第1話 私はあなたを忘れないよ。きっといつまでもね。
演劇 宇宙の音 うちゅうのおと
つき へんてこな形をしている少女 お嬢様
すう 完璧な形を持つ美しい少女 お嬢様
ねる 形がない不思議な少女 お嬢様
あく とっても美しい演劇部の先生 演劇の天才 元お嬢様
私はあなたを忘れないよ。きっといつまでもね。
遠く、離れた場所で。……、君を探しに行く物語。
私がすうと初めて出会ったのは、小学校の高学年生(五、六年生)ころだった。そのころ、私の住んでいる街に引越しをしてきたすうは、そのころから『完成された、しっかりとした輪郭を持った美しい形』をしていた。(つまり、もう完成していたのだ)
性格も明るくて、素直で優しいすうはすぐにみんなの人気者になった。みんながすうのいうことなら、なんでも信用したし、素直にいうことを聞いてくれた。(無理して、頑張ってみんなを説得しながら、教室をまとめようとしていた私とは大違いだった)
そんなすうとは違い、私は『歪んだ、醜くて安定しない、とてもいびつな形』をしていた。
すうと出会うまでは、そんなこと思ったり考えたりしたこともなかったけど、すうと出会ったあとでは、私には(心が痛いくらいに)それがよくわかった。
すうははっきりとした光の中にいた。そして私は、そんなすうを照らし出す星の光の外側にある暗い闇の世界の中にいたのだった。
そんな私とも、すうはちゃんと友達になってくれた。(教室の全員とすうは友達になろうとしていたからだけど)
私はすうと友達になれて、すごく、すごく嬉しかった。
私たち(教室のみんな)はすうを中心として小学校の高学年時代の二年間を過ごして、それから私たちは小学校を笑顔で卒業して、中学生になった。
私はすうと同じ中学校に入学した。
すうは中学生になっても、ずっと人気者のままだった。すでに未成熟な子供とは思えないような完成された形を持っていたすうは、(私は相変わらず、いびつな形をしたままだったけど)中学生のある時期からモデルの仕事をするようになった。(すうはモデルとしても、私の予想通りにすぐにみんなの人気者になった)
私はすうはこれからプロのモデルさんとして、将来を生きていくのだと思っていたのだけど、すうは中学校の卒業と同時に、モデルの仕事をやめてしまった。(理由はよくわからない。珍しくすうは私が、「どうして?」と理由を聞いても困った顔をするだけで本当の理由を私に話してくれなかった)
私とすうは同じお嬢様たちの集まる有名な高校に進学した。このころ、小学校時代からずっとすうと一緒にいるのは私と、それからもう一人のなにを考えているのか、昔からずっとわからない、いうなれば『決まった形や輪郭を持たない、透明で空気みたいな無形(形を持たない)』の変わりもののねるちゃんだけになっていた。(ほかのみんなはすうの明るい光に耐えられずに、どこか違う場所に旅立って行ってしまった)
「私、高校で演劇をやることにしたんだ。つきも一緒にやらない?」
「演劇? 私が?」
教室でもうずいぶんと昔のことを思い出しながらぼんやりと窓の外を眺めていた私は、すうにそう言われてすごくびっくりした。
なぜなら歪んだ、醜くて安定しない、とてもいびつな形をしている私にとって、演劇とは、(あるいは人前で目立つような、大勢の人たちに注目されるような行為をすることは)誰かの形を真似るお芝居をすることは、この人生において、永遠にない(絶対にない)と思っていたことだったからだった。




