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第七話 エルフさんと冒険者さん(見習い)とベーコンをのせたガルーダのスクランブルエッグトースト (前編)

「ちょっと、料理人さん!これアンタんとこの子?!」

「ひええ…ごめんなさい!ごめんなさい…。料理人さんは関係ないんです…!」

「ちょ…エルフさんどうしたの?!」


ランチの時間も終わり。そろそろまかないでも食べようかとボウルに卵を割っていたら、急にドアがまるで暴風雨に吹き飛ばされるかのように乱暴に開いた。と、思ったら物凄い剣幕のエルフさんがなにか茶色い巨大な物体を俵抱きに抱えて現れると、そのまますぐに無造作にドサリと荷物を床に下ろす。荷物は「キャッ!」と小さな悲鳴を上げた。…荷物じゃなくて生物?しかも人間?


「エルフさんこれって…?」

「知らない!こっちが聞きたいわよ!」


よく見たら前にうちに来た冒険者さん(見習い)じゃないか。小柄でひどく痩せた少女とはいえ、エルフさんの白く華奢な細腕でよく抱えてこれたなあと思わず感心する。冒険者さんは相変わらずサイズの合っていないボロボロの布の服を着ていて、前に持っていたスライムの体液で青く染まった木の棒は折れてしまっていたのか無くしたのか、ただの拾ったであろう木の枝を腰につけていた。前にかけていたツギハギの古い鞄も見つからない。せっかちなエルフさんによほど乱暴に扱われて怖い思いをしたんだろう。ふるふると震えて涙を流すまいと堪えるように目に涙をいっぱいに貯めた姿は、捨てられた子犬のように見えた。


「あーっ!もう泣くんじゃないわよ!これだからガキは嫌いなのよ!」

「ご…ごめんなさい…っ!」

「だからそのごめんなさいってのやめなさいよ!こっちだって別に人間なんて取って食いやしないわよ!」


「まあまあ、エルフさん落ち着いて。冒険者さんが怖がってるよ。二人共お茶入れるからカウンターに座ってもらってもいい?そこでゆっくり話をしようよ。」


「りょ…料理人さん…!」

「まあ、料理人さんがそういうなら別にいいけど。ほら、アンタも早く座りなさいよ。立てる?」

「ごめ…いえ、こ…腰が抜けちゃって…た…立てない…かもです。」

「もう!ほんっとしょうがないわね…。」


エルフさんは床に転がったままの冒険者さんに手を伸ばすと、そのまま手を引いて抱きとめるようにして起こしカウンターに座らせる。エルフさん、ああ見えて意外と面倒見いいんだな…。エルフさんは小さくため息をつくと、俯いてただでさえ小柄な身体を小さく丸めて座っている冒険者さんの席から、一つ席を置いた横に座った。


「エルフさんミルクティーでいい?」

「す…好きにしなさいよ。」

「冒険者さんはココアにしようか。」

「あ…は…っはい!」


エルフさんにはミルクティーに最適な神族の国のユグラドシルのミルクティーにアルラウネの蜂蜜を入れた甘い紅茶を、冒険者さんには絹糸のように滑らかな食感で知られているマシュマロ蚕の繭を一粒入れた甘いココアをそれぞれ焼き菓子と銀のりんごのジャムを添えて出す。どうやらお金の心配をしているらしく口をつけようとしない冒険者さんに、飲みなよと目で促すと冒険者さんはペコリと頭を下げて両手でマグカップを持って口に運んだ。


「はあ…甘いミルクティーも美味しいわね…。ほんの少しだけバラみたいな香りがして、アルラウネの蜂蜜もフルーティな香りなのに紅茶の風味を邪魔しなくてさらっとした甘さなのに優しい味だわ…。」

「料理人さん、ココア凄く美味しいです!マシュマロがとろっと溶けて凄く口当たりが良くて!焼き菓子とジャムもこんなに美味しいものを食べたの初めてです!特にジャムが甘酸っぱくてさらっとしてて凄く美味しい!」


ようやく二人の笑顔が見られてこちらもほっとする。二人とも何とか落ち着いたみたいだ。


「さ…さっきは悪かったわね。ちょっと乱暴すぎたわ…。」

「いえ、こ…こちらこそごめんなさっ…。いえっ…あ…っ。」


プライドの高いことで知られているエルフという種族の特性上、エルフさんはあまり謝り慣れていないのだろう。恥ずかしそうに赤い顔を背けて冒険者さんに謝る。冒険者さんもさっきエルフさんに「ごめんなさい」と謝るなと言われたせいで、何を言っていいのかわからずに戸惑っているので助け舟を出す。


「冒険者さん、こういう時はありがとうって言ってみたらどうかな?」

「ちょっと料理人さん!余計なこと言わな…。」

「エルフさん、あ…ありがとうございました。起こしてくださって…。それと…トレントから助けてくださって本当にありがとうございました!エルフさんは命の恩人です!」

「はあ…?ちょっ…!別に私…っ!」


長い耳まで真っ赤になって黙りこむエルフさんはいつもの怜悧なほどの美貌と違って、なんだか幼く可愛らしく見えた。


話を聞くと、冒険者さんはどうやらギルドの仕事でいつものように一人でスライム狩りをしているうちに、初心者は立ち入り禁止になっているエルフの森の領土である「迷いの森」に迷い込んでしまったらしい。迷いの森は霧が深く磁気を帯びた鉱物が地層に埋まっているせいで方位磁針も役に立たない。彼女もグルグルと同じところを迷っていたらギルドの教本に乗っていた「森に入ったらまずは木に印をつけましょう。」というのを不意に思い出し、とりあえずスライム退治の途中で折れてしまった木の棒の先で一番大きくて目立つ木に何度も何度も叩き突いて傷をつけたら、それが運悪く普段は大人しいが怒るとやたらと凶暴になる人面樹であるトレントで…ということらしい。


「大きな木の魔物に追いかけられちゃって…もうダメだって時にエルフさんが助けてくれたんです!」

「べ…っ別に助けたわけじゃないし!たまたまエルフ兵が手いっぱいの時に、エルフの領土に人間のガキが迷いこんできたって連絡受けて様子見に来ただけよ!そ…そしたらこの子、『死ぬ前に料理人さんの料理食べたかったな…』とか言うから料理人さんの知り合いかと思って…その…。」

「え…あ‥その…。」


今度は冒険者さんが赤くなる番だった。


※後半に続く

銀のりんごのジャムのレシピ


銀のりんご…お好きな量 砂糖…りんごの重さの約20~25%

レモン汁…適宜


1.りんごの皮を剥き、4等分して芯を取ったら適当な大きさにスライスし、鍋に入れる。


2.りんごの量の20~25%程の砂糖を入れ、黄味がかった白いジャムが良ければそのまま、皮の色のついたリンゴジャムが良ければ皮を入れコンロで加熱する|(リンゴから水分が出ますので水は入りません)


3.水分が出てきたリンゴをまた水分がなくなるまで焦げ付かないように木べらで混ぜつつ煮詰める。


4.水分がなくなってきたら好みの固さで火を止める。皮を入れて煮た場合は取り除き、入れない場合はそのままでレモン汁を入れ混ぜる


5.粗熱が取れたら煮沸消毒した瓶に入れ完成


※ジャムには酸味の強いりんごが向いています。もし酸味の弱いりんごの場合は少し多めのレモン汁をかけて調理します。

銀のりんごがなければ、紅玉など酸味の多いりんごで構いません

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