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第十一話 看板娘さんと受付嬢さんと揚げ出し豆腐

「あらー元気しとった?たいがい可愛か格好しとるねえ。ほんと良かったねえ。」

「受付嬢さん、あ…ありがとうございます!」


店に来るなりどう見てもシラフにしか見えないのに方言で喋り出す受付嬢さんに驚いた。長い髪をシニヨンに結ってカッチリとしたパンツスーツに国立ギルドのピンを付け、細いシルバーフレームのメガネをかけた受付嬢さんは、どこから見てもクールで都会的な美女にしかみえなかった。それなのに異世界で言う九州方面だろうか?方言喋りはいつ見ても慣れない。不思議そうに見る私の視線に気づいたのか、受付嬢さんはわずかに赤面して言った。女性に実年齢を聞くのは失礼だろうから聞いたことないけど、推測するに私よりも年上だろう受付嬢さんがまるで少女のように愛らしく見えた。


「あ…あのね。私の住んでるとこと冒険者さん…って今はそうじゃなかとよね、看板娘さんの住んでる所がわりと近かったのよ。だからつい…看板娘さんと話す時は方言というか地が出ちゃって。」

「ああそうなんだ。そのわりには看板娘さんは方言出ないね。」

「あ…あの私…。生まれはその地域なんですけど父母が都の出で…。子供の頃から標準語で育ってきたんです。」


勇者さんと魔王さんが異世界からこの世界に転生する前に、王国で大規模な都会から地方への移住政策があったと聞く。農業や林業、漁業や鉱業など第一次産業の従事者を増やす為の政策だったらしいけど、慣れない仕事や自然災害や冷夏による不作などで自治体ごと破産したり他の自治体に吸収合併されるパターンが多く、かなりの数の貧民層を産んだらしい。その中の一家族が看板娘さんの家族だったのだろうか。


「りょ…料理人さんは方言好きなの?」

「うん、方言喋る子って可愛いと思うよ。」

「な…なんか格好悪くない…?」

「ううん、全然。受付嬢さんの方言可愛くて好きだよ。」


不意に受付嬢さんに質問されて何気なく答えると、まだアルコールは一滴も飲んでいないだろうに、いつもクールな受付嬢さんと思えないほど顔を赤くしてはわはわと「いやあ…好かん…。どうしよ…。」とうわ言のように呟いていた。看板娘さんは「わ…私もちょっとだけなら方言喋れます…!」となぜか言い出すので、無理しなくてものままの方が可愛いよと答えると看板娘さんまではわはわ言い出した。どうなってるんだろ。


「私…料理人さんの前なら…方言でもよか?」

「うん、大歓迎だよ。」

「いや…好かん…って、あっそれ嫌いって意味じゃなかと…。ってまーた呼び出したい。つまらーん!」


受付嬢さんはちょうど異世界で言うところのスマートフォンというんだろうか。掌にすっぽりと収まるほどの大きさの伝達魔法板を取り出すと、模様を指でたどって別人のようにクールな口調でしゃべりだした。


「はい、どうしたの?え?この資料に関しては早朝のミーティングで話したはずだけど聞いてなかったの?300じゃなくて500…まあいいわ。とりあえず明後日までには500ベースでまとめておいて。あと先方から電話が来たら一応貴方で処理してもらっていいかしら?一応貴方も5年勤めてるんだからそれ位の案件なら処理できるでしょ?…え?だったら一回上に通す前に資料の150ページ目を…。」


しばらく仕事の話をした後で伝達魔法を切った受付嬢さんはふう…と溜息をつくとヘアピンを外し髪の毛を解いた。さらりとした長い髪の毛が肩に流れる。


「あー!もう好かん。何もかんも好かん!でもやっと終わったとー。明日休みやけん飲みたかーっ!とりあえずビールくれん?いきなし焼酎でもよかよ。」

「じゃあビールと枝豆と揚げ出し豆腐でいい?看板娘さん、ビールの注ぎ方覚えた?」

「はい!大丈夫です!」


看板娘さんが冷却魔法をかけたビア樽に付けたコックから即席生ビールを注い貰っている間に揚げ出し豆腐を作る。事前に布巾で包み、重石(水を入れたボウルにした)を上に置いて軽く水切りした豆腐を一口大に切る。そして豆腐全体に片栗粉をまぶすと油で揚げる。その間に少量の白マンドラゴラを摩り下ろすと鍋にだし汁とみりんと薄口ショウユを入れひと煮立ちさせたら水溶き片栗粉を入れてとろみがつくまで混ぜ、一先ず火を止めた。そして更に揚げた豆腐を載せ、とろみのついた出汁を注ぐと仕上げに白マンドラゴラと摩り下ろした薬草の根を載せ、マヒ消し草の葉先を刻んだものを添えると揚げ出し豆腐の出来上がり。塩味をつけた仙豆の枝豆と看板娘さんの注いでくれたビールを一緒にだす。


「さあ、ビールと枝豆と揚げ出し豆腐召し上がれ。」

「わー!いただきまーす!」


受付嬢さんは早速ビールのジョッキを手に取るとグビグビと音を鳴らしていい飲みっぷりを見せてくれた。まるでビールのコマーシャルのようにぷはーっ!と息をつくと、枝豆を口にし「塩味が丁度良か~!豆もプリップリたいね!」と嬉しそうにいうと揚げ出し豆腐に箸を付けた。


この世界では箸というものは元々は存在しておらず、フォークやナイフ、スプーンといった異世界言う洋食器しか存在してなかった。勇者さんと魔王さんの戦争が終わって以降、勇者さんの出身地であった「ニホン」の食器であるハシ=箸が急速に広まったのだ。今では上流階級や、ビジネスマン、ビジネスウーマンの間では箸の使い方を覚える事が必須となっているらしい。勿論受付嬢さんは完璧な箸使いの教育を受けているのだが、不思議なことに看板娘さんもまだ冒険者さんだった頃に箸を使ってスライムの煮込みを食べていたし、現に今一緒に食事を取る時も教える間もなく箸で食べていた気がする。何もない田舎と聞いてはいたが、ひょっとしたら彼女も本当はかなり高度な教育を受けていたんだろうか。


「いやあ!何これ?!超うまか~!豆腐がカリッとしとるけど柔らかくて出汁がトロットロでビールなんぼでも飲める~。薬味の白マンドラゴラとマヒ消し草で油っぽくなくてさっぱりして美味しかあっ。」

「白マンドラゴラは消化にいいからね。アルコールと油物はよく合うけど翌日の胃腸の調子に影響でる時もあるからねえ。」

「料理人さんってほんといっつも優しかよねえ。もう好きい!私稼ぐけんお婿さんでもお嫁さんでもいいけんなってえ。」


素で方言なのか、酔っているせいなのか方言で冗談ばかり言う受付嬢さんに苦笑すると、看板娘さんは赤い顔をしてプルプルと首を振った。まだまだ夜は始まったばかりだ。


揚げ出し豆腐のレシピ


※材料 豆腐一丁・片栗粉・だし汁・ミリン・薄口ショウユ・白マンドラゴラ…なければ大根・マヒ消し草…なければ万能ねぎかあさつき・薬草の根…なければショウガ


1.豆腐は布かキッチンペーパーで包み上に重りを載せ水切りしておく


2.一口大に切り、全面に片栗粉をまぶし油で淡いきつね色になるまで揚げる


3.だし汁とみりんと薄口ショウユで出汁を作り水溶き片栗粉でとろみをつける


4.揚げた豆腐を皿に盛りだしをかけ摩り下ろした白マンドラゴラと薬草の根を添え小口切りにしたマヒ消し草を載せて完成


※豆腐をナスやお餅に変えても美味しいです

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