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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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 ひとしきり殴り合ったあと、喧嘩の決着はついていないみたいだが、結局、力つきたカナヒメと茶々丸。カナヒメは両手両膝を床に手を付きうなだれ、茶々丸は犬の姿でうつぶせに寝転がっていた。二人ともだいぶ息が上がっている。

「ほれ見てみい、せやからやめとき言うたやんか」

「まぁ、いつもの展開だよね」

「ほんま学習せえへんなぁ」

 芳松とスイは倒れこんだ二人を、呆れた顔で眺めていた。

「ほら二人とも、お茶あるから」

 ナギは二人分のお茶をお盆に乗せて持っていた。

 カナヒメと茶々丸はナギからお茶を受け取ると、一気に飲み干した。

「ぷはーっ! アンタのせいで余計な体力消耗したわ!」

「なんでだよ! テメーが最初に喧嘩売ってきたんだろーが!」

「もーお前ら離れて座っときーや。なんで喧嘩するくせに近くにおんねん。ほんまは仲ええんちゃうんか?」

「ちゃうわボケー!」

「ぜってーない!」

 息が整ってくると、また喧嘩を始めそうな雰囲気になるカナヒメと茶々丸に、芳松がからかうように止めに入った。

「ほんまにごめんなぁ、一勢君。カナヒメなぁ、久々に君に会えたからはしゃいどんねん。かんにんなー」

 二人がおとなしくなった瞬間、芳松はいきなり俺のほうへと振り向き、お面を軽く押さえながら、笑いかけた。

「なっ! なに勝手なこと言うとんねん! ちゃうからな!!」

 カナヒメは芳松の言葉を否定して、俺を指しながら小槌を上下に振り回していた。

「ほな、おとなしゅう座っとき」

「やかましっ! 言われんでも今から座るとこやったわ!」

 おとなしくはなかったが、減らず口を叩きながらも座ったカナヒメは、机に置いていった饅頭を頬張った。


「さて、と。一段落したみたいだし、行こっか」

 という、ナギの言葉にうなずいたナミ。

「行くって、どこに?」

 俺が尋ねるとナギは、

「神殿の外だよ。僕とナミは今から仕事だから」

「……ああ!」

「すぐ終わるからここで待っててね」

「おーがんばりやぁー」

 ナギとナミが部屋から出て行ったあと、スイが入口とは別のふすまを開けた。

「こっち」

 スイに呼ばれ、ふすままで行くと、そこは外廊下に繋がっていたようで、神殿の外のナギとナミが見えた。

「ウチらもやけど、ナギとナミも大変やなぁ」

「せやなぁ。なんだかんだ、結構繋がっとるっちゅーか関わっとるちゅーか」

「……どういう意味?」

「見とってみぃ」

 カナヒメが二人を見据えながらつぶやくと、ナギが笛を吹き始めた。

 次第に空が水面になり、たくさんの人たちの顔が映る。俺がこの光景を見るのは、初めてここに来たとき以来、二回目だ。

「善と悪の、悪はなぁ……お金絡みのこと、わりと多いねん」

 そう言ったカナヒメは、空を鋭い目で見上げていた。

「え?」

「こんなんなぁ、種類は違えど、欲が生み出してることがほとんどや。欲は人を狂わせる」

「特にお金はなぁ。お金さえあれば何でも手に入るとか、お金が万能やと思ってる人間ぎょーさんおんでなぁ。いくらお金積んでも手に入らんもん、ようけあんのになぁ」

 同じく空を見上げていた芳松が、呆れたような声色でつぶやく。

「せやで! そもそも用途を間違(まちご)うとる人間が多すぎんねん! お金ぎょーさん持っとっても、自分より持ってへん人より偉いわけちゃうからなぁ! 本来は、人を縛り付けたり、従わせたりする道具とちゃうっちゅーねん! 例えそれが、親子でもや! 誰がそんな使い方せぇ言うたんやー!」

「ちょお、落ち着きや」

 急に叫びだしたカナヒメをなだめる芳松。

「アンタもなぁ! 覚えとき!」

 カナヒメは、さっきまでの勢いそのままで、俺に向かって叫んだ。

「へ!? う、うん?」

「お金にはなぁ、生きとるお金と死んどるお金があるねん」

「生きる? 死ぬ?」

「自分と周りの人を幸せにするために使ったお金は生き金。そうやって使えばどういう形であれ、また自分に回って戻って来る。でもな、人だまくらかしたり、人に嫌な思いさせて手にした金なんかなぁ、そんなもん死に金やぞ! 死に金はな、しょーもないことに使わなあかんくなったりして、消えてくねん。そんでそれっきり回って戻ってはこーへんで」

「……うん」

「そんでな、お金もせやけど、金銭欲出して手に入れたもんなんてな、結局死んだらなーんも持ってけへんねんで! なんもなくなってから、自分に残ったもんが向こう行ってからの財産や。お金はなぁ、生きてくためにはある程度必要やけど、あればあるほど幸せとは限らん。まぁ、せやけどぎょーさんお金欲しいんやったら、お金のこと否定すんのはあかんで!」

「……否定?」

「お金そのものやなくても、お金やええ(もん)受け取った人間のこと妬んで悪ぅ言うたり、否定したりすることや! それとな、誰かがアンタにやるって言うたお金は、遠慮なんてせんと素直に受け取っとき! それはアンタんとこに来たがっとるお金や! 分かっとると思うけど、死に金は極力受け取らんようにな!」

「えっと、うん」

「あ! あとなぁ、女選ぶときは気ぃつけーや! 金目当ての女なんかに引っかかったら、ケツの毛ぇまで持ってかれんで!」

「は、はい」

 止めどなく語り始めたカナヒメの言葉を、俺は頭の中でひとつひとつ理解しながら聞いていて、軽く相槌を打つばかりだった。しかし、カナヒメは「んーとなぁ、あと……」とまだ話すことを考えていた。俺はこれ以上続けられると、話に付いていけなくなりそうで、カナヒメに次の話を待ってもらおうと思ったら、

「カナヒメ。とりあえず、イッセーがちゃんと理解するまでストップね」

 と、状況を汲んだスイが、いいタイミングで止めに入ってくれた。

「ちゅーか、ケツって……」

 その隣で、芳松は手でおでこを押さえていた。


「なんか盛り上がってるね」

「………………」

 俺がカナヒメの話を聞いているうちに、いつの間にかナギとナミが戻ってきていた。

「おつかれさーん! あ、ここにお菓子あんで?」

 カナヒメは部屋に戻って、机の上のお菓子を指していた。

「それ、カナヒメのちゃうやんか」

「ええねん。気にすんなや!」


 コロコロと話題や感情が変わるカナヒメに、俺はついて行くのが精一杯だ。


 

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