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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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「ほぉ……これ、全部一勢が作ったのか?」

 じいちゃんは俺が、というよりほとんどミコトと佐波に手伝ってもらいながら作った夕飯を見て感心していた。

「う、うん。携帯とかで調べられるし……」

 二人のことはじいちゃんには言えないので仕方がないのだが、俺が手柄を横取りしたみたいで、なんだか後ろめたい気持ちになった。

「そうか。今は便利なもんがあるんだなぁ」

「まぁ、うん……ちょっと時間かかったけど、たぶん味も大丈夫だと思う」

 味付けもほとんどやってもらったし……

「それじゃあ、せっかく作ってくれた料理が冷めないうちに、いただこうかの」

「うん」

 じいちゃんは、手を合わせてから箸を持って料理を口に運ぶと、「美味しい」と言って頬を緩ませた。今、目の前にある料理は、自分一人で作ったものではないが、じいちゃんの笑顔を見て俺は少しうれしくなった。



「ごちそうさま」

 ご飯を食べ終わったじいちゃんは、お皿を重ね始めた。

「あ、じいちゃん! 夕飯ちょっと遅くなっちゃったし、俺が片付けとくから風呂入ってきていいよ」

「そんな気使わんでいいぞ? それに片付けまで頼んじゃ悪いしなぁ」

「そんな気使ってるわけじゃないから大丈夫だよ」

「じゃあ、台所まで持ってくから、あとは頼んでもいいか?」

「うん」

 もちろん、俺が片付けのことまで、気を回せていたわけがない。料理が出来上がって、ちょっとした達成感に浸っていた俺に、「片付けるまでが料理だよ! 片付け方も教えてあげるから、食べ終わったら食器を持って戻って来るんだよ!」と、ミコトに言われたのだ。

 じいちゃんが部屋を出たあと、俺も自分の食器を持って台所へ向かった。

 正直、料理で疲れたし片付けが一番めんどくさいな、と思いながら台所へ入ると、

「おかえりー! あ、その顔は、片付けがめんどくさいと思っていた顔だね!?」

 と、相変わらず、無駄にテンションの高いミコトが待ち構えていた。

「ミコト様、うるさいです。黙ってください」

「はっはっは! 怒られてしまったよー!」

 怒られたと言いながらも、まったく意に介していない様子のミコトを横目に、俺は食器を流し台に置いた。そのすぐあとに、横から佐波の手が伸びてきて、

「まず、食器は水に浸けてください。特にご飯粒は乾いていると、取れにくいので」

 と、食器が浸かるように水を出した。

「じゃあ、その間にご飯だね!」

「ご飯?」

「白米は炊くのに時間がかかるので、明日の朝の分も炊いておきましょう」

 ……そうだった。すっかり忘れていたが、母さんが来るのは明後日だし、今日の分だけじゃなかった。

「さぁ! では今から、お米を研ごうか!」

 そうは言われても、当然ながら料理初心者の俺は、お米の研ぎ方も炊き方も分からなくて、また一から教えてもらった。

 そしてお米を洗うときに米粒をちょっと流してしまったり、研ぐときに力を入れすぎて注意されたりしながらも、なんとかお米を研いで炊飯器にセットすることが出来た。


「次は、お待ちかねの片付けだよ!」

 ホッと一息ついたのもつかの間、次は洗い物が待っていた。

 洗い物の仕方はなんとなく分かってはいたが、普段まったくしないので、自分でやってみるとスムーズにはいかなかった。

 洗剤を付けすぎて流し台が泡だらけになるわ、そんなに洗剤付けたにも関わらず、ちゃんと汚れが取れてなかったり……

 俺がすごい苦労してなんとかやりきったことを、毎日ささっとやってしまう母さんってすごいな、と初めて思った。母さん本人にはそんなこと言えないけど。

 慣れないことをして、疲れ果てて机に突っ伏していると、ミコトが俺の頭の横にお茶を置いてくれた。

「お疲れ様。どうだい? 初めての料理の感想は!」

「…………つかれた」

「まぁそうでしょうね。でも、初めはきっと誰でもそうですよ。私もそうでしたし」

「それに、前世の君は僕を創り出してから、まったく料理ができなくなってしまったけど、今の君は人間だからね! やればそれなりに出来るようになるさ! 食というのは、生きとし生けるものにとって必要不可欠だけど、食材を料理するのは人間だけだからね!」

 そうミコトが言った言葉の一部分が、俺の中で引っかかった。

「……できなくなった?」

 ミコトは俺のその一言で、俺の疑問を察したようで、すぐに答えてくれた。

「ああ! もちろん僕を創り出す前はできていたんだよ! だけど、前世の君は神を創り出すたびに、一つずつ力を無くしていったんだ。聞いてなかったのかい?」

「いや……聞いてたけど、そういうことは知らなかった。でも、考えてみたらそうだよなって、今思った」

「うんうん! そうやって一つずつ知っていくのも、人間の醍醐味だよね!」

 ミコトは一人で納得したように、うなずいていたが、俺は言っている意味がよく分からなくて、少し眉をひそめた。


「あの、話の途中すみませんが……また明日もありますし、そろそろ休んだほうが良いのでは?」

「もうこんな時間になっていたんだね! 僕らはいいけど、君は明日も慣れない料理をしなくちゃいけないから、早く休んだほうがいいね!」

 ふと時計を見ると、二十二時半を過ぎたところだった。春休み中だし、いつもなら余裕で起きている時間だが、さすがに今日は疲れたし、明日もある。考えていたら一気に疲れてきた。

「……もう風呂入って寝る」

「明日、起こしに行きましょうか?」

「たぶん大丈夫」

「僕が添い寝してあげようか?」

「いらない」

 俺が台所から出るために、ドアに手をかけると、

「あーそうそう! 一つ言い忘れていたよ!」

 と、ミコトがわざとらしく大声を出して引き留めた。

「……なに?」

「明日、ちょっと僕らの散歩に付き合ってくれないかい?」

「散歩? まぁ別にいいけど……あ、でも、午前中はばあちゃんの病院行くって言ってたから、昼からでもいい?」

「かまわないよ! ここの近くの山に行きたいだけだからね!」

 ミコトがそう言うと、佐波は一瞬ハッとした表情を見せた。

「なるほど。散歩の意味が分かりました」

「……変なとこじゃないだろうな」

「ふっふっふ。明日になれば分かるさ! さあ今日はもう休みたまえ! おやすみー!」

 ミコトは、疑いの眼差しを向ける俺の背中を押し、俺はそのまま廊下に出された。

「無駄にもったいぶっているだけなので、気にしないでください。では、また明日。おやすみなさい」

「…………おやすみ」

 まだ疑いは残るが、半ば追い出されるように台所から出され、はぐらかされた。気にはなるけど、今は考える気力もなく、俺は廊下を歩き始めた。


 そのあとお風呂から出て、喉が渇いたので何か飲もうと台所に行ったが、二人の姿はなかった。




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