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絶望の断頭台からの目覚め

 凍てつくような雪が、剥き出しのうなじに舞い落ちる。

 断頭台に跪かされたリリアーヌの視界は、どろりとした絶望に染まっていた。  

「……見苦しいよ、リリアーヌ。君のその『有能すぎる頭』が、僕たちの輝かしい未来には邪魔だったんだ」

 婚約者であった第一王子・エドワードが、冷淡な声で告げる。その隣には、リリアーヌの親友であり、共に薬学を学んだはずの聖女マリアが、勝ち誇った笑みを浮かべて寄り添っていた。

 国王毒殺未遂――。 リリアーヌが国のために心血を注いで調合した『万能薬』は、マリアの手によって、いつの間にか『致死毒』へとすり替えられていたのだ。

 「最後に言い残すことはあるかな? 反逆の毒婦殿」

 エドワードの嘲笑に、リリアーヌは乾いた唇を噛みしめた。

 喉は焼かれ、声も出ない。  (ああ……。信じていたものすべてに、私は殺されるのだわ)  処刑人が無情に刃を吊り上げた、その時だった。  

「――そこをどけ、不浄の輩ども!!」 城門が轟音と共に吹き飛ぶ。

 降りしきる雪の中、漆黒の軍馬を駆って乱入してきたのは、隣国の「暴君」と恐れられるカイル皇太子だった。

 返り血を浴びた剣を振るい、狂気じみた形相で処刑台へと突き進むカイル。かつてリリアーヌが、他国の侵略者として冷たく追い払ったはずの男だ。 「リリアーヌ! 今、救ってやる! 貴様を殺していいのは、この私だけだ!」  カイルの絶叫が空を切り裂く。

 だが、無情にも刃は落ちた。 視界が反転し、銀世界が赤く染まる。

 最後に見たのは、自分を抱きかかえ、天を仰いで慟哭するカイルの、あまりにも重く、歪んだ愛の形だった。


「……さま、リリアーヌ様!」

 温かな陽光に照らされ、リリアーヌは跳ね起きた。 目の前には、処刑場で真っ先に自分を裏切ったはずの侍女が、まだ幼さの残る顔で立っている。

「ひどい寝汗ですよ。うなされていらしたけれど、また薬草の研究で夜更かしされたのですか?」    鏡を見れば、そこにはまだ「毒婦」と蔑まれる前の、十七歳の自分がいた。 指先が震える。だが、その瞳には冷徹な炎が宿っていた。

「……ええ。とても『良い夢』を見ていたわ」

回帰したのだ。あの絶望の五年前へ。

リリアーヌは机の上に並んだ薬草を一瞥し、迷わず「致死性の高い毒草」を手に取った。  今世では、ただ守られるだけの調薬師でいるつもりはない。

「薬も毒も、使いようによっては武器になる。……裏切り者たちには、相応の死を」

そして、あの処刑場で見せた、カイルの狂おしいまでの執着。

(カイル様……。貴方のその『重すぎる愛』、今度は私の方から利用させてもらうわ)

リリアーヌの二度目の人生――それは、復讐と、逃げ場のない溺愛への幕開けだった。

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