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第一話 冒険者さん(見習い)とふしぎの木の実のジュース

王国郊外の「平和の森」にぽつんと一軒だけ立っているカウンターキッチンだけの小さなレストラン「銀のりんご亭」が料理人さんこと私の城である。世捨て人というほどでもないが街中で暮らすにはあまり不向きな事情もあってここに店を構えている。ワケアリな客も多いしね。

貯蔵庫で今日使う食材の確認をしていると、カランとドアベルが鳴った。この店に来る連中はドアにぶら下がっている「準備中」なんて札誰も気に止めないとはいえ、まだ朝早いこんな時間に客が来るのは珍しい。


「あ…あのおっ…。ここで食材を持ち込むと、料理して頂けるって聞いたので…。えっと…。」


聞きなれない少女の声がした。キッチンに戻るとまだ12~3歳だろうか。暗灰色に近いくすんだ黒髪をナイフで乱雑に切ったような所謂おかっぱにしていて、魔法付与もついていなさそうなただの麻のヘアバンドでまとめ、誰かのお下がりらしい粗末な上に彼女の体格にしてはサイズの大きすぎる布の服をサイズを直すこともなく、古びて黒ずんだ革のベルトで何とか締めている。ボロボロのカバンを肩にかけただけのいかにも冒険者…にしては随分痛々しく見える格好をした少女が戸惑ったように立ち尽くしていた。


剣ではなく警棒のようなただの木の棒を腰につけている所を見ると、まだまだ見習いなのだろう。小柄で不格好な布の服の中で泳げる程に随分と痩せていて華奢というよりも貧相な体つきをしているが、こぼれ落ちそうに大きな目はキラキラと輝いていて強い意思を感じさせる。


「まあ座りなよ。」

「は…はいっ!」


少女は元気よく返事をするとカウンターの真ん中の席に座った。


「なんか飲む?ふしぎの木の実が手に入ったんだけど。ジュースにしようか?」

「いえっ…!持ち合わせがないので水で結構です!」


とんでもないと首を振る冒険者さんに今日はおごりだよと笑う。この年頃の少女だったらオシャレの一つもしたいだろうに、健気な姿が子犬のように見えてなんだかほっとけない。


果物籠からふしぎの実を取る。形は黄色とグリーンのまだら模様でジェリービーンのようなナスのような姿をしたその果物はどちらかといえば生食よりもジュースに向いている。硬いヘタと尻尾の部分を切って

皮を剥き適当な大きさに切って半分をミキサーにかける。冒険者さんはミキサーを見たのが初めてなのか珍しそうに見ていた。


「凄い…果物がこんなに簡単に…これは魔法ですか?」

「いいや、ミキサーって機械でね。すり潰したり砕く時に使うんだ。電気魔法に反応して動くんだよ。」

「へーっ!料理人さんって魔法使えるんですか?!」

「いや、うちのは畜魔法札だよ。常連客が魔法を吹き込んでくれるからね。」

「ど…どっちにしても凄いです!畜魔法札自体がすっごく高いのに。」


異世界から勇者さんが降臨して蓄魔法という術式が編み出されてから、この世界も大きく変わった。電気魔法で灯りがつき冷気魔法で食物の冷蔵や冷凍保存という技術も編み出された。火はもちろん火炎魔法でいつでも好きな火加減で煮炊きできるようになり、風力魔法で室内でも冬は暖かく夏は涼しく暮らせるようになり、異世界の食料や調味料も少しだが入ってくるようになった。いいことづくめのようだが畜魔法に使われる札はだいぶ値段が張り、しかも定期的に魔力を補充しなくてはならないために庶民にとってはまだまだ憧れの品である。


冒険者さんはびっくりして目を丸くしている。無理もない。魔王を倒した勇者さんが姿をくらまして数年、畜魔法や異世界アイテムも高価ながら店で売られるようになったとはいえ、こんな森の中の小さなレストランで木の実を潰す為の機械を動かす魔法札があるなんて確かに思わないよなあ…。


そんなことを考えている間にもジュースになったので、冷気魔法のかかった引き出しからグラスと別のもっと強力な冷気魔法のかかった引き出しから砕いた氷を取り出してジュースを注ぐ。表皮はまだらだけど果肉はマンゴーのような黄色で、少し粘度があってとろっとしているので本当はそのまま飲んだ方が飲みやすいけれど、一応女の子に出すジュースなので太めのストローをつける。冒険者さんへの茶目っ気も含めて千切った薬草を浮かべてストローを挿し『ふしぎの木の実のジュース』完成。


「さあ、召し上がれ。」

「い…いただきます!」


冒険者さんがグラスに触れた瞬間「冷たいっ!」と小さな声で叫んだ。


「大丈夫?」

「ごめんなさい…っ。冷気魔法のかかったグラスなんて初めてで…。」


あえて言わないけどグラス自体には冷気魔法はかかってないけどね。冒険者さんは一口すすると目を丸くした。ほんとに子犬みたいに表情がコロコロ変わる子だなあ。


「お…おいしいっ!これ凄くおいしいですっ!甘いのに酸っぱくて、飲んでるうちに味がどんどん変わっていって!」


ふしぎの木の実の「ふしぎ」の一番の特色は飲む度に味が変わる部分だ。ミキサーやストローで混ぜても飲む度にメロンのような甘みやグレープフルーツのようなかすかな苦味と酸味、マンゴーの濃厚さやりんごのような爽やかさなど、どれでもあってどれでもない正にふしぎの木の実である。さらに不思議なことにその変幻自在の味わいは生食の場合のみで、火を通すと冬瓜のように青臭く味がなくなってしまう性質があるのだ。(それはそれで煮物やスープとして美味しいのだが)そして果実は硬く締まっていて生食だと少し食べ辛くジュースに向いているというのはそういう理由からである。もっとも木の実自体が「砂漠のオアシス」にしか実らないせいでまあまあ値が張るんだけど。


冒険者さんがジュースに夢中になっているのを邪魔するのは悪いと思いつつ本題に入る。


「そういえば持ち込みの食材があるって言ってたね?」

「あ…はいっ!そうです。ギルドの受付嬢さんにこちらで食材を持ち込むと、格安でしかも美味しく調理していただけると聞いたので…。」


見習いの冒険者がよくこのレストランを知ってたなあと思ったら受付嬢さんか。メガネをかけて清潔な白いシャツを着た真面目そうで知的そのものの受付嬢さんの姿を思い出す。あの人ときたら普段はあんなにお堅いのにここに来たらいつも…。おっと話を戻そう。


「持ち込みの食材って何?」

「あの…私まだ駆け出しで…これしかないんですけど…。店の外にあるんでちょっと待っててください!」


冒険者さんが恥ずかしそうに外に出て数秒。抱えてきたのはぷるぷると透き通ったクリアブルーの大きなスライムだった。


ふしぎの木の実のジュースのレシピ


材料…ふしぎの木の実…半分ほど 氷…適宜


作り方

1.ふしぎの木の実のヘタと先の部分を切り落とし皮を剥く


2.半分ほどに切り分け、適当な大きさにカットする


3.ミキサーにかけジュースにし、氷を入れたグラスに注ぐ


※暑い時は砕いた氷と一緒にミキサーにかけスムージーにしても美味しいです。その時は少しシロップか砂糖を入れて甘みをつけた方が飲みやすいかと思います。

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