008
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風が凪いでも俺の視界は不安定で、自分がまっすぐ立てているのかどうかも分からなかった。音は何も聞こえない。
ショックを受けた、というよりただ思考能力がついていかなくて必死で追いかけている状態だった。俺の引き出しには答えなんてあるはずもなく、理解しようにも現実味がなさ過ぎて思考回路は同じ場所を何度も行ったり来たりしている。
ナギとナミは神様で、茶々丸は神使。
ナギとナミは全知全能の神の力の一部で、一番最初に切り離されてて、
全知全能の神は三千年前に消えてて、
生まれ変わった自分に全知全能の神に戻れる力を残してて、
その生まれ変わりが全知全能の神に戻ったら、跡形もなく世界は消えて、
………………それを決めるのが、俺? 全知全能の神の生まれ変わり?
全知全能ってことは、何でも知ってて何でも出来るってことだよな?
俺は何かで一番になったこともなければ、ビリになったこともない。
良く言えば普通、悪く言えば中途半端。勉強もスポーツもルックスも、すべてにおいて平均値前後だと思う。
けど世の中、そんなもんだろう。普通の人が大体を占めている。だから俺は普通でいることに不満もなかったし、上に行きたいとも思わなかった。普通が一番ラクだ。そうやってどこかで学んで、適当に生きてきたんだ。
それなのに……
そんな俺が、全知全能の神の生まれ変わりなんて…………どうやって受け入れろっていうんだ。
「おい、ナギ。お前あっさり言い過ぎたんじゃねぇのか?」
茶々丸がナギの隣でボソッと零した。
「そうかもね」
「そうかもじゃねぇよ! 固まってんじゃねぇかコイツ。どうすんだよ」
「うん……でもこれくらいでへコたれてたら、これからやっていけないでしょ?」
「ま、そりゃあそうだな」
「でしょ……さて、僕らの仕事はここまでかな?」
ナギは神殿の屋根を見上げた。
もちろんナギと茶々丸の会話なんてまったく耳に入ってこなかった俺は、相変わらず立ち尽くしていた。
そのとき突然、首にほんのわずかな重みを感じ一気に俺を現実に引き戻した。現実に戻ると最初に見えたのはナミの無表情な瞳。ふと目をやると俺の首には細かい花で作られた首飾りがかかっていた。いろんな色の花で作られた首飾りはとても綺麗に作られていた。
ナミの斜め後ろにいたナギは一瞬驚いた顔をして、そのあとふわりと笑った。
「……これ、俺に?」
俺が問いかけると、ナミは無表情のまま頷いた。
「あの、えっと……」
俺が言葉を探しているうちに、ナミは俺の前から無言で離れていった。
俺は、残った気まずさをごまかすように首飾りを触った。
「あっはっはっはっは!!」
静寂の中、盛大な笑い声が響いた。
ナギでもなく、ナミでもなく、茶々丸でもない。だけど、どこかで聞いたことのある声。
周りを見回しても誰もいない。
「ほらね」
ナギが神殿の屋根の上を見上げて笑った。
俺もつられて上を見上げると、朱い羽根が数枚ひらりと舞っていた。