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エピソード2 エリスと魔道具

「まぁ。シュウの子はふたごなのね」


 シュウの腕に抱かれた男女の双子の赤子を珍しそうに見つめて、エリスは目を輝かせた。

 自分より年下の子を初めて見たエリスは、ふぎゃふぎゃと泣く赤子に興味津々だ。普段は自分より年上の者としか接していない分、珍しいのもあるのだろう。


「男の子がダフ、女の子がラブと申します」


 どちらもシュウに似て、赤子というのに目鼻立ちの整った可愛らしい双子だ。同じように真っ白な産着に包まれているので全く見分けがつかなかったが、女の子の方が僅かに魔力が多いように感じる。


「あ、そうだわ!」


 エリスは私室に置いていた試作品の魔道具である『魔力測定眼鏡』を掛けて、もう一度双子を見た。


「やっぱり。ラブの方が魔力の方が多い! きっと将来はゆうしゅうなまじゅつしになるわね」


 見た目がそっくりな双子と言えど違いがあるのだと、エリスは賢くなったような気がして胸を張ったのだが。


「……エリス様。その眼鏡は?」


 どこか呆然としているシュウに問われ、エリスはうん? と首を傾げた。


「かていきょうしの先生に、魔力を見る方法をならったのだけど、わたくし、上手にできなくて。魔力を()()化するどうぐがあれば、簡単に見れると思ったの」


 エリスは慌てて眼鏡をはずして、後ろ手に隠した。家庭教師には、毎日練習すればちゃんと魔力が見えるようになると言われていたのに、道具を使ってズルをしたと思われるかもと、後ろめたくなったのだ。


「眼鏡で魔力をみているうちに、自分でも見るコツがわかるようになったの。こういったものをつかっては、だめだったかしら?」


 しょぼんと項垂れるエリスに、シュウは慌てて首を振る。


「……っ、いえいえ。足りない力を補うために道具を使う事は悪い事ではございません。ですがその魔道具については、旦那様にご報告いたしませんと」


 シュウは双子を乳母の手に渡し、急ぎラース侯爵へと報告に走った。

 あれほど焦った筆頭執事の姿を見たのは初めてだと、しばらく使用人の間で噂になるぐらいの慌てぶりだった。



◇◇◇


「これを、エリスがねぇ。そういえば、魔力量が多いけど、魔力を見るのも扱うのもまだ拙いと報告が上がっていたっけ」


 眼鏡を物珍しそうに見ながら、ラース侯爵は楽しそうに呟く。


「私も試してみましたが、確かに魔力を見ることが出来ました。素晴らしく画期的な道具かと!」


 珍しくやや興奮気味のシュウが、熱心に訴える。

 ラース侯爵はこんな小さな子ども用の可愛らしいメガネを、この美麗な執事が試してみたのかと、想像してみてなんだかおかしくなった。眼鏡の蔓の色も、エリスの好きな可愛らしいピンク色なのに。


「……なるほど。魔力を波としてとらえ、その揺らぎを測定できるように魔術陣を組んだのか。魔術陣の組み方はまだ荒いですが、面白い発想ですね」


 ラース侯爵の横で冷静に眼鏡を分析するエリスの兄ハリー。こちらもまだ子どものはずだが、まるで研究者のような目つきで眼鏡を調べている。


「魔力の可視化は、長年の研究対象だからねぇ。これまでもいくつか方法は確立されているけど、どれもコストが掛かったり、大規模な装置が必要で、なかなか実用化は難しかったのだけど……」


 その長年の魔術師たちの苦労が、あっさり幼子の手で解決してしまった。


「どうしようかな、これ。やっぱり王家に報告が必要かねぇ?」


「隠していては、煩そうですね」


 面倒だという気持ちを隠しもせずにラース侯爵がぼやけば、ハリーが淡々と頷く。ラース侯爵は「えー」っと、不満気な声を上げた。


「あ。じゃあさ、ハリー。王宮へ提出する報告書はお願いするね。流石にエリスが作るのは無理だろうからさ」


「嫌です」


 冷ややかにハリーに拒絶され、ラース侯爵は猫なで声でハリーを宥める。


「そんな事言わないでよ、ハリー。可愛い妹がせっかく作り上げた魔道具じゃないか。手伝ってあげてよ、お兄ちゃんでしょ」


「それをいうなら貴方は父親でしょうに。それに、私の筆跡では審査部門を通るとは思えません」


 いくらハリーが優秀でも、その筆跡は年相応に子どもらしいものだ。そんないかにも子どもの手による書類など提出したら、審査部門の職員たちに鼻で笑われてしまうだろう。


「……結局、私がやるしかないのかー。あーあ。陛下への説明も魔法省への申請も面倒だなぁ。なんて言って説明しようか」


 げんなりしているラース侯爵に、シュウが追い打ちをかけるように告げる。


「旦那様。エリス様の作られたものは、それだけではないようで……」


「はっ?」


 シュウが差し出したのは、一見すると普通の縄だ。だが薄っすらと魔力を帯びている。


「エリス様が、双子のゆりかごを揺らすのに使っていらしたものです。魔力操作の練習のために作られたと仰っていまして」


「ナニコレ。うわー。凄いねぇ、魔力の通りがいい。なるほど、魔力の扱いが苦手な子に、これを動かして魔力操作に慣れさせるのかー。ふんふん、縄に魔力陣を編み込んでいるんだねぇ、おもしろい……」


 興味深そうに魔力縄を観察していたラース侯爵だったが、次第にその顔が青ざめていく。


「ええっと。ちょっと確認しただけで、ものすごい汎用性がありそうな魔道具だなーと思っちゃったんだけど」


 たとえばこれを騎士団で使用すれば。意のままに動く捕縛縄になる。罪人を捕らえる際に有効だろう。


「魔力を封じる効果を施したモノもあるそうです」


「ちょっとー。無理無理無理。これ以上、仕事を増やさないでよ!」


 悲鳴を上げるラース侯爵に、シュウは穏やかな笑みを浮かべ、ハリーは冷たい目で告げる。


「「諦めて下さい」」


 かくして、この画期的な魔道具は、速やかに王宮に報告され。

 ラース侯爵には国王より直々に、この魔道具の更なる改良と定期的な報告が命じられたのである。





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