嫉妬という名の焼印
目を開けると、そこはリリアーヌが今まで見たこともないほど豪奢な寝室だった。
天蓋付きのベッド、最高級のシルクで織られた寝具、そして部屋の隅々にまで漂う、甘く重い香。
「……目覚めたか、リリアーヌ」
低く、深く響く声。傍らの椅子に腰掛け、まるで一睡もせずに見守っていたかのように、カイルが彼女を覗き込んでいた。
「ここは……隣国の王宮ですか。私を、本当に連れ去るなんて」
「さらったと言ってほしいな。君の国の騎士共は、私の影を見ただけで蜘蛛の子を散らすように逃げ出したぞ。……エドワードという男の底が見えたな」
カイルは嘲笑を浮かべながら、リリアーヌの指先を掬い上げ、恭しく唇を落とした。その瞳は、彼女を二度と離さないという執着に濁っている。
「君には、この国で最も安全で、最も贅沢な生活を約束しよう。食事、服、宝石、そして……私という盾。すべて君の自由だ。……ただし、この部屋の扉だけは、私なしで開けることは許さないがね」
完全な監禁だった。だが、リリアーヌは戸惑うどころか、その完璧な「セーフティネット」に満足の笑みを浮かべた。
「ええ、構いませんわ。むしろ好都合です。……カイル様、私は今すぐ、最新の設備を備えた調薬室が欲しいの。エドワードたちが私の『功績』として盗もうとしている薬を、彼らの喉を焼き切る『毒』へと書き換えるために」
リリアーヌの言葉に、カイルは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐさま愉悦に満ちた表情で彼女を抱き寄せた。
「いいだろう。世界中の稀少な毒草も、伝説の錬金術師の道具も、すべて君の足元に揃えてやろう。……君がその毒で世界を滅ぼしたいと言うなら、私は喜んでその先陣を切る」
それからの日々、リリアーヌはカイルからの「重すぎる愛(溺愛)」を一身に受けながら、王宮の奥深くで静かに牙を研ぎ続けた。
カイルは公務の合間を縫って、一日に何度もリリアーヌの元を訪れる。彼女が調薬に集中している背中を黙って見つめ、時には背後から抱きしめて、彼女の存在を確かめるように心音を聴く。
「カイル様、邪魔ですわ」
「……あと五分だけだ。君の香りが足りないと、私は狂ってしまいそうなんだ」
ひたすらに濃厚で、一途な執着。 だが、その歪な愛こそが、リリアーヌに「最強の武器」を磨くための時間と余裕を与えていた。
一方、エドワードたちの元には、リリアーヌから一通の「招待状」が届く。 ――隣国の王宮で催される、大夜会。
リリアーヌが仕掛けた、残酷な逆転劇の幕が上がろうとしていた。




