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「あれ? 一勢?」

 ふいに呼ばれた自分の名前に反応して俺が振り返ると、幼馴染の希実は小走りで俺のところまで走ってきた。

「やっぱり! めずらしいわね、こんなところで会うなんて」

「そう?」

「朝会うことなんてあんまりなかったじゃない」

「そういえばそうかも」

「あ、さっき佐野さん居たでしょ?」

「……佐野さん?」

「あのうわさ好きのおばさんよ」

 あの人、佐野さんっていうんだ。聞いたことあるような、ないような……まぁいいや。

「会ったけど、それがどうかした?」

「別に。ちょっとあんたのこと聞かれたから気になっただけ」

「は?」

「希実ちゃん一勢君と同じ高校でしょ? 久しぶりに見たら男の子っぽくなっててびっくりしたわぁ! 彼女とかいるのかしら?ってなんかすごく興奮気味に」

「………………」

 挨拶しただけでそんなこと思われてたなんて怖すぎる。この寒気は決して冬のせいではないと思う。

「知りませんって言っといたわ。まぁ悪くは言われてないんだし、よかったじゃない」

「……そういうことにしとく」

 うわさ好きな人なんてどこにでもいるんだろうけど……どうせなら、もっと自分に役立つ情報集めればいいのに。ご近所や俺の情報なんて何の役にも立たないだろう。



「そうだ! 昨日ちゃんと五十鈴ちゃんに渡してくれた?」

「……渡す?」

「昨日のお昼に渡したでしょー?」

「あー……渡した、多分」

「多分ってあんたねぇ……まぁいいわ、今度五十鈴ちゃんに聞くから」

 朝、鞄を見たときは昨日渡されたものが入ってなかったのでおそらく渡してはいると思うが、俺には昨日家に帰ってからの確かな記憶がない。それどころではなかったのだ。今まで生きてきた中で一番、衝撃的な出来事があったから、家に帰ってからもなんとなく現実感を取り戻せなくて意識がふわふわしていた。会話や行動はほぼ無意識だったため、ほとんど覚えていない。

「間違えて渡してないでしょうね。五十鈴ちゃんのは甘いけど、あんたのはちょっと甘さ控えめにしといたから」

「そうなんだ、ありがと。帰ったら確認しとく」

「…………え!?」

 俺の隣を歩いていた希実がいなくなった。振り向くと驚いたような顔をした希実が立ち止まっていた。

「どうかした?」

「どうしよう、傘忘れた!」

「傘? 晴れてるけど? 今日雨なんて降るっけ?」

「そういう意味じゃないわよ!」

「はぁ? どういう意味なんだよ?」

「あんたが変なこと言うからよ!!」

「……変なこと?」

「そうよ、変に決まってる! 一勢が私にお礼言うなんて……雨とか雪とか通り越して隕石とか降ってきそう!」

「お前っ……失礼なヤツだな」

「その言葉、そっくり返してあげるわ!」

「はあ!?」

 希実は人差し指で俺を指したあと、「じゃあね」と颯爽と俺を抜かして歩いていった。

 なんだよ希実のヤツ……そういえば、さっき母さんも同じようなこと言ってたな。



「あーあ、乙女心が分かってないねぇイッセー君は」

 突然聞こえた声に俺は肩を揺らした。いつのまにか俺と並行して歩いていたスイは、頭の後ろで両手を組んでわざとらしく笑っていた。今日は朝からよく誰かに会う日だ。

「……なんだよスイ」

「昨日はよく寝れた?」

「寝た気がしない」

「いろいろ考えすぎて?」

「……分かってんなら聞くなよ」

「これから分かることだっていっぱいあるんだし、今そんな焦んなくてもいいと思うけどー?」

「それもいろいろ恐ろしいんだけど」

「あー大丈夫大丈夫。なんとかなんでしょ」

「なんでそんな楽天的なんだよお前」

「今はイッセーよりいろいろ知ってるから」

 そうか。スイは確実に三千年は生きているわけで、普通に考えたら今の俺よりいろいろ知ってて当たり前だ。


 昨日の夜、いろいろ考えていた中で、明日どんな顔してスイに会えばいいのかということも考えていたが、案外といつもどおり話せていることに少しホッとした。


「あ、そうだイッセー! それ、無くさないようにね」

 スイは俺のブレザーのポケットを指さした。俺はその存在を確認するために、ポケットの上から神玉に触れた。

「うん」

「それから、分かってると思うけど……昨日のこと、誰にも言っちゃだめだよ。信じる信じないはともかく、もし本当だってバレたらそれこそイッセーは全世界の敵になっちゃうからね」

 スイは声量を落とし、少し低めの声で囁いた。

「…………分かってるよ」

「ま、もっとも? イッセーがあまりにも普通すぎて、ほとんどの人が信じないとは思うけどねー? アイツなんか変なこと言ってんなぁって思われるくらいで」

「なんかお前に言われるとムカつくけど、それならそのほうがいいよ」

 俺が全知全能の神に戻れば世界は消える。そんな事実が知れ渡れば隕石や核兵器よりも、俺が全世界にとって敵のような存在になる。もしそれが本当のことだと知れ渡って、そのとき俺がまだ人間なら、人間っていう生き物には数では敵わない。そうなったら俺がこの世界からいなくなるか、俺が自分を守るためにこの世界を消さざるを得なくなるか……今の俺の想像の範囲だと、きっとそういう選択になってくる。


 たとえ俺の前世が神様だとしても、人間は怖い――――




 


 

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