表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の水鏡  作者: 水月 尚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/226

009



  009



「そういやイッセーはどうしてここに入り込んだの?」

 スイは不思議そうな顔をしている。

「えっと……あ! そうだ! 元はと言えばお前のせいだぞ!」

 昨日スイが置いた金平糖が他の人のせいにされていて、仕方なく俺が金平糖を置きに行くのを引き受けたらこうなった、と俺はここに来るまでの経緯を簡単にスイに話した。


「あちゃー。昨日ここに来る時間なかったから岩の前に置いちゃったんだよねー」

「どうするんだよ。寺井さん犯人扱いされてるんだぞ」

「まぁそれはなんとかするから任せてよ」

 スイは自信あり気に笑った。

「これじゃから人間は……」

 俺とスイの会話を聞いていたタタラはため息を吐くように煙を吐いた。

「それにしても……まさかイッセーがそんな人助けをするなんて、女の子の涙効果ってすごいね」

「なっ! 俺は別に!」

「照れなくていいのにー」

「照れてない! 別に涙とか関係なくめんどくさいから引き受けただけだ」

「めんどくさいなら最初から関わんなきゃよかったじゃん?」

「仕方ないだろ! たまたま鉢合わせたんだよ」

「ふーん。たまたまね」

 からかうような顔に軽く笑みを浮かべるスイ。


「おい、貴様らいいかげんにせんか! いつまでタタラ様の神域で騒いでいる!」

 幽月が不機嫌な声を上げ割って入ってきた。

「久々なんだしちょっとくらい大目に見てよ」

 スイはわざとらしく口を尖らせた。

「そういう問題ではない! まったく貴様は――――」

「しょうがないなー。じゃ、そろそろ帰ろっか」

 また長々と文句を言いだした幽月を気にも留めずに、スイは俺と目を合わせた。



 先に俺とスイがお屋敷から出ると、後から出てきたタタラはお屋敷の入り口の柱にもたれかかるように立っていた。

「今なら誰もおらんぞ」

「ありがと。また来るね」

「あっ! 貴様またっ――――」

 三人のやり取りを見ていると、ふいにタタラと目が合った。

「お主に一つ、言い忘れておったが……」

「俺に?」

「少々幼くはあるが……あやつと同じ顔で丁寧に話されると、気持ちが悪い。……今度来るときまでに直しておけ」

 それだけ言うとタタラは俺から視線を外した。

「え、は……うん」

 それにしても気持ちが悪いって……ずっとそう思われてたのかと思うとちょっとだけ恥ずかしい。



 スイに言われるまま、タタラの神界の沼に飛び込んだら、学校の裏山にある岩の前に戻ってきていた。タタラの言っていたとおり周りには誰もいなかった。俺が金平糖を置きに来たときはまだ明るかった空は夕日が沈みかけ、だんだんと薄暗くなってきていた。


「イッセーは、こっちの世界にある神器にうっかり触っちゃうと引き込まれるから、気をつけてね」

「引き込まれる?」

「うん。一回神界入っちゃってるしね」

「一回入ると他の神様の神界にもそんな簡単に入れるのか?」

「神界は全部繋がってるからね。ぶっちゃけ鏡割った時点でイッセーも半分神界の住人みたいな感じだし」

「はぁ!?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてない……」

「んーと……神界って人間の体だとちょっとキツイんだよ。普通の人間は一生入れない。イッセーは神の生まれ変わりだけど、体は人間だからやっぱある程度成長しないとダメなんだよ。まぁ消えてからちょうど三千年目の日に、十六になるように生まれてきたのはさすがだけど」

「……そうだったのか」

「そ。なのにイッセーったらちっさいとき、あの池の周りうろちょろしてたから、オレらが池に落ちないように見張ってたんだよ。大変だったなぁー」

 スイが昔を懐かしむように話しているが、俺にはその頃の記憶がなく、あんまりピンとこないし、自分すら覚えていない小さい頃の話をされるのは照れくさい。


「しっかしまさかタタラのとこ行っちゃうとはねー」

 スイは困ったように笑った。

「…………お前、知ってただろ。タタラの岩のこと」

「そりゃあね、知ってたよ。今教えるとイッセーがショック受けると思って黙ってたけど」

「……俺、恨まれてた」

「うん。けど、タタラはイッセーのこと恨んでても、前世のお前は恨んでない。それに直接イッセーに何かしてくるわけでもないから、あんまり怖がんないであげてよ」

「それ……余計怖いよ」


 人間にとって良い神様もいれば、そうじゃない神様もいる。俺が勝手に神様は良い神様ばかりなんだと思い込んでただけなんだ。

 人間の善と悪と、神様のそれとは似ているようで全然違うものだと思う。人間は自分の意思で悪になる。

 だけど神様は全知全能の神から与えられた力から離れられないんだ。神様の中にはタタラみたいに俺が与えた力のせいで、嫌な思いをしている神様が他にもいるかもしれない。






 次の日の朝、寺井さんのクラスの教室にスイが入ると女子が騒ぎ始めた。ちなみに俺は廊下から、出来るだけ目立たないようにその様子を見ていた。スイは騒ぐ女子に目をくれることもなく寺井さんの所へ向かった。

「ごめんね寺井さん。なんか金平糖置いた犯人にされてるって聞いたんだけど、あれ置いたのオレなんだ」

「えっ!?」

「ちょっとしたいたずらのつもりだったんだけど……」

「う、うん」

「それにしても寺井さんを疑うなんて……誰か寺井さんに恨まれるようなことしてたのかなー?」

 なんてちょっとわざとらしくスイが言うと、騒いでいた女子の中の数人が肩を揺らした。正直、見た感じいじめなんてしなさそうな普通の子たちなのに……世の中まだまだ分かんないことだらけだ。  


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ