第2話 猟師を猟する
狩人は焦っていた。
「嘘だろなんで避けられたんだよ。どんな勘の良さなんだ」
アサルトライフル、AKMを手に猟師はその場からの撤退を始めていた。白雪姫はドレスを着ていても分かるほどの巨大な筋肉の塊、生半可な武器では歯が立たぬと彼は銃を持ってきたが、白雪姫はそれすらも回避してしまった。
恐らくだが大まかな位置もばれてしまったことだろう。その場に留まっていてはどんな攻撃が飛んでくるか分かったものではない。
──留まって狙撃するにも視界が悪いし遮蔽物が多すぎる。距離だ。一旦距離をとるんだ。そうすりゃ俺も...…
ジャイアントセコイヤが乱立する森の中を猟師は走る。
「ハァッハアッ……あ、あそこの岩に隠れよう」
息切れを起こした猟師は目の前に見えていた岩に姿を隠すことを決めた。
自分の身長を上回る大きな岩だ、これならばみつかるまい。
「白雪姫……コードネームスノーホワイト。雪降った地雷原を50km以上歩いて敵軍の指揮官を暗殺しに行った戦闘マシーンだ……女王はなんだってあんなもんこの国に受け入れたんだ。というかなんでドレス着てんだよ」
ぼやきながら猟師は後ろを観察する。白雪姫は──追ってきてはいないようだった。
「ああクソ。受けるんじゃなかっギャアアアアッ!!」
腕に痛みを感じた猟師は突然叫び声を上げる。
「な、なんだ……ひぃっ!?」
腕を見た猟師は短く悲鳴を上げる。彼の腕には1本の木の棒が突き刺さっていたのだ。
まっすぐな木の枝の先をとがらせた槍だ、誰かは分からないが猟師の側面方向からこれを投擲して見事命中させたのだ。
「し、白雪姫だ! クソっ、畜生っ!」
疲労と恐怖で、猟師の足は震えていたが、それでも走った。
「ハァッハァッ……く、クソ! どこだ!? どこに居やがるんだ!?」
四方に視線を向けるが、どこにも白雪姫の姿は見えない。
だがいる。この粗末な槍を投げて、当てられる距離に白雪姫はいるのだ。
「クソッタレがぁぁぁぁッ!!」
猟師の足はもつれ、その場に転倒。起き上がった猟師は白雪姫がいそうなところに向かってAKMを乱射した。
だがどこにも手応えはない。
「どこに、どこに居やがる!? 出てこい白雪姫!! それとも銃が怖いのか!?」
叫ぶ猟師。
彼の叫びが届くことはない。
「クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!」
再び逃げようとした、そのときだった。
「ガハッ」
「どこに行くんだ? 挨拶くらいしていけよ」
後ろから声が聞こえ、振り返った瞬間、突如猟師の身体が宙に浮いた。彼の首にはまるで万力のような力をこめてくる手があった。
血管の浮いたその手の持ち主はそう、白雪姫である。
「た、助け……助けて……いの……ちだけは」
「雇い主を吐けば助けてやる」
猟師は白雪姫の手から逃れようともがいた、手を引っ掻き、足をバタバタと動かし、全力で抵抗したが、まるで大木に息を吹き掛け倒そうとしているようだった。その鋼のような腕はびくともしない。
もはやこれまで、猟師は吐いた。
「じ、女……おうだ。女王だ!」
「なるほどな。ありがとうよ。ところでさっきの約束だがな」
「ひ、ひへ...…?」
「あれは嘘だ」
短く告げたあと、白雪姫はまるで小枝を折るような容易さで猟師の首をへし折った。