第1話 事の始まり
白雪姫は森にいた。7人の小人達と共に。
小人とは言うがあくまで白雪姫と比べれば、の話である。
「倒れるぞー!!」
白雪姫の野太い声が響き渡った直後、まるで雷が落ちたかのようなバリバリという音が響き渡る。
音の出所は何処なるや、そう思い上を見上げれば倒れてくるのはまるで塔とみまごうほど巨大なジャイアントセコイヤ。
そう、白雪姫は木こりであったのだ。
身長211cm、体重280kg、まるで鋼のような筋肉を誇る巨漢、いや少女であったのだ。
針金のごとき逆立つ短い黒髪、強い意思を秘めた黒き瞳。名前の由来の1つである雪のように白い肌にはハクトウワシを模したタトゥーを入れ、腕には若大将を思わせる針金のような腕毛が生えていた。
そんな彼女は今しがた斧を持ちジャイアントセコイヤの成木を叩き切ったのである。
「おーい白雪姫! 休憩しようぜ! 良いもん持ってきたんだ! キューバの葉巻だ! 上物だぞ!」
「そいつはいいな! 今すぐいくぜ!」
小人が見せびらかしてきた葉巻を見るや否や、おがくずまみれの白いドレスを翻し、ヘルメットを投げ捨てて駆け寄っていった。
葉巻カッターで吸い口を作り、長いマッチでゆっくりと火をつける白雪姫。労働の合間に吸うこの1本が白雪姫の幸せだった。
小人が持ってきた葉巻は確かに上物であり、白雪姫もご満悦だ。いつもの1本20ドルの葉巻とは違う。
「ふぅ、いいねぇ身体に染み渡るぜ」
倒れたジャイアントセコイヤに小人達と一緒に座りながら一服する白雪姫。
「はっはっは! 昼飯代わりに持ってきて正解だったな白雪姫。うめぇだろ?」
「ああ勿論だ」
ゆっくりと煙を吐きながら黄ばんだ歯を見せ笑う白雪姫。
「ところでよ白雪姫。いい加減チェーンソーに変えたらどうなんだ? その斧じゃ時間かかるだろ?」
「なんだ? 切るの遅かったか?」
「いやいつも通り早いけどよ。疲れねぇか?」
小人の言葉に、白雪姫は腕をまくりタトゥーの刻まれた見事な上腕二頭筋を見せつける。
「この筋肉を見ろよ! こいつは疲れ知らずさ! はっはっは!」
「ちげえねぇや! アッハッハ!」
ジャイアントセコイヤが乱立する深い森の中、白雪姫と小人の笑い声が木霊した。
だが白雪姫も小人も知らない。白雪姫に危機が迫っていることを。
「はっはっはっは……うん?」
最初に異変に気がついたのは白雪姫だった。
「どうしたよ? 白雪姫」
「伏せろ!」
叫ぶや否や白雪姫は座っていた小人達をジャイアントセコイヤから落とした。
「な、何しやがる!?」
刹那、森の中に雷のような音が響き渡る。
その正体は凄まじい勢いで撃ち出される弾丸の音色だった。
「いてぇ、いてぇよぉ……肝臓がやられた……もう、駄目だぁ」
「ジャクソン!? おい白雪姫、一体どうなってんだ!?」
小人の1人が腹に弾丸を食らって大量の血を流している。白雪姫はドレスの裾を破ると小人の腹を強く押さえつけた。
「おい白雪姫! きいてんのか!?」
「銃声と弾の発射速度から察するに使ったのはAKMだな。ジャクソンを見ていてくれ」
白雪姫は小人達と共にジャイアントセコイヤに隠れ、先程まで使っていた斧を手に取った。
「どこのどいつか知らねぇが。仲間傷つけられた礼はたっぷりとお返ししてやる」
白雪姫の鋼のごとき腕橈骨筋が怒りに震えた。