表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪役令嬢に転生したけれど、ゲームで描写が無い場面はどうすればいいでしょうか

作者: ノミ

「あら、ごめんあそばせ。まさかあなたのだとは思わなくて。ゴミだと思ったわ」


 これはよく覚えている。何回もやって、全キャラの全セリフ覚えた学園神ゲーのセリフの一つ。悪役令嬢サキが主人公と出会う場面のセリフ。


 まさかそれを自分が言う日が来るとは。


 私は気づけばこの悪役令嬢サキになっていた。気づいたのは、ついさっき。主人公に出会った瞬間、全てを思い出した。ここはゲームの世界であること。そして、自分が悪役令嬢であること。


 まあ、なってしまったからにはしょうがない。どうしていいのかも分からないし、とりあえず悪役令嬢になっておこう。幸い、セリフは全部覚えている。この場面もさっきのセリフを言って、オーホッホって去っていく。簡単。


 ……去っていくってどこに?


 普通に考えて、下駄箱へよね? え? 合ってる?ゲーム内の描写は去っていくしか描いてなかったから、どこへってなかったわ。


 っというか、気づいた。ゲームに描写の無い場面はどうすればいいのだろう。この出会いの場面の次は、教室での一悶着まで登場が無い。その間私はどうすれば?


 今私はどこへ行けばいいの? 何をすればいいの? 後ろでは、主人公が私に踏まれたリボンの汚れを落としている。かわいそう。ただ、風にリボンが飛ばされただけなのに、踏まれて、馬鹿にされて嫌な思いをしている。


 ……これ謝りに行ったらどうなるんだろう。


 ゲームでは、この後主人公はリボンを巻いて、気を取り直し教室に向かったとしか描写がない。つまり、教室に行くまでの過程は描かれていない。教室に行くまでに私と談笑してる可能性もあるのでは?


 映画とかでもあるよね。役で敵対していた二人が、カットがかかった瞬間、仲良く談笑しているメイキング映像とか。あれみたいなったりしないかな?


「……あの、さっきはごめんなさい。わざとじゃないの」

「え!?」


 ということで、戻って主人公に声を掛けてみた。主人公は口をあんぐりと開けて驚いている。

 そりゃそうよね。さっきあんなゴミだのなんだの言って、オーホッホなんて高笑いしながら歩いて行った奴が、そそくさ戻って来て普通に謝ってくるんだもんね。こいつ頭おかしいのでは?


「気を悪くしたら申し訳ないのだけど、リボン踏んだのはわざとじゃないし、あんなこと言っちゃうのは、あの、シナリオ……、きょ、教育のせいなの……」

「え?」

「あ、いえ、なんでもない。その、あの、えーと、ご、ごめんなさい!それだけだから!」

「ええ!?」


 私はよく分からないことを口走り、居ても立ってもいられずその場から逃げだしてしまった。そして、下駄箱につき、一息ついて冷静になってしまう。


 やっぱりこいつヤバいのでは?教育のせいって何?まあ、確かに教育のせいかもしれないけど。でも、主人公からしたらそんなの知ったこっちゃない。ただ目の前で、ほんの数秒で言動が変わるヤバい奴が行ったり来たりしているだけ。そりゃ「え」しか言えなくなるよ。


 と言うか、そんなにコミュニケーションが得意でもない私が何をしてるんだ。ちょっとテンションが上がってやっちゃたな。


 でも、これからどうしよう。これは乙女ゲームなので、ヒーロー達の場面が多く、サキの出番はあまり多くない。つまり、分からない場面がほとんどということ。

 今も下駄箱から移動して教室の机に座っているけれど、今何すればいいの? 本でも読めばいい? それとも優雅にお茶でも飲んでればいい? ペットボトルしかないけど。あっ……、


「あら、あなた何しているの?ここは私の様な優れた者のクラスよ。あなたみたいな平凡はここじゃないわ。……え、同じクラス?あなたみたいな華が無いのと?はあ。学園が間違えたんじゃない?」


 体が勝手に動いた。セリフを勝手に言った。これはサキと主人公が同じクラスになり、主人公が教室に入って来た時一悶着ある場面。


 もしかして、シナリオのセリフや行動は絶対に行うのだろうか。だって、私は窓側の一つ横の列で、その列の後方の席に座っていたんだよ? 教室の前の扉から入って来た主人公の方へわざわざ早歩きで駆け寄っていったのだから。この行動力すごくない?


「こいつは同じクラスだ。あの座席表にだって名前がある。何か文句あるのか?」

「っ!?あ、あら、天間様。そうだったのね、オホホ」


 そして、ヒーローの一人、天間の登場だ。


 私はオホホと言いながら、自分の席へと帰る。うわ、恥ずかしい。あんな偉そうなこと言って、一喝されたらすぐに引く。小物過ぎる。それに無駄に席が遠いのが辛い。帰るまでのみんなの目が痛い。なんで行ったんだサキ。


 そして、新事実発見。なんと、主人公の席は私の後ろだったのだ。ゲームでは主人公の横の席が天間だと言うことは示されていた。

 教室の窓側一番後ろに天間、その横に主人公。それ以外は示されていなかった。まさか私が二人の一個前の席だとは。ゲームの中でサキは、どんな顔してこの席座っていたんだろう?


 さらに思い出したが、ゲームをしている時に表示されるスチルの一つ。教科書を忘れた主人公へ、天間が教科書を見せてあげるというものがある。二人の机をくっつけ、体も近づけながら、「勉強に集中出来ないよ〜」と顔を赤くした主人公と、涼しい顔した天間を描いた一枚絵がある。


 ゲームをしていた時はキャーなんて喜んでいたけれど、これが自分の後ろの一席でやられると思うと真顔になる。授業中に何イチャイチャしてんの?と。

 あれ? あの絵って二人を近距離から真正面で捉えていたのね。……まさかカメラマン私?


 そんなこんなをしながら、何とか一日目が終わった。食堂での「オホホ」や、自己紹介での「フン、平民が」みたいなのがあったが何とか終わった。この後、サキが登場するのは来月の校外学習だったはず。


 来月までとりあえず何も無いから、これからの立ち回りについて考えよう。まずは、ゲームのサキのことを振り返ってみよう。


 このゲームにおけるサキは、主人公に嫌がらせをし、最後には断罪され、家も悪事がバレ、一家共々没落していくという役。没落後がどうなったかは描かれていないけれど、まあ酷いことにはなっているんだろう。


 そして、シナリオに描かれてある行動やセリフは必ず行われる。

 教室での一悶着が勝手に体が動いたと思ったので、食堂でのイベントは主人公を無視して進もうとした。しかし、主人公のところで足が勝手に止まり、口が勝手に動き出した。自分の意志に関係なく、サキとしてのセリフ、行動は必ず行われる。


 だから、このまま普通にしていたら、シナリオ通りに没落していくだろう。



 ……別にいいのでは?


 やったことに対する報いを受けるだけだし。それに没落っていうけれど、どこまで没落というのか分からないが、死ぬということは無いはず。このゲームは全年齢対象だから、そんな過激なことはないはず。


 それにセリフや行動が必ず行われるのなら、没落時のセリフもあるため、どんなに頑張っても没落は変えられないだろう。


 親の悪事がバレて財産などが無くなるということは示されていた。それなら、それに備えておけばいい。



 そうだ。サキとしては悪役令嬢としてシナリオ通りに全うしてくれればいい。それに干渉はしない。

 そして、私は私として振る舞う。幕間は自由に動けるのだから、その間は普通に私として過ごそう。


 だから、サキとして主人公を罵倒した後には、全力で私が謝りにいこう。サキが主人公の物を壊したら、私が同じ物の新品を用意して返そう。


 サキが好き勝手やり、その後全力で私が媚を売りに行くのだ。


 そうすれば、私は二重人格者として扱われるはず。

 同一人物がやった直後に真逆のことをしてくるのだ。やられる側からしたら恐怖では?これは二重人格とか思えない。


 そして、没落が決まった瞬間、シナリオは終わりサキとしての人格が消える。私はまともになり、贖罪のために色々頑張るからと少しでも助けてもらえるようにしよう。


 変えられないシナリオの後が少しでも良くなるように。目指せ、二重人格者。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ