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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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001 金は天下の回り物

 001



 思いがけずタイムスリップを経験したテスト期間を経て、学年末テストも無事に終わり、あとは春休みを待つだけの日々。

 もうすぐ三月も半ばだというのに、まだ寒い日が続いている。これもここ数年よく言われている、まるで何かが狂ったみたいに、突拍子もなくやってくる異常気象の一部なんだろうか。

「あーさむいさむいさむいー!!」

 俺とじいちゃんがテレビを観ながら、もくもくと朝食を食べていたところに、騒がしい声とともに、パジャマのまま部屋に入ってきた姉ちゃんは、一目散にコタツに入り込んだ。

「……微妙にドア開いてんだけど」

 なんか隙間風が吹いてきたと思ったら、姉ちゃんが入ってきたドアが数センチ開いたままになっていた。

「寒いから閉めといてよー」

「やだよ俺だって寒いし。自分で閉めろよ」

「えーいいじゃん、一勢のケチ!」

 そう言って、姉ちゃんはコタツの中へ潜っていった。

 自分で閉めに行く気なんて、さらさらないようだ。

 結局、いつものパターンだ。姉ちゃんの小さな身勝手に、一応俺も抵抗はするが押し切られる、というか躱され、そして俺が動かされる。

 俺は小さくため息を吐いた。

「わしが閉めといてやろう」

 俺がしぶしぶコタツから出ようとコタツに手を付いた瞬間、朝食を食べ終えたじいちゃんが、重ねたお皿を持って立っていた。

「あ、じいちゃんありがとー!」

 姉ちゃんはコタツから頭だけ出して、じいちゃんにお礼を言った。

「これくらいかまわんが……大学が休みだからってゴロゴロしとったら太るぞ、五十鈴」

「ふ……太らないもんっ」

 じいちゃんは、姉ちゃんをからかうような笑みをこぼしてドアを閉め、台所にお皿を持っていった。じいちゃんの言葉を少し気にしているのか、姉ちゃんは自分の頬を軽くつまんでいた。


 俺が朝食を食べ終わるころ、ニュースが始まった。少し前までは、いわれのない罪悪感を感じるのが嫌で、ニュースが始まると逃げるように家を出ていたが、真実を知った日からは、一応観てはいる。

 しかし嫌なことに変わりはなく、半分心ここにあらずな状態で、アナウンサーの声を聞き流し、テレビの中の映像を、ただ眺めているだけ。

 今日のニュースだって大半はろくでもないニュースばかりだ。ニュースには、俺がよく意味を知らない単語がちょこちょこ出てくるが、悪いニュースに出てくる単語なんてロクな意味を持たない気がして、調べる気にもならない。はっきりと意味を知ってしまえば、きっと今よりもっと世界が嫌いになる。

 大なり小なり、悪いニュースが必ず一つはある毎日。それは単純に計算しても、確実に年間365人は犯罪者がいるということになる。もちろん実際そんなに少なくはないのだろうけど……

 世界は、人間はいつからこうなってしまったのだろうか――――

 それは、例え全知全能の神様の生まれ変わりだったとしても、今の俺には分からない。

 しかし、最近ニュースを見ていて、俺が分からないなりに考えて、単純だけど思いついた答えが一つだけある。

 ほとんど、と言っても過言ではないくらいの事件に関連しているものがあったのだ。

 俺が思うに、このご時世、無ければ困るのだろうが、それさえなければ、もう少し平和だったんじゃないかと思うのは『お金』だ。

 詐欺、横領、贈収賄、悪徳商法、保険金殺人など、お金にまつわる薄汚い言葉が目白押しなメディア。

 税金が増える増えないとか、年金は払っても貰えないとか、いくらテレビで専門家が論争していても、最終的に一般市民には、どこでどう使われているのか分からないお金の行方。

 一見、お金が関係していないように見える事件だって、裏ではお金が関係していたりする。

 結局、世の中金なのか。

 お金の話なんて、俺にはまだ関係ないと思っているが、考えれば考えるほど大人になるのが嫌になる。だから、いつも考えるのを途中でやめてしまう。

「一勢? 時間いいの?」

「えっ……あ、やばっ」

 母さんに呼ばれて、ハッと気が付くと、とっくにニュースは終わっていた。ふと時計を見れば、学校にぎりぎり間に合うくらいの時間になっていた。俺は慌てて用意をして、いつもより遅く家を出た。



 いつもだらだらと歩いている道を、今日は急ぎ足で駆けていく。

「今日は遅いね。寝坊ー?」

 時間に追われながら、学校を目指している中、少し焦っている俺とは正反対の呑気な声が聞こえた。

「お前も遅いだろうが。っていうか寝坊じゃないし」

「ふぅん」

「スイはなんで遅いんだよ? お前こそ寝坊じゃないのか?」

「まっさかー。ってか遅刻しそうになったら、オレは飛べちゃうからね! 余裕だよ」

「……何そのドヤ顔、腹立つんだけど」

 俺は急ぎ足なのに、足の長さのせいか少し後ろにいるスイは、まったく焦る素振りもなく、普通に歩いている。

 なんか余計に腹が立つので、俺は少し足を速めた。

「あ、そうそう! 今日学校終わったら神界来てね」

 俺が足を速めても意に介せず、話しを続けるスイ。

「……別にいいけど」

「それと、今日はまた行く前に、お菓子買ってかなきゃいけないからよろしくー」

「ああ、茶々丸の?」

「それもあるけど、っていうかそれがほとんどだね。まったく茶々丸のせいで出費が増えちゃうよねー」

 俺はスイが何気なくつぶやいた一言が引っかかり、自然と足を止めた。

「…………そういえばさ、スイって普通にお金持ってるけど、神様とか神使ってみんなお金持ってんの?」

 俺が疑問に思ったことを尋ねれば、スイはきょとんとした顔で俺を見た。

「……イッセーってさ、鈍感かと思えば、たまに鋭いよね」

「はあ!?」

「ちょうど今日来るんだよねー」

「何がだよ?」

「んー神界の財務省? みたいな」

「神界の財務省!?」

「まぁいわば、お金の神様だね」

「えぇ!?」 

「うん。驚くのもいいけど、とりあえず時間やばいよ?」

 と、スイが笑顔でのんびり言い放ったあと、学校のほうから予鈴が聞こえ、二つの驚きが同時にやってきた。


 全速力で走り、学校にはなんとか間に合ったが、普段あまり走らない俺は、席に着いてからぐったりと机に突っ伏した。

「運動不足なんじゃないのー?」

「……うるさい」

 涼しい顔で俺をからかうスイとは対照的に、俺はしばらく疲労感に襲われていた。




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