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神様の水鏡  作者: 水月 尚花


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「小生はコハクと申すのだ。病気平癒の神だぞ!」

 コハクと名乗った小さな男の子は、腰から少し暗めのオレンジ色の神玉をぶら下げていた。体はだいぶ小さいが神玉は俺が持っているものと変わらない大きさだ。

「私はコハクの神使で、千羽矢(ちはや)と申します。どうぞよろしくお願いします」

 コハクを肩に乗せた男の人は持っていた漆の箱の上にコハクを乗せ、丁寧にお辞儀をした。

「ちなみに、今はでかいがこいつはネズミだぞ! それゆえ小生の乗り物にはちょうどよいのだ!」

「ちょっとコハク! 乗り物って……」

 コハクは身軽に箱から飛び降りると、俺のベッドの上に飛び乗り俺の肩まで素早くかけ登りそこに座った。熱のせいもあり、ぼんやりと二人のやり取りを眺めていた俺は突然の出来事にも対応出来ず、ただ呆然と固まっていた。

「ああっ! 何してるんですかコハク!」

「お前の肩よりこっちのほうが(ぬく)いぞ!」

「当たり前です! 一勢さんは熱があるんですよ!」

「そんなことは分かっておるぞ! 小生を誰だと思っているのだ!」

「それなら早く降りなさい!」

 コハクは聞こえないと言わばかりにそっぽを向いた。

「……本当にすいません」

 千羽矢は申し訳なさそうにうなだれた。

「あの……俺なら大丈夫です。ただの風邪だし……」

 俺がそう言うと千羽矢はこの世の終わりとでもいうような顔をして俺を凝視していた。

「え、あの……」

「ただの風邪?……風邪をただの風邪だと馬鹿にしてはいけませんよ!!風邪は万病の元というでしょう! あれはあながち間違いではないのですよ! 風邪からの合併症は多いんです! 肺炎や髄膜炎、扁桃炎、中耳炎、腎盂炎などあらゆる病気を引き起こすかもしれないんです! 風邪は百病の長ですよ! ゆえにたかが風邪などと甘く見てはいけません! それに何より私たちは三千年の時を経て生まれ変わってきたあなたをたった十六年で死なせてしまうわけにはいかないのです! お分かりいただけますか!?」

「……は、はい」

 息継ぎもせず、もの凄い勢いでまくし立てる千羽矢に俺はただ黙ってうなずくしかなかった。


「うるさいぞ千羽矢。それより小生は腹が減ったぞ!」

 風邪の重大さを語っていた千羽矢をよそにコハクは俺の肩に座り、ぷらぷらと足を揺らしている。

「うるさくないです! 大事な事ですのできちんと言っておかないといけないでしょう!」

「まずメシを食わんことには風邪も治らんだろう!」

 千羽矢はハッと時計を見た。

「もうこんな時間でしたか!」

「だから言っただろう!」

 ふと時計を見ると十二時を少し回ったところだった。

 コハクは俺の肩から飛び降りると千羽矢が持っていた箱の上に飛び乗った。

「千羽矢これを開けろ!」

「え?」

 千羽矢が箱を開けると箱の中にはいくつかお菓子が入っていた。コハクは箱の中に入るとクッキーを一つ抱えて出てきた。

「コハクっ! これ、いつの間に!」

「お前が台所に寄ったときについでに頂戴してきたのだ!」

 コハクは満足げな顔でふんぞり返っている。千羽矢はコハクを見てため息を吐き箱を机の上に置いた。

「すいません。勝手に頂いてきたみたいで」

「いや、別にいいけど……」

「では一勢さんのご飯は私が用意してきますね。先ほど台所を拝見させて頂きましたらお粥を作る用意がされてましたので」

「へ? いいよ、自分で出来るから!」

「お菓子のお礼です……私がご飯を用意している間、コハクと一緒に居てあげてください」

 小さな体でお菓子を抱え一生懸命歩いているコハクを横目に、千羽矢は俺の近くまできて小さな声で囁いた。

 千羽矢が部屋から出ていくと、再び俺のベッドに登ってきたコハクは太腿のあたりまで来ると、上半身を起こしている俺と向き合うように座った。


「体はツラいか?」

 コハクは俺を見上げ、首を傾げた。

「今は座ってるし大丈夫。ちょっと怠いくらいかな?」

「そうか。小生は病気平癒の神だが、病気になったことがないゆえ、病人の気持ちがどういうものか自分では分からんのだ」

「神様は病気にはならないんだ?」

「当たり前だ! 人間のように軟弱ではないぞ!」

「そっか」

 小さいのに態度はでかいコハクを見ていると、なんだか笑えてきて俺は少し笑ってしまった。コハクは笑われたことが不服だったのか、ふいっと目を反らすとクッキーの袋を開け、小さな口いっぱいにクッキーを詰め込み食べ始めた。


「この菓子うまいぞ!」

「あっ! ちょっと待ってコハク!」

 クッキーを食べ進めるたびに食べかすをボロボロこぼすコハクを見て、俺は両手で掬いあげるようにコハクを手の平に乗せた。


 俺は手の平に溜まっていく食べかすを見て、ベッドの上でこぼされなくてよかったと安堵した。



 

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