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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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006

 006



 茶々丸と梅は、道もなく、舗装もされていない山道を慣れた足取りで歩いていく。俺は靴を履いていないため、足場を確認しながら、二人のあとを少し遅れて歩いている。

「茶々丸はよく神界から出てるのか?」

「出てねーよ! めんどくせーし」

「じゃあ、どうして僕たちのこと分かったんだ?」

「ナギとナミが気が付いて、俺様が使いに出されたんだよ! 一応、神使だしな。ナギたちはスイとサイカクを探しに行ってる」

 サイカクの名前が出ると、梅はかすかに肩を揺らした。

「……そうだったのか。すまなかったな」

「まったくだ!」

「……まさか、こんなことになるなんて思ってなくて……サイカク、怒るかな? 僕のこと、嫌いになるかな?」

 梅はしょんぼりと、さみしそうな顔で下を向いた。

「大丈夫だろ。サイカクは、お前がどういう意図でコイツをここに連れてきたかくらい分かるぞ、多分。ま、いざとなりゃ、コイツになんとかしてもらえ」

 茶々丸は、少し後ろにいる俺を親指で指さした。

「え!? 俺になんとかしろって言われても――――」

「お前がフォローしてやりゃ、サイカクもそこまで怒んねーよ」

 茶々丸は落ち込む梅の姿を見たあと、「とりあえず頷いとけ」と訴えかけるような目で俺を見た。

「……分かったよ」

 何をどうフォローすればいいのか分からないが、俺が茶々丸の訴えを受け入れると、

「だってよ。よかったな、梅」

 と、茶々丸が少しぶっきらぼうに、梅に言葉を投げた。

 梅は小さくうなずき、こちらに小さく駆け寄ってくると、俺の手を握った。その手に、俺を引っ張って走っていたときの力強さはなく、見た目相応のか弱い力が、遠慮がちに伝わった。

 俺の何十倍も生きているのに、本当に小さな子みたいに頼りない手。俺は梅の手に、自分の指を軽く乗せる程度の力で置き、梅の手を握った。


 

 隣にいる梅と、少し前を歩く茶々丸を見て、ふと思っていたことを思い出した。

 そもそも、元々違うところで生まれたんだとしたら、神様と神使ってどうやって出会ったんだろう? 神使はなんで神様に仕えてるんだろう?

 それを梅に少し聞こうと思ったら追いかけられて、それどころではなくなり、俺の中で芽生えた疑問は頭の片隅で引っかかったままだ。

「茶々丸。場所は合ってるのか? 奴らはときどき住む場所を変えるだろう?」

「当たり前だ! 俺様が間違えるはずないだろ!」

「なるほど。茶々丸は鼻だけはいいんだったな」

「鼻だけってなんだよ!?」

 俺はもう一つ、今一番引っかかっていたことを思い出した。

「あのさ……ずっと気になってたんだけど、奴らの里って……」

「もう着くぞ!」

 俺の質問に対する答えはなかったが、茶々丸の言葉どおり、辺り一面、雑木林しか見えなくて、ずっと変わり映えのなかった景色の中に小さな集落が、雑木林の中に隠れるように木と木の間からひっそりと姿を現しつつあった。

 雑木林を抜けると、全貌を現した集落。木造で、あまり色味のないシンプルな建物が不規則に建っていて、その中心には造りは同じだが、少し大きめの立派なお屋敷がある。

 数人で遊んでいた子供たちが、俺たちに気づくと、動きを止めてこちらをじっと見ていた。見た感じは普通の人間に見えるが、茶々丸と梅が言っていた“奴らの里”というのはここのことなのだろうか?

 俺たちを見ていた子供が一人、この集落で一番大きなお屋敷に入っていった。


「俺たち怪しまれてるんじゃないのか?」

「大丈夫だ。じきに誰か来るから、ちょっと待ってろ」

 茶々丸の言ったとおり、それから数分もたたないうちに、子供と一緒に青い着物の女の人が出てきた。子供に案内されるように俺たちのところへ来たその女の人は、優しく目を細めた。

「久しぶりね。茶々丸、梅。と……どこかで見たような気がするのだけど、そちらの殿方は?」

 女の人は俺を見て、首をかしげたが、

青花(せいか)ー!」

 と、誰よりも早く声をあげた梅は、俺の手から離れると、女の人のところへ走り寄って抱き付いた。女の人は優しく梅の頭をなでた。

 この女の人の名前は、青花というみたいだ。

「おぅ青花。ちょっと世話になるぞ。事情は後で話す。とりあえず、鈴鹿のところへ案内してくれ」

「何か事情があるのね。分かったわ、少し待ってて」

 そう言って、青花はまたお屋敷の中へ入っていった。




 青花を見送り、三人だけになった隙に、

「鈴鹿さんってここで一番偉い人?」

 と、俺は小さめの声で二人に尋ねた。

「うん! 鈴鹿御前のことだぞ!」

 すっかり元気を取り戻した梅が、ハキハキとした口調で教えてくれたが、俺には聞き覚えのない名前だった。

「なんかよく分かんないけど、お姫様みたいな名前だな」

「お姫様みたい、じゃなくてマジもんのお姫様だよ! ま、普通の姫じゃねぇけどな」

「普通じゃないって何が?」

「あーめんどくせーから梅に聞け!」

 茶々丸は手をひらひらと振り、梅に説明を投げた。俺は答えを求めるように梅のほうを見ると、

「鈴鹿御前は、現代でもいくつかの物語で名を残す伝説の鬼だ!」

 と、分かりやすく簡潔に教えてくれたのだが……

「へぇ………………鬼ぃ!?」

 あまりにもあっさりと言われ、一瞬聞いたことを聞き逃しかけた。

「いや、鬼って……だってみんな普通の人間じゃん! あそこにいる子供たちだって……」

 と言いかけてハッとした。

 まさか! 攫ってきた子供!? 人質!?

「あーあいつらは子鬼だぞ」

 俺の思考を遮るように、茶々丸のだるそうな声が聞こえた。

「子鬼!? じゃあ、ここの人たちってみんな――――」

「ああ、鬼だな」

 えぇぇぇぇぇ!?

 俺は心の中で驚愕した。





 

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