第5話 白雪姫、参上す
女王の住まう城の敷地面積は6000平方メートルほどもある。これはシンデレラ城のモデルにもなったノイシュヴァンシュタイン城とさして変わらない広さだ。
それもこれも女王が国庫から無理やり捻出した金で建造、維持しているのだが……女王お気に入りの城は今や戦場と化していた。
『食らいやがれ女王!! これが戦争だァッ!!』
『ファックしてやるぜベイベー!! ケツ向けろ!!』
小人のアパッチが放つ魔法のハイドラミサイルは壮麗な尖塔を叩き折り、わざわざ教会を潰してまで運び込んだ女王お気に入りのステンドグラスも慈悲なく破壊していく。
降り注ぐガラスと瓦礫の雨に、たまらず衛兵たちは城壁に隠れようとするが、ほぼ全方向から小人たちは攻撃を繰り出している。
「あああああああ!!」
「誰か……きて、助けてくれ! 足が吹き飛んで……あああああッ!」
衛兵たちはもはや抵抗する術も戦意も失い、物陰に隠れるか庭で撃たれるのみである。城の中にいた使用人や衛兵はまだマシだっただろう。窓からしっかりと離れれば被害も少ないのだから。
「ッ!? 塔が倒れるぞ!! 逃げろ!」
小人による攻撃により、尖塔の一つが折れ、凄まじい轟音と砂煙を巻き上げながら倒れた。
「げっほげっほ……クソ、もう嫌だ! 女王なんてクソだ! あんなもんを担ぎ上げた国民もクソだ! 皆何もかもクソッタレだ!!」
「おいアパッチが退いていくぞ! やった! 弾切れだ!」
「なんだと?」
気が付けば小人の駆るアパッチは城から離れていきつつあった。
『女王とその配下の者共よ。今度はこの程度では済まさんぞ! 負傷者の手当をしてやれ。ではさらばだ』
小人のアパッチは大音量でそう告げると去って行った。
「た、助かった……」
「負傷者を運べ! 手当をしてやるんだ!」
「お、終わったのですか?」
「ええ」
玉座の間に現れた衛兵が見たのは、部屋の隅で使用人と共に震えながら亀になっている女王の姿だった。あまりの情けない姿に衛兵は溜息を吐きそうになった。
「被害はどのくらいですか?」
「城は尖塔がへし折れています。加えて城壁も崩壊している箇所が複数。人員の被害は今調査中ですがね」
「白雪姫が来たのでしょう?」
女王の問いに衛兵は眉をひそめた。
「いえ、恐らくですが小人達のみかと」
「この愚か者!」
女王は突然激昂したかと思うと、使用人が持っていた懐中時計を投げつけた。
「な、なにをなさるのです」
「猟師が帰ってこず、代わりに小人がやって来た。なら白雪姫は何処にいったのですか!?」
「し、死んだのでは? それの報復で……」
その時だった。城の外から何かが炸裂する音と共に悲鳴が響き渡った。