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第四話 エルフさんとトレントの紅茶 前編

人間の領土である王国と、エルフの森のちょうど国境近く「平和の森」にある私の城…6席ほどのカウンターキッチンだけの小さなレストラン「銀のりんご亭」の名前にはちゃんとした由来がある。といってもたいした理由があるわけでもなく森の中の少しだけ拓けた場所、レストランの軒先に一本だけ銀のりんごの木が立っていたというだけの話。それでも店のトレードマークとしての役目の他にも春は甘酸っぱい香りのする銀細工のような美しい花に、夏は木陰で涼しく。秋には見事な銀のりんごが実り、冬には雪が降って見事に白銀の樹氷になる。見ているだけで一年中飽きることがない。


ここにレストランを建てようと思った理由の一つでもある銀のりんごの木が、最近あまり元気がない気がする。花も例年になくあまり咲かなかったし、葉もいつもの落ち着いたいぶし銀ではなくまるで使い古した硬貨のように黒ずんでいてまばら。


「そろそろ、エルフさんに頼むべきかなあ…。」


森に暮らし、人間よりも遥かに樹木に詳しいエルフさんに連絡を取る。いつも店先で米やトウモロコシを突付きにくる鳥にエルフさんに店に来てりんごの木を見て貰えないかと伝えると、30分もしないうちに戻ってきた鳥の足首に「今から行くから美味しいお茶でも用意して待ってなさい!」と書かれたメモが巻いてあった。相変わらず返事が早い。



「料理人さん!まーたあの女来てたでしょ?あのおっぱいと魔力がバカでかいのだけが取り柄の異世界ハデハデ女!」

「また今日も随分な…って商人さん来てたのよくわかったね。」

「あったりまえでしょ!エルフの魔法感知能力ナメないでよね!」

「別にナメてはないけどね…。」


いつ店に来ても怒っているような気がするなあ…エルフさん。見た目は長く尖った耳に日に透けるような白い肌。輝く金髪のさらさらと長い髪の毛をツインテールにして、エメラルドみたいな眼をした物語に出てくるようなエルフらしいエルフのとても綺麗な女の子なのに。手足の長くほっそりとした華奢な身体に、緑のワンピース状の服にマントを羽織って弓矢を持った伝統的なエルフスタイルが凄くよく似合っている。エルフさんに言わせると普段はもっと女の子らしい綺麗な格好をしていて、今の服装は異種族の領土に行く時の決まりだそうなんだけど。それでも木の弦で髪を縛り、花を挿したその姿はまるで絵画のように様になっている。喋っている声までも高く澄んでいて、まるでエルフが得意とするハープの音色のように美しい。


…これであんなに怒りっぽいのと人間嫌い、特に商人さんへの敵意さえなきゃ完璧なんだけどなあ。まあエルフと人間の間には色々確執があったみたいだししょうがないんだろうけど。


「ま、別にあの女のことなんてどうでもいいけど。で、あのりんごの木ねえ。店に入る前に見たけどもうちょっとで枯れるんじゃない?だいぶ弱ってるし。」

「え…!どうにかならないかなエルフさん…。」


エルフさんはフフンと笑った。長い耳を自慢気にヒクヒクと動く。なんだかウサギに似ているなあ。


「人間って本当にグズね。ねえ、私のこと誰だと思ってるの?とっくにエルフの秘薬と魔力を注入させて治療しておいたわよ。ま、料理人さんの寿命くらいには保つんじゃない?最低でも。」

「ほんとに?!凄いやエルフさん!」

「ば…バカね。おだてたって何も出ないわよ!それよりこのレストラン人手足りてる?最近木の世話まで手が回ってないでしょ。木が泣いてたわよ。」

「あー…まあそれは何も言えないや…。」


図星を突かれて思わず頭をかく。一人でも十分店を切り盛りできるし、人手が足りないって程でもないんだけど。そういえば水をあげたり雑草取りや落ち葉かきをする位で最近あまり木にまで余裕が回ってなかったような…。


「あのね、料理人さんが思ってるよりずっと木は正直よ。あの子…あのりんごの木ね、料理人さんのこと大好きだけど…大好きだから我慢してたけどほんとは寂しいって。料理人さんだって忙しいのはわかるんだけど、ずっと店の中にいないでたまには木陰で昼寝したり本でも読んだりして木と過ごしてあげて。時々話かけるだけでも全然違うのよ。あんまり信心深い方じゃないし説教ぽいこと言うの嫌いだけど、木だって生きてるしちゃんと感情だってあるんだから。」


森に囲まれて鳥や樹とも話ができるというエルフさんだからこそわかるんだろう。何だかりんごの木に申し訳ないな。エルフさんはいつものように声を荒らげることもなく、淡々と静かに話す。エメラルドのような瞳に陰を作る伏せたまつ毛は煙るように長く、あどけなさの残る頬は薔薇色で見ているだけで一日眺めていても飽きないほどに美しい。エルフさんの他のエルフもこんな感じなんだろうか。それともエルフさんが特別なんだろうか。


あまりにもエルフさんに見とれすぎたのか、視線に気づいたエルフさんは唐突に顔を上げた。


「なっ…何よ!人の顔ジロジロ見て。」

「いや、ごめんね。エルフさんってやっぱり凄く綺麗だなあと思って。」

「な…っ!あ…アンタ話聞いてたの?ばっ…バカ!バカでしょ?!」

「うん、時間を作って今度からそうするね。…エルフさんって本当に優しいんだね。」

「っ…!」


我ながら人の顔…特に女の子の顔をジロジロ見るのは確かに行儀が悪かったな。エルフさんは絶句してエメラルドの眼を丸くして固まっている。顔を凝視されてよほど恥ずかしかったんだろう。頬どころか耳まで赤くしてダークエルフならぬレッドエルフかピンクエルフかという程。


「な、何言ってるのよ!も…もう人間ってほんとにワケわかんない!いいからお茶でも淹れなさいよ!せっかく来たんだから。」

「うん、じゃあ最高級のトレントの紅茶があるから少しだけ待っててね。」



※今回は前後編の前編の為、レシピはお休みです。

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