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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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001 恋する神様

 001


 【スイ視点】



 オレが全知全能の神と出会ったのは三千年よりもっと前。全知全能の神と出会ってから、オレはずっと神使をしている。全知全能の神不在の間は、他の神の手伝いをしたり、なんやかんや問題に巻き込まれたり……今存在する神たちが全知全能の神の力の一部である以上、オレはちゃんと見ていてやらなければいけない。


 オレが三千年前まで仕えてきた全知全能の神は、長い不在期間を経て普通の人間、天神一勢(あまがみいっせい)として生まれ変わってきた。まぁ全知全能の神に戻れる力を宿した人間を、普通と呼んでいいのかは分からないけど。

 今は人間だけど、俺が今一番仕えるべき存在であるのはたしかなわけで……仕えるというより今のところオレ、ある意味イッセーの保護者のみたいな立ち位置かな。


 ここだけの話、イッセーの前世が全知全能の神だとか、神界のことやオレのことも、本当はまだ本人に明かすつもりではなかった。全知全能の神は『三千年後に迎えにこい』とは言っていたが、オレはせめて成人してから、と考えていた。全知全能の神が消えてから、ちょうど三千年経つと同時に十六歳になるイッセーに、この真実は受け入れられないんじゃないかと思ったから。

 だけど事情が変わった。

 環境にはわりと恵まれているのに、この世界が嫌いで、毎日つまんなそうな顔して、あたりさわりなく適当に過ごして生きているイッセー。オレはそれを見ていて、このまま成人して真実を知れば、即刻全知全能の神に戻って世界を消してしまいそうな気がして、見ていて不安になった。

 最終的に全知全能の神に戻る戻らないはイッセーが決めることだけど、三千年もの間、この世界を全知全能の神から託されて、見守ってきた神がたくさんいることも知っていて欲しかった。オレは世界が変わっていくことに神が喜ぶ姿も苦悩する姿も、三千年間ずっと見てきたからこそ、そう思った。

 だから全員ではないが、一部の神たちともいろいろ話し合った結果、三千年きっちりでお迎えにあがることになった。

 全知全能の神が消える前に『三千年後に迎えにこい』と言ったのは、このことを分かっていたのかいなかったのか、その真意は今はもう誰にも分らないが、それは正しかったのだと思わざるをえない。


 ちょうど三千年後に真実を伝えるため、イッセーが高校に入ると同時に、オレも神界の外に出て同じ高校に通い始めた。そして予定通り、十六歳の誕生日の日に真実を打ち明け、また今日もこうしてイッセーの通う高校の制服に腕を通す。

 真実を打ち明けた今、オレはとりあえずホッとしている。イッセーはオレが思ったより冷静に受け止めてはいたけど、まだ受け入れてはいないと思う。けど、今はそれでいいよ。




「スイ、着替え終わった?」

 オレが着替えていると、ふすまの向こうからナギが呼ぶ声がした。

 全知全能の神の遺したものがある神殿は、奥にもいくつか部屋があり、オレはそのうちの一部屋を使っているのだが、朝からナギがここにやってくるのはめずらしい。

「んーもうすぐ終わるよ。なんかあった?」

「うん。スイにお客さんだよ」

「……お客さん?」

 こんなに朝早くから訪ねてくるなんて誰だろう?

 オレはブレザーを着て制服のネクタイを結びながら部屋を出た。


 ナギに案内されるまま付いていくと、神殿の入り口の扉の前で佇む少女がいた。顔の両側の髪の毛は長く、前から見れば長く見えるが、後ろから見れば短い髪の毛。キリッとした目元に、女ものだがあまり飾り気のない着物。オレはもちろん彼女のことをよく知っているから、一目見て誰だかすぐに分かった。

真白(ましろ)じゃん。どうしたの?」

「どうしたじゃない!」

 声は可愛らしいのに少々きつめの話し方をする真白。怒っているわけではなく、毎回こんな感じだからオレもいちいち気にはとめない。

「あれ、っていうかレンカは?」

「今日はそのレンカのことでお前に話がある!」

 レンカというのは恋愛成就の神で、真白はその神使だ。

「レンカがどうかしたの?」

「お前……今日が何の日か忘れたのか!」

「今日?……ごめん何だったっけ?」

「……お前なんかに頼みにきた来たあたしがバカだった」

「え!? 真白がオレに頼み事!?」

「お前……殴る!」

「あー! 今日はバレンタインデーじゃない!?」

 ナギはこぶしを握りしめた真白の気をそらすように、大きな声で割って入った。

「ああ! そうかそれで!」

「そうだ。やっと思い出したかバカめ!」

「だって長いことバレンタインなんて風習なかったし、この国で始まったのつい最近じゃん? そりゃあ忘れるよー」

「笑い事じゃない! こっちはいろいろ忙しいんだぞ!」

「そうだねぇー恋愛関係だとそっちは忙しいもんね」

 オレがそう言うと、真白は深くうなずいた。

「でだ……あたしはこれからまだやることがある。だから、すまないが今日一日レンカを頼みにきた」

「レンカを?」

「今日はあの方のところに行くって聞かなくてな」

「……なるほどね」

「今日のレンカは周りが見えていない可能性がある。くれぐれも気をつけてやってくれ」

「はいはい。分かったよ」

「本当に分かったのか!? あたしが迎えに行くまで、本当にちゃんと見ていろよ! じゃあな!」

 真白は捨きすてるように言葉を残し、白く輝く鯉の姿になると、透明な壁に吸い込まれるように空間の中へと入っていき姿を消した。

 っていうかあれ、人に何か頼みにくる態度ではないよね。


「とりあえず、ちょっと見てこよっかな」

 レンカが真白と一緒にいないということは、もうすでに人間界にいる可能性が高い。

「がんばってねスイ」

 オレは困ったような顔で笑うナギに送り出されて神界を出た。


 神界を出るとイッセーの家の庭の塀から外の道へ降りた。ちなみに今、オレの姿は人間には見えていないので誰か居たとしても問題ない。

 レンカの居場所はだいたい見当がついていたので、そのままイッセーの家の玄関へ向かってみると……やはり早速、発見した。

 華やかな着物に、ハートの形の羽衣(はごろも)を纏った神様が玄関の前で正座してスタンバっていた。イッセーの家のほうを向いて座っているので、おそらくレンカはオレには気付いていない。

 すぐにレンカに声をかけようと近づいたが、それはもう嬉しそうにイッセーを待ちわびているのが後姿からもにじみ出ていたので、オレはレンカに声をかけるのをやめた。オレはレンカの思いを知っているからこそ、久しぶりの再会は二人だけにしてやろうと思い、そっと見守ることにした。




 

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