排尿神オモラス外伝──オムツ職人・未定
AM3:00
オムツ職人の朝は早い。
人々がまだ夢の中にいる時刻。
下腹部のひんやりとした感覚とともに目を覚ます。
彼は慣れた手つきで布団を剥がし、迷うことなく洗濯機を回す。
これが、オムツ職人・未定の毎朝のルーティンである。
──Q.この習慣は、いつから続けているのですか?
「覚えてないですね。ずっとやってます」
──Q.毎朝、この時間に洗濯をするのは大変ではありませんか?
「慣れました。いつものことですから」
AM3:17
洗濯を終えるまでのわずかな時間。
未定は工房へ向かう。
そこには、大小様々なオムツが所狭しと並ぶ。中にはおよそオムツとは言い難い物もある。
「なかなか片付ける時間がなくてね」
未定は照れたように頭を掻いた。
──Q.ご自身は履かないのですか?
「感覚が鈍る」
ひと言だけ返し、未定は全身鏡の前に立った。オムツの材料だろうか。その手には一本のしめ縄が握られていた。
未定はそれを下腹部にあてがい、真剣な眼差しで鏡を見つめる。その表情に、オムツ職人としての妥協は一切ない。
──Q.なぜ、この仕事を選んだのですか?
未定は少し考えて答えた。
「物心つく頃にはもう作ってた気がします」
──別の日。
「誰もやらなかったから、仕方なく」
──また別の日。
「手持ち無沙汰で」
──さらに別の日。
「友人に誘われて」
本心を見せない彼だったが、ある日、取材班は彼の独り言を耳にする。
「…………なぜこの仕事を……?」
AM7:00
工房の前には、すでに長い行列ができている。
幼子から老人まで。
我々は、列に並ぶ客の一人に話を聞くことができた。
「ここのオムツは全く違う。安心して漏らせる。最近はトイレに行かなくなったくらい」
そう笑顔で答えてくれたのは、無駄のない無駄な筋肉が印象的な、オムツ姿に白いマントを纏った老雄だった。
そんな折、行列の間を縫って数人の警察官が未定を尋ねた。
「未定さん、ちょっといいですか?」
…………
──医薬品医療機器等法違反。
未定はオムツの吸収力を高めようと、独自に調合した謎の薬品を吸収材に使用していた。
拘禁30年が言い渡された。
神社からしめ縄を無断で持ち去ったこともあり、重い量刑となった。
後に彼はこう語る。
「オムツのことしか考えられなかった。深く反省している」
*
時は流れ、あの工房には、長い服役を終えた未定の姿があった。
「もうあんな思いは懲りごりですよ」
そう笑顔で語ると、彼は手に持った御神木を下腹部にあてがい、あの日と変わらぬ真剣な眼差しで鏡と向き合った。
その数日後。
「できた……」
彼の両手には神々しい純白のオムツが一枚、輝きを放っていた。
「……こうしちゃいられない!」
未定はそれを持って勢いよく工房を飛び出した。
*
──「オモラス! 新しいオムツだ!」
未定は純白の神オムツを天高く掲げた。
「……! とうっ!」
オモラスが跳ぶ。
空中で交差する、神と神オムツ。
『フルアムドチェンジ!』
一瞬の閃光──
その陰で、未定に声を掛ける者がいた。
「未定さーん、ちょっといい?」
警察官だった。
*
後に彼は語る。
「オムツのことしか考えられなかった。深く反省している」
そう口にした未定は、取材中、工房で流れていたテレビの画面に釘付けになっていた。
画面には、遠く離れた国で行われている祭事の様子が映し出されていた。
古くから受け継がれてきた、由緒ある神輿が紹介されている。
未定は、しばらくの間、黙ってその画面を見つめていた。
「…………!」
その眼差しには、オムツ職人としての矜持が宿っていた。
「すまん! 急用ができた!」
そう言い残し、未定は勢いよく工房を飛び出した。
この取材を最後に、我々が彼の姿を目にすることはなかった。
ドキュメント 〜オムツ職人〜
神代 未定
終わり
《SHLニュース》
──速報です。
昨夜未明、稀代のオムツ職人として知られる神代未定さんが、トト国で拘束されていたことが分かりました。
警察の調べによりますと、神代さんは同国の祭事に使用される神輿を持ち去ろうとしていたところ、現地の神官に取り押さえられたということです。
関係者によりますと、神代さんは取り調べに対し「気が付いたらここにいた」「オムツについて考えていたことは確か」と供述しており、神輿を持ち去ろうとした動機については、現在も明らかになっていません。




