立場であると……っ!?」

「自分の置かれている立場を理解できていないのは犬、あなたの方よ?私より弱いくせにクロ様に口ごたえするなど不敬と知れ。次やったら殺すわよ」


 クロに対し未だに上からの物言いを続ける狼の魔獣にウィンディーネはその口めがけ数メートルもの氷柱を無詠唱で作り出すとその煩い口を閉ざして狼の魔獣に対し今置かれている現状をその殺気をもって黙らすと氷柱を消しそこに出来た傷跡を回復魔術で綺麗に消し去る。

 しかしクロが注意した瞬間のこれである。

 ほんとにクロが言った事を理解しているのか不安になるのだが、せっかくウィンディーねが黙らしてくれたのでその事は頭の片隅にぶん投げ、再度質問を狼の魔獣へと投げかける。


「今一度問う、狼の王よ。ここで死ぬか俺の下につくか選べ」


 クロのその言葉にこの街のギルドマスターと冒険者は驚愕の声を上げクロに視線を向ける。

 いくら相手が言葉を喋れるとしても所詮は魔獣であり、トリプルSランクの強さを持ちながら知謀も兼ね揃えている化け物の類である。

 そんな化け物を懐に引き入れた所で喉元を噛み千切られてしまうだろう。

 しかし、一番驚いているのは狼の王の方だろう。

 いや、驚いてはいるがそれは驚くというよりも呆れているといった方が正しいだろう。

 自分よりも脆弱な種族が我、そして我々家族を配下にしようと言うのである。

 下手な冗談の方がまだマシだと思えてしまう。

 確かに先程は遅れを取ってしまったが、あれは自分の奢りが招いた結果であり次は無いという確固たる自信がある。


「センスのない冗談だな人間。ふざけるのも大概にしてもらいたいものだ」


 故に狼の王はクロの言葉に首をふる。

 ましてや自分の身体はもう余り長くは持たないだろう。

 いく日かは持つだろうがそれだけである。

 ここを攻めた時にはもうとっくに後には引けない所まで来ている。


「そうか……非常に残念だがこればかりは致し方ない。最後に名前を教えてくれないか?俺の名前はクロ・フリートだ」

「……ゴゴだ」


 クロが名乗るとギルドマスターと冒険者は更に驚愕の表情を浮かべた後、ウィンディーネの主人であるという事に納得するかの様な表情へと変わる。


「ではゴゴよ……一応この街は俺が運営する事になった国に所属しているみたいでな、国、そして国民の平和を脅かす存在を「はいそうですか」と黙って見過ごす訳には立場上いかなくてな」

「自らを強大な存在に見せてカマをかけたみたいだが、今更その様な事を言って命乞い出来ると思うな……よ………は?」


 それがゴゴにとって最後の言葉となった。

 余りにも呆気なくゴゴを仕留めたクロにギルドマスターも冒険者も言葉を発する事が出来ず、ただ目の前光景をそれが真実であると納得できるまで目に焼き付ける事しか出来ない。


「こちらも大義名分の元その命を刈り取るのであって好きで殺生をしているわけではない……と言いたかったんだがな。所詮は獣の域を脱するまではいかなかったか」

「お見事です、クロ様」


 日本での一般的価値観が未だ強いクロからすれば犬に似た姿、そして会話を出来る物を殺すという事に強い罪悪感を感じ、敵であるにも関わらず他に殺す以外の方法は無かったのかとタラレバを考えていた時ウィンディーネがススススと近寄って来ると賞賛の言葉を投げかけて来る。



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