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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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001 花は山、人は里

  


  001


  【スイ視点】




 「えー、来週はお前たちが楽しみにしてたであろう遠足だが――――」

 「二年の遠足って、山じゃなかったっけ?」

 「まじかよー」

 「山登るのー? だるっ」

 「そういや去年、先輩が言ってたけど何もないとこらしいよー?」

 「それ聞いたことある! ロープウェイ乗って上行くだけで、あとは何もないって!」

 「やだーもっと楽しいとこがよかったー」

 「俺、高所恐怖症なのにロープウェイとか鬼すぎるっしょー!」

  帰りのホームルーム、担任の口から遠足のお知らせが告げられると、教室中から不満の声が漏れた。しかし、

 「何もなくて何がいけないんだー? いいじゃないか! たまには自然の中で友と語らえ!」

  と、担任も負けじと返す。

 「語らうってなんだよー」

 「年寄りくさっ!」

 「あーもう! うるさいぞお前たち! 二年は修学旅行もあるし、予算ないんだよ! というわけで、学級委員! バスの席とか一応グループとか、聞いてまとめといてくれ! 一人になるヤツがいなけりゃ1グループ何人でも許可する!」

 「はーい」

 「はい! じゃあ、解散っ!」

  予算とか裏事情的な本音を漏らしつつも、半ば強引にホームルームを終了させた担任。去年の担任に負けず劣らず、今年の担任もわりと適当……いや、サバサバしてるということにしておこう。



 「オレ、高校からしか通ってないから分かんないけど、遠足って小学生のイメージだったなぁ」

 「俺は姉ちゃんが行ってたから知ってはいたけど、高校生にも遠足あるって初めて知ったときはびっくりした。でもまぁ、授業ないからいいけどさ」

 「去年は近場のテーマパークだったけど、今年は山ってえらい違いだよね」

 「羽舞神山(うぶみやま)だろ? 姉ちゃんのときもそうだったらしいけど、ほんとに何もないってぼやいてたな、たしか」

 「綺麗な自然があるのに、高校生にはちょっと味気なく感じるもんなのかなぁ」

 「景色は綺麗だとは思うけど、それ以外にやることないしな。俺、昔まだばあちゃんが生きてたころ、じいちゃんとばあちゃんに連れてかれたことあるけど、ただ山登ってた記憶しかないし」

 「もったいないなぁ」

 「仕方ないだろ。いきなり山登り行くぞって連れてかれて、わけわかんないうちに山に居たんだから」

 「ふぅん」

  帰り道、わざと遠足の話題を振ってみたけど、イッセーは何も気づいていないみたいだ。羽舞神山って、いかにもなネーミングの山なのに。しかも、ロープウェイの先に神社もあるのに。

  本当にこういうとこ鈍感っていうか……おそらく、山に神がいるなんて考え自体がないんだろうな。

  でもオレは、面白そうだから黙っておくことにした。

 「じゃーな」

 「うん。また明日ー」

  イッセーと別れてから神界に帰ると、

 「おかえり」

  と、ナギが出迎えてくれた。

 「ただいまー。あれ? ナミと茶々丸は?」

 「ああ、ナミは茶々丸連れて羽舞神山に行ってるよ」

 「へぇ! めずらしいね、ナミが出かけるなんて」

 「うん。でも楽しそうに出かけて行ったよ。なんか今年は特に草花が綺麗だから見に来てって呼ばれたみたい」

 「それはよかった。あ、羽舞神山といえばさ、今度学校の遠足で行くことになったんだよ」

 「そうなんだ! 一勢は何か言ってた?」

 「それがさー……全っ然! かけらも気づいてないみたいでさ」

 「それじゃあ、びっくりするだろうね」

  ナギは苦笑いを浮かべた。




  遠足当日――――

 「よーし! じゃ、順番にバス乗れー!」

  学校の前に並んでいるバスに、生徒が乗り込んで行く。

  オレとイッセー、春斗とサキは一番後ろの座席で、通路を挟み横に四人固まって座っている。

  バスが出発すると、行き先に文句は言っていたが、結局は楽しんでいるようで、車内はワイワイと楽しげな雰囲気になっている。

 「ほい、これ!」

  春斗はお菓子のおすそ分けをしてくれるのだが、大量に持ち込んでいるらしく、オレとイッセーの前の備付テーブルもお菓子だらけになっている。

 「春斗、いっぱいお菓子持ってきたんだね」

 「今回は、ちょっと買いすぎてカバンに入るか微妙だったけどなー」

 「そんなに買ったの!? あ、これ美味しい」

 「おーそれなー! 新発売だったから買ってみたら意外とうまかった!」

  通路側にいるオレと春斗が会話をしている中、静かなのが約二名。サキはいつものことだけど、イッセーはどうしたんだろう? と、ふと隣を見ると窓の外を見て物思いにふけっていた。

  オレはしばらくそのまま会話を続けたが、春斗が眠ってしまったあとも、イッセーはまだ外を見ていた。

 「なに見てるの?」

  声をかけてみると、イッセーは一瞬だけオレのほうを見て、また視線を窓の外に移した。

 「え、ああ……高速って周りの景色が山ばっかだなって思って」

 「そりゃあ、高速なんて山を切り開いちゃったとこばっかだもん。もともと山だったところに高速通して、いわば山がむき出しになってる状態だよ」

 「いっぱい木があるように見えるけど、ほんとはもっとあったんだよな」

 「まぁ、そうだね」

 「……これじゃ、キノが嘆くのも分かる気がする」

 「便利になる代わりに犠牲になったものって、計り知れないからね」

 「……そうだよな」

  イッセーは、真顔で遠くの緑を見つめながらつぶやいた。

  ふぅん。今までたいして気にも留めなかったようなこと、少しは気にするようになったんだ。

 「なに? ずっとそんなこと考えてたの?」

 「…………別にっ」

  オレに聞かれたことが、どうやらイッセーにとっては答えにくいことだったようで、ごまかすように春斗にもらったお菓子を食べ始めた。するとタイミング良く、

 『あー、あー……よしっ。えー、あと二十分くらいで着くから、ちょっと寝てるヤツ起きろー。起きてるヤツは近くのヤツが寝てたら起こしてやってくれー』

  という担任の声が、マイクを通して聞こえた。

 「春斗! サキ! もうすぐ着くから起きろってさ!」

  二人を起こすと、わりとすぐに目覚めてはくれたが、

 「んー……もう着いたのかー?」

 「………………」

 「まだだよ。でも、もうすぐだから起きて」

 「んー……分かった」

  春斗とサキは眠気眼で、まだ半分寝ているような感じだ。しかし、担任はそんなことおかまいなしに話し始めた。

 『全員起きたなー? じゃ、一応注意事項を言っておくぞ。えー、まず自分たちだけじゃないから、一般のお客さんに迷惑かけないこと。集合時間は厳守すること。怪我をしたり、気分が悪くなったら先生に連絡すること。えー、それから……登山道には行かないこと。そこまで高くはなくても、山登りの装備を持ってないヤツが気軽に入ると、万が一がありえるからな。山なめんなよー。あと、神社の方に許可をいただいてるから、遠足で境内入れるんだぞ。神様の神域にゴミを置いてくる罰当たりはいないとは思うが、ゴミは絶対に持ち帰ること。とりあえず以上。分かったかー?』

 「「「「「はーい」」」」」

  まばらではあるが、一応返事を返す生徒たち。

 『あー、それとなー、羽舞神山は大天狗の伝説がある山でもあるんだぞー。悪さして祟られても先生知らないからなー。お、もういい時間だな。そろそろ降りる準備しとけよー』

  バスの車内でみんなが荷物をまとめ始める中、

 「羽舞神山って神社あったっけ?」

  と、イッセーがぽつりとつぶやいた。

 「あるよ。たしか遠足のプリントにも書いあったよ。昔行ったときは、山頂まで行かなかったの?」

 「いや、行ったはず。んー、言われてみれば神社があったような……」

 「行ってみたら思い出すかもね」

 「そうだな」

  ……あれ? そこまで聞いといて、そこから何も聞いてこないって……本気で気づいてないんだろうか。そろそろ気づくかと思ってたのに、神社に神がいるっていう感覚ないのかな。前に少し言った気がするんだけどなぁ。っていうか、もうここまで鈍感だと逆に心配になってくるよ。

  


  バスから降りて点呼を取ったあと、一クラスずつロープウェイに乗り込んだ。

 「うおー! すっげー! たっけぇー!」

  ロープウェイが上がるにつれ、春斗のテンションも上がったようで窓にへばりつくように、景色を眺めている。サキはほっこりした顔で景色を満喫している。周りを見れば、

 「おまっ、ばっ、ばかやろー! 押すな! 動くな! 揺れるだろうがっ!」

 「お前怖がりすぎじゃね?」

 「高いとこはマジで無理!」

  高所恐怖症で景色を見ないように縮こまっているのを、友達にちゃかされてるヤツもいたり、

 「わぁー! キレイー!」

 「ねー! あーあ、どうせなら彼氏と来たかったなー」

 「あれー? 真希、彼氏なんていたっけぇー?」

 「う、うるさいなー! これから作るんだよっ。妄想くらいしたっていいでしょー!?」

  景色を楽しみつつ、女の子らしい会話をしていたり、みんなそれぞれに楽しんではいるようだった。ただ、高所恐怖症の人にとっては、たまったもんじゃないだろうけど。

  そして、イッセーはというと、

 「この間の土曜日、バイトしてたんだって?」

 「……アイツ、いらないこと喋ったな」

 「アイツって、五十鈴ちゃんはお姉さんでしょー?」

 「いいんだよ別に」

 「もう、そんなこと言って! っていうか、バイトするって教えてくれたら冷やかしに行ったのにー。今度するときは教えてよ」

 「絶対教えねーし」

 「あーいいもん! 五十鈴ちゃんに聞くから!」

 「聞くな」

  クラスメイトで幼馴染みでもある葉山さんに話しかけられていた。

  オレにとっては見慣れた景色なため、景色ではなく内側を向いて周囲を観察していると、

 「ねぇねぇ、スイ君!」

  と、クラスの女子が三人、オレの目の前にやってきた。

 「ん? どうしたの? あ、カメラ? 撮ろっか?」

  一人が手にカメラを持っていたため、そう尋ねると、

 「ううん。えっとね、一緒に撮ってほしいなーって思って!」

  と、その子は一度首を振って、照れることなく堂々と言い放った。なんとなく言われることは予感していたけど、ここまで堂々と言われるといっそすがすがしい。

 「いいよ。オレでよければ」

 「うん! スイ君がいいの!」

  というわけで、オレは三人とそれぞれツーショット写真を撮った。

 「……スイお前、ほんと何なの」

  春斗は先ほどの出来事を一部始終を見ていたらしく、すねたような声でつぶやいた。

 「いや、お前がモテるのは今に始まったことじゃない。でもなんか気づいたらスイは女子と楽しく写真撮ってるし、それどころかイッセーまで、幼馴染だとはいえ女子と話してるし! なにそれっ!」

 「なにそれって言われてもねぇ……」

  若干すね気味の春斗への対応を考えていたら、

 「…………もう着くぞ」

  と、サキがぼそりとつぶやいてくれたおかげで、春斗の気がそれたみたいでよかった。



  ロープウェイを降り、少し長めの階段を上ると大きな鳥居が見えてきた。さすがにここまで来たら、何かには気づくだろう。

  鳥居の両柱の奥に各二十人ずつくらい和服の人がずらっと並び、鳥居をくぐる人間をただ無表情で見つめている。それに木の上や、神殿の前などいろんな場所に同じような人が何人か立っている。彼らが人ではないことくらい、たぶんイッセーにも分かるだろう。

 「神社の鳥居って、くぐるとき一礼するんだって! あと真ん中も通っちゃいけないみたい」

 「あーそれ知ってるー」

 「えーそうなの?」

  前のほうにいた誰かがそう言い出し、みんなわりと鳥居の前で一礼し始めた。たしかに神社の参拝の作法としては正しい。結構知らない人も多い中、誰かがそういうこと知ってると、少しうれしいような気持ちになる。

  イッセーは鳥居をくぐる前から不思議そうに和服の人を見ていたが、鳥居の前に来て、前にならって一礼して鳥居をくぐると一瞬、体を硬直させた。

  理由はこれだ。和服の人たちは誰が入って来ても無表情で立っていたのに、イッセーが鳥居をくぐった瞬間に、みんなが一斉に深々とお辞儀をしたからだ。この荘厳な光景に圧倒されたんだろう。

 「この人たちは、ここの神の式神だよ」

 「えっ」

 「あとで詳しく教えてあげるよ」

 「……うん」

  イッセーは少し肩をすぼめながら、頭を下げている式神たちの間を通り抜けた。


  

  それにしても今日、ちょっと数多いんじゃないかな?

  オレは周りにいる式神たちを見て、いつもと違う違和感を拾った。






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