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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第一幕 邂逅と再会
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第五話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 中学の時、裏路地に雨の日にでる(・・)、という噂の真偽を確かめるべく、雨が降るよう夜中に雨乞いをした

 それを目撃した何者かが、何を勘違いしたのか、晴れが続くとでる雨乞いの幽霊、とまことしやかな話をでっち上げ、学校中の噂になった


 という話に、彼女が大いに笑ったところで、小さな朱色の暖簾が下がった店の前で立ち止まる


 ここです


 暖簾の左端に白地でバー二本松、と書かれていた文字が、吊るされた二つの裸電球で、ぼんやりと浮かび上がって見えた


 いや、バーって

 ここ、どう見ても小料理屋の居抜きをそのまま使って、名前だけバーにしただけでしょ


 すんでのところで、口から出そうになった言葉を止める

 いやいや、店構えだけで判断してはだめだ

 こういうの、アレだ

 隠れ家って分類されている店だ

 中には素敵なママがいて、最上のもてなしをしてくれるに違いない

 異次元の伸びしろを持つ、ギャップ萌え専門店、のはず


 いい感じの雰囲気の店だね


 ギリギリ嘘にならないことを言っておく

 後ろの二人も、恐らくオレと同じ心境だろう

 春樹なんか口が半開きだ


 ママー、ただいまー


 暖簾をくぐって引き戸を開けた彼女が、家に帰った子どものように店の奥に向かって言う


 ただいま?

 あれ、ママって本当にママ?

 いやいや知り合いの店って言ってたよな、と多少混乱する


 やだ、ほんとにノーゲス


 呟いてオレたちの方に振り返ると、


 あそこのボックス席どうぞ


 と、壁ぎわの半個室になっている、四人掛けのテーブルを指差した


 テーブル席は、カウンター挟んで反対側の壁に二人掛けが一つ、以上

 あとはカウンター席で、椅子が六脚置かれている

 店の外装のイメージと、一ミリの変化もなし

 バーの要素ゼロ

 焼き鳥とビール、もしくはおでんと徳利が出て来そうな、良く言えばノスタルジックな雰囲気の、悪くいえばただ年期の入った古くて汚い、正直に言えば屋台を少し大きくしただけの店


 あ、あった

 バー要素

 かかっているBGMがジャズだ

 が、これがかえって、ちぐはぐで奇妙な空間を演出することになっている


 ママー?と再度カウンター奥の暖簾に向かって、彼女が声をかける

 そうだ、きっと美しいママが最上のもてなしをし


 いらっしゃい


 恐らくキッチンで作業をしていた人物が、暖簾をわけて姿を現した

 瞬くん、ごめんなさい

 怪しいお店でした、助けて


 心の中で謝罪と懇願

 出てきたのは男だった

 店先に出ていた暖簾と同じ色の、朱色のタンクトップ

 その下には、はち切れんばかりの筋肉

 両肩にメロン付けてるやつって初めて見た

 盛り上がった胸筋の真ん中に白地でバー、と書かれている

 引き締まった腰には白い前掛けを下げ、それで手を拭きながらこちらに近づいて来た


 女性のウエストくらいはありそうな首の上には、イカツイ顔のおっさんの頭が乗っている

 ヒゲは生やしてないが、国民的人気アニメのN平さんをイメージすれば相違ない

 極限までイカツくしたN平さん


 なぁに、(あおい)

 いい男三人も連れ込んじゃってぇ


 その上オネエときた


 ふふふ

 注文聞いてあげて

 お手洗い借りるね


 この状況で彼女がいなくなる

 やべー

 期待していたギャップとは、全く違う方向に逝っちまってる


 イカツイN平は、オレたちの顔を品定めするかのように眺める


 さて、ご注文と


 と、前置きした次の瞬間、N平の顔が変貌

 白目をむいた鬼に変化した


 葵泣かせたやつ、お伺いしまぁす


 地獄に言ったら聞けそうな声色

 キレてる

 何かキレてる

 やべー、っぜってーやべー


 ジンフィズ


 はた、と一瞬全員が動きを止め、声の主を見る

 瞬が、先ほど焼肉屋で注文したのと同じ口調で、デカいN平にオーダーしたのだ


 ジンフィズ

 ちゃんとシェイクしたやつ、できる?


 ピクッとコワモテN平の眉が上がる


 それと、あおいって子?泣かしたのは俺たちじゃない

 そもそも泣いてもいない、聞けば分かる


 暫しの沈黙


 他は?


 やはりドスの聞いた声のゴリラN平


 ええっとー、おおおオレはオススメで


 ぼぼぼ僕も


 あのメロンを振り回されたら、絶対に生きては帰れない


 はいよ


 短く返事をしてメロンN平は、カウンターに去る


 助かった

 とりあえず

 って、さっきサラッと彼女の名前、名前言ってたよな


 あおい

 あおいって


 おまたせー

 ごめんなさい

 いきなり失礼しちゃって


 彼女が奥から戻ってきた

 名前、ちゃんと聞かないと

 早く

 オレの中の、ガキみたいな焦燥が再燃した


 あああああおいっちゃん

 で、いいかな?

 連絡先、教えて


 隣に座った彼女に、いきなり前のめりで話しかける


 しまった

 しまった


 向かいに座る二人も、もちろん彼女もポカンとしている

 彼女は大きな目を更に大きくして、長いまつげから音が出るようなまばたきをした


 信じられない


 彼女が、オレの目を見ながら呟く

 やべー

 いきなり連絡先とか

 マジ何やってんだオレ

 マジ信じらんねー

 嫌われた

 ぜってー嫌われた

 軽い男だって


 あたし、自分の名前も言ってなかった


 オレから視線を外して、両手で頬を挟む

 どうやら信じられないのは、彼女自身だったようだ


 なぁにぃ、あんた

 自分の名前も知らない子たち連れてきたのぉ

 やるわねぇ


 オネエN平が、カウンターから口を挟む

 カシャカシャと軽快な音をたてて、シェーカーを振る姿が意外と様になっている


 変な言い方しないでよ


 と彼女はバーテンN平に反論した


 ごめんなさい

 あたし本当にパニックだったみたい

 名乗ってもいないのに、飲みに誘うとか


 手で覆われた顔が赤くなっている

 わざと、じゃなくて本当に忘れてたんだ

 自分も名乗らなかったことはしっかり棚に置いて、その様子に安堵する


 ええっと、今更ですけど、改めまして

 あたし、神野(じんの)(あおい)と申します

 先ほどは助けていただき、ありがとうございました


 テーブルの前に立ち、ペコリと頭を下げる


 えっと、こういう時の自己紹介って難しいな

 えっと、歳は三一歳で、職業はフリー講師してます

 あ、さっき市が主催のセミナーがあってですね

 そこで講演してきたばかりなんです


 そう言って、鞄の中からセミナーのパンフレットを取り出し、テーブルに広げる


 食育と農業、今後のつながりと発展


 いかにもなテーマのセミナーの講演内容の最初に、基礎講演、講師 神野葵、とある


 ってか三一歳

 五個も上だった

 年上かなとは思ってたけど、せいぜい一、二歳だと思ってた

 もちろん良い意味で


 主に食育とか、ライフスタイルにあった食生活のあり方とか、そんなテーマで講演してます

 他にも料理教室とかヨガ教室を定期的に開催してるんですが、あんまり男性には興味のない話ですよね


 すまなそうに肩をすくめて見せる

 なるほど、四年前からいるのに、全く瞬も春樹も知らないわけだ

 活動のフィールドが違いすぎる

 いや、こいつらなら同じであってもスルーか

 こんな美女、街で見かけたら、オレならぜってー忘れねーけど


 そんなことより


 出たマッチョN平

 お盆にカクテルを乗せて、テーブルに熊の如く現れる


 助けてもらったって、何があったのよ


 瞬の前にジンフィズ、オレと春樹の前に透明な液体と串に刺さったオリーブが入ったカクテルグラス、葵ちゃんに半透明の黄みがかったキレイな色のグラスが置かれた


 ありがとう、ママ

 ちょっと飲んでからでいい?


 飲まなきゃ話せないようなこと?


 そう言いながら、N平は葵ちゃんの頭の上に丸太のような腕を乗せる


 んーん、飲みたいだけ


 丸太から顔を出して、いたずらっぽく笑う顔がたまらなくかわいい


 それにほら、みんなの名前も聞いてないし


 ゴツい肩をちょいとすくめたレスラーN平は、ごゆっくり、とまたキッチンに引っ込む


 ではとりあえず、乾杯で良いかな?


 葵ちゃんは、ニッコリ笑ってグラスを持ち上げた


 ちょっと待て

 春樹、お前はこっち


 瞬が自分のグラスと春樹のを入れ替える


 これ、何てカクテル?

 強そうだけど


 酒に疎い春樹が、瞬に問う


 マティーニ

 カクテルの王様って言われてるけど、悠はともかく、お前は一口飲んだらトぶぞ


 あはは、すっごいお酒強いんだって思っちゃった

 自分で頼んだんじゃないんですか?


 カラカラと表現するには可愛すぎる笑い方で、葵ちゃんが口をほころばせて春樹に問う


 いやぁ、店主の圧に押されて、オススメでって言ってしまったんだ

 これはジン、だよね

 僕飲んでも大丈夫?


 ジンフィズ

 度数は一七パーセント位だから調子乗って飲むとお前はアウト

 味はまぁレモンスカッシュだな

 飲み放題とかで頼むとジンをレモンスカッシュで割ったやつ出すとこ多いし


 バーテンダー泣かせって言われてるカクテルなんです

 すっごいシンプルなんだけど、だからこそ技量がモロに出るって


 瞬の後に、葵ちゃんが付け加える

 この辺の、一歩下がった感じもすごくいい

 なるほどねー

 それであの筋肉N平の反応

 こいつ俺を試しているな?的な

 いやいやいや試すなよ、あんな筋肉ダルマ

 勝手にケンカ売んな

 アホかてめー


 葵ちゃんのは?とオレが聞いたところで、瞬がイラついた様子で口を挟んだ


 おい、俺はいい加減飲みたいだがな?


 ヤバい

 普段は全然飲まねーくせに、スイッチ入ったら大ざるのやつだ

 血中アルコール濃度が一定数以下になると、不機嫌になる

 慌ててグラスと音頭をとった


 じゃ、葵ちゃん

 えっとご馳走になります、乾杯


 ホントは君との運命的な出会いに、なんて言いたかったけど、さすがに止めた

 あのムキムキミサイルが飛んで来そうで


 四人でグラスを軽く重ねると、澄んだ鈴の音が波紋のように広がり、オレの緊張や焦燥を中和する

 んーおいしーい、と隣で嬉しそうに葵ちゃんがカクテルを飲む

 お酒を美味しそうに飲む女の子って好きだな

 オレはマティーニで舌を濡らしたが、全く美味しさが分からなかった


 あ、これはねXYZってカクテル

 ラムベースかな、ホントはレモンジュースで作るですけど、これはグレープフルーツ絞ったので作ってもらってるんです


 その名の通り、締めの一杯で飲まれることが多いな


 と瞬のウンチク

 こいつは慣れたように、グラスを傾けている


 ふふ、そうなんだけど、あたしはいつでもコレ飲んじゃう


 これもすっごい美味しいよ

 大人のレモンスカッシュみたい


 と、ガキみたいな感想を嬉しそうに発言する春樹

 ううーん、そんなオレも、このマティーニを美味しく飲める日が来るとは思えない


 お口に合わなかったら、別の頼んで下さいね

 ビールとか普通のお酒もありますから


 オレの表情を読んで、葵ちゃんが気遣ってくれる

 優しい

 この上なく


 えっと、悠さん

 でいいかな


 急に名前を呼ばれ、出番が来た操り人形のように身体が硬直する


 ごめんなさい

 そう呼ばれていたので

 こちらが瞬さんと春樹さん?


 名乗る前に名前を言い当てられた心持ちだが、考えてみれば、オレたちはここに来るまでの間も、名前で呼び合ってたし、バスでのオカルト話で二人が登場しない話などなかったから、名前を認知されてても何ら不思議ではない

 改めて一人ずつ自己紹介する

 って言っても名前、年齢、職業くらいだけど


 葵ちゃんはニコニコしながら聞いてくれて、丁寧に一人ひとりに頭を下げた

 互いに余計な他己紹介もし合ううちに、短い時間で葵ちゃんは、どんどんオレたちと打ち解けていった

 表情はコロコロと変化をするようになっていったし、敬語はタメ口になっていったから、多分、オレの思い込みではない

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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