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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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「ほんで何の話やったっけ?」

 ナギとナミも戻り、再び全員戻りそれぞれが席につき落ち着くと、カナヒメが元気よく切り出した。

「何のって、僕らはさっきまで居なかったから分からないよ」

「………………」

「オレたちさっきまで、ここからナギとナミを見ててさ」

「せや。ほんでアレ見てカナヒメがご乱心やったちゅーわけや」

「あーせやったな! アンタちゃんと聞いとったんか?」

 カナヒメは俺に確認するように尋ねた。

「え、うん……多分」

「多分てなんやねん! ちゃんと聞いとかなあかんで!?」

「カナヒメがいっぺんに話しすぎたんちゃう?」

「しゃあないなぁ! もっぺん教えたるわ!」

「自分、喋りたいだけやろ」

「出来れば、お手柔らかによろしくね。カナヒメ」

 スイは机の上で頬杖をつきながら、カナヒメを見て微笑んだ。

 今からのカナヒメの話をちゃんと理解出来るか不安で、俺にとっては笑い事ではない。俺は密かに、恨めし気な視線をスイに送った。


「まず、どっから話したろっかなー……」

「どこからでもええけど、手短にな」

「分かっとるわ! んじゃ、最初からさくっと話したるわ! よう聞いときや!」

「うん」

 俺は何の疑いもなく、素直にうなずいたが、

「最初からて……」

「あはは……」

 と、芳松とナギが同時に苦笑いを浮かべた。それを見て、また少し不安になりスイを見たが、スイはどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。ちなみに茶々丸は寝ていて、ナミは我関せずといった感じで手に持った湯呑みを眺めていた。

「あんなぁー、ウチが創られてからしばらくはな、アンタまだおってん。そんで力の使い方とか、ウチの役割りとかいろいろ教えてくれてん! ほかにもなぁー芳松みたいに『もっと女の子らしくせえ』とか『茶々丸と喧嘩すんな』とかよう言うてたなぁ」

 俺が密かに動揺を感じ始めたと同時に、待ったなしに突然話し始めたカナヒメ。

「そのわりに、全然直ってへんけどな」

「やかましーわ! あ、ほんで芳松連れて来たときになぁ、『今日からウチの神使やから仲良うせえ』って言われてんけどなぁ、ウチそんとき芳松嫌いやってん! なんでかって言うとなー、なんか気取った感じでいけ好かんかったし、キツネやのにキツネっぽくないし、口うるさいしなぁーほんまコイツとずっと一緒におるなんてかなんなぁて思っててん」

「なんやねん、その理由」

「やって嫌なもんは嫌やってんもん!」

「でも、過去形ってことは、今は好きなんやろ?」

「う、うぬぼれんなや! アホー!」

 カナヒメは小槌で芳松を叩いた。

「そんな照れんでええのにー」

 芳松はカナヒメに小槌で叩かれながらも、何事もないかのように笑っている。

「ちゃうわボケー! キツネっぽくないからキツネの面付けとるくせに!」

「これ、カナヒメが付けとけ言うたんやんか」

「ま、何はともあれ、二人が仲良くなってくれてほんとによかったよ」

 スイは懐かしむような顔で、カナヒメと芳松を見ていた。

「別に仲良うないわ!」

「ボクがんばったやろー?」

「がんばったって、何をやねん!」

「やって、こんなじゃじゃ馬娘の使いになれんの、ボクかスイくらいしかおらんと思うで?」

「たしかにね。もしも茶々丸だったら大変なことになってたかも」

 ナギが寝ている茶々丸を見て、少し眉を八の字にして笑っていた。


 当然だけど全部、俺だけが知らない話だ。

 でも、その俺の知らない、というより覚えていない過去の話をみんなで共有している中、俺だけが取り残されているみたいで、少しだけ、さみしい気持ちになった。

 ほんと我ながら自分勝手だと思う。勝手に消えて、何もかも忘れて生まれ変わってきて、なのにこんな気持ちになるなんて……

「ごっほん!」

 俺が感傷的な気分に浸りかけたとき、カナヒメがわざとらしく大きな咳払いをして、俺のほうへ向きなおった。

「あーもう、ちょお話逸れたけどな、今でこそ金金言うてる世の中やけど、三千年前はウチら暇やってんで?」

「……なんで?」

「なんでって、お金言うても最初は貝とか石とかで出来たやつやったし、ちゃんとした貨幣出来たんもっと後やしな。お金が出来るまでは物々交換が主流やったんや……ウチな、最初はお金で人が幸せになれると思てたけど、違った。いや、違うようになってもうたって言うたほうが正しいな」

「違うようになった?」

「お金は物々交換に比べたら便利やし、お金があれば生活が豊かになるし、お金に余裕があれば、心も豊かになる。せやけどな、余裕を求めすぎるようになったちゅーか、だんだん欲が深くなってった」

「せやなぁ。人間が、金に欲出し始めて狂ってくんは早かったなぁ。一人が欲出し始めると、それがどんどん伝染してったもんな」

 カナヒメの話を聞いて反応した芳松は、昔のことを思い出すように、目線を少し上向きにして、顎に手を当てていた。

「別にな、自分できちんと稼いだお金なら、贅沢したってかまへんねん。好きにしたらええ。せやけどな、お金を手に入れるために、醜いことしたらあかん。そんなことして手にした金なんて身につかんで! とりあえず、今からこれだけは絶っっ対覚えときや!」

 カナヒメは、俺に念を押すように語尾を強めた。

「う、うん」

 俺の返事を聞くと、カナヒメは大きく息を吐き、

「あー! なんやしんみりした雰囲気になってもうたけど、ちょっとスッキリしたわ! これでやっと普通に話できるわ!」

 と、我慢していた声を爆発させるように叫んだ。

「え!?」

「やっぱまだ喋るんかい」

「だと思った」

 俺はまだ喋るのかと驚いたが、芳松とスイは、分かってましたというような顔で笑みを浮かべていた。

「それだけお金の話も広いし深いんだよ」

 と、スイが俺を諭すように言うと、

「そやねん! そんな簡単なもんちゃうねん!」

 と、カナヒメは得意げな顔で腰に手を当てた。

「かんにんな。もうちょい付き合ったってーな」

 芳松は『ごめん』と謝るときみたいに、片手を自分の顔の前に立て、小声で俺に向かって囁いた。


「せや! ほんでなーウチが――――」

 再び、勢いづくカナヒメの話を誰も止めることはなく、話題を変えてはどんどん続いていく。

 正座をしていた俺は、だんだん足が痺れてきて、話を聞きながらひそかに足を崩した。


 

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