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009

  009



 見上げた先に誰か座ってるような人影が見えたが、逆光ではっきりとした姿は確認は出来ない。屋根の上の人影は、ふっと立ち上がったかと思えばいきなり屋根から飛び降りた。

「えっ!?」

 そのまままっすぐ地面に落ちたら、安全に着地なんて出来るはずがない高さから落ちてくる人影に、俺の体は思わず強張りった。しかし次の瞬間、人影は大きな翼を広げふわりと舞い降りた。その人物が地面に足を着いたと同時に地面に落ちた朱い羽根たち。

 その羽根の後ろに草履を履いた足と白っぽい着物の裾が見えた。足元から上にたどっていくと朱い翼と、見慣れた朱い髪が俺の瞳に映った。


「………………スイ?」

「ピンポーン! っていうか、イッセーお前っ、静かに動揺しすぎっ!」

 確かに俺は元々あまり感情を外に出すタイプではないが正直、内心動揺しまくっていた。俺を見て笑っているスイに図星を突かれ、少し恥ずかしさの混じったような悔しさを感じた。

「……ん? あれっ? なんでスイがここにいるんだよ!?」

「なんでって、オレ人間じゃないから」

 スイは自分で自分の翼を指さしてから翼を閉じた。

「……見たらわかるけど、でも」

「この羽に見覚えは?」

 スイは地面に落ちていた自分の羽根を拾い、ひらひらと振っている。

「それは……」

 見覚えがありすぎる朱い羽根。俺はそれを取ろうとして池に……

「ちなみにこの羽根取ろうとしたイッセー突き落としたの……オレだよ」

「はあ!?」

「だってオレの役目だから仕方なかったんだもん」

「だもんじゃねぇよ。何してくれてんだ!」

「オレ、神使だからね」

「……ナギとナミの?」

 ああ、そっか。神様が二人いるから神使も二人いるのか。

「ううん。イッセーの」

「…………は?」

「だーかーらー! オレは全知全能の神の神使、つまりイッセーの神使です。オケー?」

「はあぁぁぁぁぁ!?」

 今日一番の叫び声をあげた俺。スイは何事もなかったかのようににっこりといつもどおりの笑みを浮かべている。


 毎日学校で会っていたスイが、実は神使だったなんて。あっさりと俺が全知全能の神の生まれ変わりであるという真実を告げたナギに続き、またもあっさりと衝撃の真実を告げた友人、もとい神使。余計わけが分からなくなりそうだ。



「あのさ、取り込み中悪いけど……僕たちそろそろ仕事があるから。別にそこに居てもらってもいいんだけどビックリするかなって思って」

「もうそろそろ時間か。イッセーちょっとこっち来て」

 スイは空を見上げたあと俺の腕を掴み、神殿の屋根の下まで移動した。茶々丸も俺たちと同じ場所へ移動してきた。


「……何が始まるんだ?」

「二人の神様としての仕事だよ」

「仕事?」

「見てれば分かるよ」

 混乱中の俺はまだ何も分からないまま、ただナギとナミを見ていることしか出来なかった。


 神殿の前の広いスペースに残ったナギとナミ。

 ナギは帯に差していた笛を取り出し、そっと口をつけ指孔が赤い横笛を吹き始めた。なめらかに跳ねる指先。穏やかな曲調でのびやかに澄んだ音色を奏でている。何もかも忘れて耳を傾けたくなるような音色だが、ゆっくりと耳を傾ける間もなく俺の瞳が違和感を拾った。

 辺り一面が、まるで反射した水面が波打っているような景色。俺はふと空を見上げて驚愕した。

「なっ……なんだよ、これ……」

 天と地が入れ替わったように水面が波打っている空。しかしそれだけではなく、その水面にはたくさんの人の顔が映っていた。年齢も性別も異なり、表情やそこから感じ取れる感情も様々だ。

 自分のことしか考えてなくて、欲にまみれて、汚くて醜い顔。その中に少しだけ混ざっている嘘偽りのない笑顔や心から嬉しそうな顔。圧倒的に前者が多いせいか、嫌でも目に入ってしまう醜い姿。それでもなぜか目を反らせなかった。


 そのうちに水面が激しく波を打ち、水面に映っていた人々の顔がグニャリとゆがみ始めた。もはや何が映っていたのかも分からないくらいに波打っている水面。少し不安になった俺はナギとナミを見やったが、ナギは笛を吹き続けナミはまだ何かをする気配はない。

「スイ、これ大丈夫なのか?」

「…………来る」

 スイが呟くのとほぼ同時に、ナギの笛の音が大きくなり少しテンポが上がった。そこでようやくナミが動いた。

 ナミは懐から金色の煌びやかな扇子を出し、白い手で一気に扇子を開いた。そのまま扇子を水面に向かって振り上げると、水面から一斉にひらひらと何かが降ってきた。

「なに、あれ?」

形代(かたしろ)だよ」

 スイの言うとおり、ゆっくりと不規則な動きで降ってきたのは、人の形を型どった形代だった。白い形代と黒い形代は交じり合うように揺れ、紙がこすれあう音を出しながら地面に向かってきている。

「白が善で、黒が悪。人間の行いはどんな形であれ、いずれ自分に(かえ)っていく」

 形代が俺の目線の高さあたりで揺れていると、ナミが扇子を振り舞い始めた。ナギの笛の音に合わせてなめらかに舞うナミ。ナミの扇子の動きに合わせて動くたくさんの形代。

 そしてナミが再び扇子を水面に向かって振り上げると、上に向かって突風が吹いた。上へ向かいながら花びらに変わる形代は、引き寄せられるように水面に戻っていった。色とりどりの花びらは水面に引き込まれ泡になって消えた。

 すべての花びらが水面へ帰ると空はいつもの姿を取り戻し、強い花の香りが鼻をかすめた。


「お疲れ様ー」

 スイがナギとナミのところまで歩いて行き、二人に声をかけた。

「ありがとう……それよりスイ」

「………………」

 何かを促すようにスイに視線を送るナギと、無言のまま同じようにスイを見ているナミ。

「分かってるよ…………オレと大事な話、しよっか」

 スイは振り返って俺を見ると、ふっと笑顔を作った。

「え!?」

 これ以上、なんの話があるっていうんだ。

「じゃ、あとよろしくー」

 ひらひらとナギとナミに手を振るスイ。

「うん。僕らはここで待ってるから」

 ナギは笑っているがどこか悲しそうにも見えた。


 なんとなく気になったが、ついて来いと言わんばかりの視線をよこし、神殿へと歩き出したスイの後を追うため、俺はしぶしぶ足を進めた。




 

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