秘密の調薬室
秘密の調薬室は、月光を透過させるステンドグラスによって、深い青の影に沈んでいた。
カイルは、大理石の作業台に座らせたリリアーヌを、逃げ場のない両腕の間に閉じ込める。彼から漂うのは、冷涼な雪の香りと、独占欲という名の焦燥。
「……リリアーヌ。今夜の君は、まるで私の指の間から零れ落ちる月光のようだ。捕らえたと思えば、その瞳はいつも私の知らない深淵を見つめている」
カイルの低く甘い声が、彼女の耳腔を震わせる。彼は彼女の白磁のうなじに鼻を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。
「君を失う絶望を、私は一度たりとも忘れたことはない。あの日、雪の中で赤く染まった君を抱いた時の『死』よりも冷たい感覚が、今も私の心臓を凍りつかせているんだ」
彼はリリアーヌの細い首に手を伸ばし、赤いネックレスを着けた。それは単なる装飾品ではない。カイルの魔力が込められた、彼女の居場所と鼓動を彼に伝える、優美な「枷」である。
「これを嵌めている間、君のすべては私に共有される。……不自由だと思うか? それとも、私に繋がれているという事実に安らぎを覚えるか?」
「……貴方の独占欲は、まるで嵐のようですわ。けれど、その激しさがなければ、私の凍えた魂は溶けなかったでしょう」
リリアーヌは、カイルの頬を撫でた。指先が、彼の狂気を孕んだ美しい瞳をなぞる。
「私の主。……貴方が私を閉じ込めたいと言うのなら、私はこのネックレスに絡め取られる蝶になりましょう。ただし、その翅を千切るのは、貴方の慈悲深い唇でなくては嫌ですわ」
その挑発的な愛の言葉に、カイルの自制心は音を立てて崩れ去った。
彼はリリアーヌを抱き寄せ、ドレスの肩口を乱暴に、けれどどこか祈るような敬虔さで引き下げた。
「……後悔しても遅い。君を壊したいという衝動を、もう抑えられない。今夜、君の肌に刻まれるのは、消えることのない私の愛の紋章だ」
カイルは彼女の鎖骨の窪みに、深く、熱い痕を刻みつける。
リリアーヌは背を反らせ、彼の漆黒の髪に指を埋めた。窓の外では、銀世界の静寂に包まれているが、この部屋の中だけは、灼熱の熱情が吹き荒れている。
暴君の腕の中で、甘美な服従という名の王座に就いていた。
「リリアーヌ……。私の呼吸を奪い、私を狂わせた責任を、その一生をかけて取ってもらうぞ」
「ええ……。死が二人を分かつまで。いいえ、死んでさえ、私は貴方の檻から逃げ出しはしません」
月の光に照らされた二人の影は、永遠の呪いのように、濃密に重なり合った。




