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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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 俺は今、湯呑みを片手に、じいちゃんとテレビを観てくつろいでいる。

 じいちゃんの家は、木造平屋建ての古民家で、俺が住んでいるところにはない古風な趣きがある。昔はなんとも思っていなかったが、今は神界の神殿を見ているせいか、こういう雰囲気が少し落ち着くようなになった気がする。

 ……なんか俺まで、じいちゃんになった気分だ。

 俺とじいちゃんは、同時に机に湯呑みを置いた。そのあとじいちゃんは、

「すまんかったなぁ。バス停まで迎えに行ってやろうと思っとったんだが、ばあちゃんのとこ行ってたからなぁ」

 と、申し訳なさそうな声で話し始めた。

「いいよ別に。ちゃんとここまで来れたし。ばあちゃん大丈夫なの?」

「ああ。たいしたことないから、多分二、三日もすれば戻ってくるぞ。今日、一勢が来るって教えてやったら、早く帰りたいってぼやいとったわ」

「そっか。入院してるけど、意外と元気そうでよかった」

「ほんとにな。それより一勢こそ、全然顔見せんかったが、元気にやっとったんか?」

「え、うん、まぁ」

「そうか。それにしても、まさか一勢が来てくれるとは思わんだなぁ」

 じいちゃんは、うれしそうに目を細めた。

「……ちょうどみんな忙しくて、俺、暇だったし」

 俺は、なんとなく後ろめたい気持ちになって、少しだけ目をそらした。

「みんな元気にやっとるようで何よりだな」

「……うん」

 最初は、じいちゃんと二人で何を話したらいいんだろう? と思っていたが、話してみると案外、話題は何かとあるもので、しばらく他愛のない話をしていた。



 少し外がうす暗くなってきたころ、インターホンが鳴り、じいちゃんが対応しに行った。俺はトイレに行くため廊下に出ると、玄関でじいちゃんと、ここに来る途中、道を教えてくれたおばあさんと知らないおじいさんが話していた。

 おばあさんと目が合ったので、軽く会釈をすると、

「やっぱりここのお孫さんやったんねぇ!」

 と、元気な声で返してくれた。

「ミネさんとどこかで会ったのか、一勢?」

「うん。道教えてもらった」

「そりゃあ、迷惑かけてすまんかったなぁ」

 そう言って、じいちゃんが謝ると、

「いいのいいの! 気にせんで!」

「こっちこそ、可愛いお孫さんと水入らずのとこ悪かったねぇ」

 どうやら夫婦らしいおばあさんとおじいさんは、人のいい笑顔で笑っていた。


 突然の来訪者が帰ったあと、じいちゃんはネギなどの野菜が飛び出したビニール袋とタッパーを、少し重たそうにしながらも運ぼうとしていた。

「じいちゃん。俺持つよ」

「おお、すまんな」

 じいちゃんから受け取ったビニール袋は、俺が持っても少し重く感じた。

「こんなにたくさん野菜もらったの?」

「もう都会じゃめずらしいか? このへんじゃ、昔っから自分とこの畑で作ったもんを近所にお裾分けしとるんだ」

「俺が住んでるとこも、そんな都会ってわけでもないけど……こういうのそんなにないかも。たまに畑やってる近所のおじいさんが、採れた野菜くれたりするくらいかな」

「若者は、あんまり畑仕事はやりたがらんからなぁ」

 確かに、俺の知る限りでも畑やってる人で若い人ってあんまりいないかも。テレビでは見たことあるけど……

 俺とじいちゃんは台所のある部屋に入り、机にもらったものを乗せた。

「これはうちの畑で採れた野菜だぞ」

 じいちゃんは台所に置いてある自家製野菜を、少し自慢げに見せてくれた。玉ねぎやキャベツ、アスパラなど野菜がたくさんあった。

「こんなにいろんな野菜作ってたんだ!」

「畑やってるうちにどんどん種類が増えてしまってな」

「へぇ」

「お、もうそろそろ晩飯の準備をする時間だな」

 俺の後ろにある時計を見て、じいちゃんがそそくさと先ほどもらった野菜を出して分けていた。

「一勢は何か食べたいものはあるか?」

「え、俺は別になんでもいいよ?」

「ここはほとんど野菜しかないしなぁ……冷蔵庫にばあさんが買ってきてた肉か魚があったが……」

「じいちゃん、昨日ご飯どうしてたの?」

「昨日は前の晩の残りもんがあったから、それで食ったぞ」

「……じいちゃん、料理出来んの?」

「んー……だいぶ久方ぶりだが、なんとかなるだろう!」

 そんなポジティブに言ってるけど、確実に出来なそうな予感しかしないんだけど……

 しばらくじいちゃんの動きを見ていたが、包丁が出てきた瞬間、危なっかしくて見ていられなくなって、俺は覚悟を決めた。

「…………じいちゃん。俺が作るから、ゆっくりテレビでも見てて」

「一勢、料理出来るのか?」

「たぶん」

 料理は調理実習くらいしか経験ないけど……携帯もあるし何とかなるだろう。

「本当に大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ」

「なら任せようかのぅ。あ、ご飯はさっきもらった豆ごはんがあるから炊かなくても大丈夫だぞ」

「豆って……何の豆?」

「枝豆だそうだ。豆は嫌いか?」

「う、ううん。平気」

 グリーンピースじゃなくてよかったー!

「じゃあ、すまんが頼んだぞ」

「うん。出来たら持ってくから」

 じいちゃんが台所から出ていくのを見送って、俺はポケットから携帯を取り出した。



「ご飯はあるし……まずは味噌汁だな」

 俺は一人でつぶやいてから、携帯で検索してみた。しかし検索結果が映し出された携帯を見て、俺の思考回路は凍結しかけた。

 味噌汁くらいは作れるだろう、なんて簡単に思っていた俺が甘かったようだ。

 まず、出汁(だし)って何……

 俺はいろんな場所を漁って、出汁とつく調味料を出してみた。だし醤油、白だし、だしの素、中華だし……どんだけあるんだよ。

 とりあえず、中華だしは除外だな。あとは……

 考えてみても全然分からない。母さんに電話して聞くという手もあるが、普段何もしない俺が、料理をしようとしてることを知られるなんて、こっぱずかしくて出来ない。身内は無理、かと言ってスイに聞くのもなんか癪だ。




「お困りのようだね! ここは僕の出番かな!?」


 調味料とにらめっこしていると、いつの間に入ってきたのか、目の前に知らない男が立っていた。紺色の着物にたすきをかけ、軽くまとめた長い髪には、箸を(かんざし)みたいにして挿している。

「そうだ、自己紹介がまだだったね! 僕はミコト、料理の神様さ!」

 勝手に自己紹介を始めた、妙にテンションが高く少しうるさい男を見ながら、ぽかんとあっけに取られていると、

「ミコト様、完全に引かれてますよ」

 と、淡々とした声が聞こえ、ふとミコトの後ろを見ると、えんじ色の膝丈の着物に、白いエプロンをしたお団子頭の女の子がいた。

「引かれてしまったよ! はっはっは!」

「人の話、ちゃんと聞いてました?」

「もちろん聞いていたとも!」

「……もういいです」

 何を言われても、同じテンションを貫くミコト。


 どうしよう、神様みたいだけど……なんか変なヤツ来た。


 

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