表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の水鏡  作者: 水月 尚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/226

008

 


 008



 前方と後方から吹く不穏な風の狭間で、ひたすら同じ動きを繰り返す俺。

 とにかく、まずこの橋を作るのを、早く終わらせよう!

 そう思い、釘を打っているのだが、キョウとレンカが来てから、この緊張感がそうさせるのか、わりとスムーズに打てている。その点に関してだけ見ればいいのだが、

「あなた、そんなところにいたら、一勢様の手元が暗くなって危ないですわよ!」

「大丈夫よぉ。それよりレンカの羽衣のほうが、ひらひら動いて邪魔くさいと思うわぁ」

 と、相変わらず、口を開けば口喧嘩。そしてそのたび、俺を挟む不穏な風が増す。

 なんとかならないものか……

 とげとげしい空気の中、一人悶々としていると、ふと威圧感がなくなったことに気が付いて、俺は顔を上げた。


「まぁ! なんですのー!」

「いきなり、どうしたのぉ?」

 少し離れたところにいた真白が、いつの間にかここまで来ていて、レンカとキョウの腕を掴んでいた。

「ここにいると作業の邪魔だから、あっちで見ていればいいだろう」

 真白は木の陰になっている、人が五人くらい座れそうな大きな岩のほうを、顔を動かして場所を示した。

「いやですわ! ここがいいんですもの!」

「そうよぉ。だって、一勢君が見れないじゃない」

「あそこからでも見えるだろう。それに……この日差し、お肌に悪いぞ。紫外線を浴び続けて、シミやソバカスが出来てもいいなら、無理にとは言わないがな。しかし、そんな姿を、最愛の殿方に見られるとなると――――」

 真白がそこまで言うと、一瞬、ムンクの叫びのような顔をしたレンカとキョウは、我先にと木の陰に向かった。

「わ、(わたくし)、ちょうど足が疲れてきてましたの!」

「そ、それは、私も同感だわぁ」

 どもりながら、何事もなかったように装っている二人を見て、真白は短いため息を吐くと、

「とりあえず、邪魔くさい二人は移動させたから、がんばってくれ」

 と、真白は二人の元へ向かった。

「真白も考えたなー」

 スイは、感心したように手をあごに当てながら、ちらっと真白を見た。

「っていうかさ、神様にシミとか出来んの?」

「出来ないよ」

「じゃあ、ウソだったんだ」

「この場合は、ウソも方便でしょ。っていうか、そもそも神界に紫外線なんて存在しないけどね。人間界のあれはある意味、人間が増やしちゃったようなもんだし」

「……へぇ」

 たしか前に、紫外線はオゾン層が破壊されてなんとかって、授業で聞いたような、テレビで言ってたような……詳しい仕組みも、どこで知ったかも曖昧だけど、ろくなことしないな人間って……人間である俺が言えたことじゃないから、言わないけど。

「あ! オレたちもそろそろ手動かそっか」

 スイは横を向いていて、何かに気付いた様子だったので、俺も自然と同じほうを見ると、

「鋼守早っ!」

 反対側から板を張り付けていた鋼守は、もう橋の半分くらいの位置を超え、こちらに近づいてきていた。それを見て、俺とスイも作業を再開した。



 しばらくして、無事に橋は完成したのだが……

「俺、ほとんど何もやってないような気がするんだけど、こんなんでいいのか?」

 俺はおそらく、この橋の三分の一ほども板を張っていない。しかも土台だってスイと鋼守が二人で作っている。

「いいんだよ。ちょっとでもアンタの手が加わってれば、キョウは文句言わねぇよ」

「そうだね。それに橋作り初心者に、そこまでのクオリティは求めてないと思うよ」

「……ならいいけど」

「あいつら呼んでくっか」

 そう言って、鋼守はキョウたちを呼びに行った。

 俺は、少しドキドキしながら待っていると、そう離れた場所にいたわけではないため、鋼守を含め四人はすぐに来てしまった。

 橋を見て、第一声を発したのはキョウで、

「素敵な橋ねぇ」

 と、嬉しそうに目を細めた。

「当然ですわ! 一勢様が作られたものですもの!」

「どうしてレンカが自慢げなんだ」

 真白の言うとおり、腰に手を当てて自慢げな様子のレンカと、そんなレンカを見て呆れたような顔をしている真白。

「え、でも……ここにある橋、みんな立派なのにこんな素朴な感じの橋でよかったのか?」

 俺は、思った以上の反応に少し驚いて、率直に思ったことを聞いてみた。

「いいのよぉ。橋は、立派ならいいってものじゃないものぉ」

「え?」

「その景観にあった橋じゃなきゃ、一体感がないものぉ。この橋を架ける渓谷は、周りに自然のものしかなかったでしょう? だからそんなに派手さはいらないわぁ」

「そういうもんなんだ」

「そうよぉ。見れば分かると思うから、さっそく橋を架けましょうかぁ」 「え、架けるって……」

 結構長さもあるし、重そうなこの橋を、どうやって運ぶんだろうか。

 しかも、橋を架けるのは崖の下だし……まさかとは思うけど運ぶなんてことは……

 そんなことを考えつつ、周りを見ても誰も動く気配はない。

 不思議に思っていると、一番見て分かる動きを見せたのはキョウだった。キョウはおもむろに、手のひらを出して上に向けると、そのまま自分の頭の高さくらいまで手をあげた。

「っえ!?」

 次の光景に、俺は思わず後ずさった。

 俺が、首を真上に上げないと確認できないくらい高くまで、軽々と橋が浮いたのだ。そして橋はそのまま、渓谷の間に入っていった。

 今まで橋があった場所には、橋を作るのに使った道具だけが、無造作に置かれていた。俺は、ほんの一瞬の出来事に、呆然としていたが、

「さぁ、見に行きましょうかぁ」

 という、キョウの一言で我に返った。



「おー、結構いい感じなんじゃない?」

「これなら上出来だな」

 少し先に着いて、橋を見たスイと鋼守。

 俺も崖の上から、そっとのぞいてみると、さっき作っていた橋がちゃんと架かっていた。

「ねぇ? 言ったでしょう?」

 そう言ってキョウは、得意げに笑った。

 確かに、ちょっとしょぼく見えた橋が、見事に渓谷に溶け込んでいた。ほとんどスイと鋼守が作ったようなもんで、俺はあんまり手伝えなかったけど、それでも少し、達成感に似たような感覚を覚えた。

 それと同時に、安堵感もあり、俺はもう完全に帰れると思っていたのだが……

「あとは渡るだけねぇ」

 と、キョウがつぶやいた。

「…………渡る?」

 まさかとは思うけど、もしかして俺も?

「いつもは私だけど、この橋は完成したら、一勢君を一番に渡らせてあげようって決めてたのぉ」

 そんなサプライズいらなかったっ!

「だいじょーぶだいじょーぶ。落っこちたら拾ってあげるから」

 崖の下の橋を見て立ち尽くしていた俺に、そう軽々しく言い放ったスイ。

「拾うって何だよ! あれ、絶対やばいやつだろ」

 崖の上も少し風が吹いているが、崖の下は、さらに風が吹きすさんでいるように見える。しかし、キョウに断りを入れるのは無理だ。それこそ何が起こるかわからない。


 橋を作って架けて終わりだと思っていた俺が甘かったのか。どうやら、最後の最後にとんでもない任務が残っていたようだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ