第六話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
場面は、ぎんがあっちの世界から単身で戻ってきて、葵が慌てて水たまりに腕を突っ込んだ時のこと
当然ぎんが何を言ったのか、という質問が出る
ぎんね、春樹さんと一緒に入口に向かってたはずが、入口を出る時に春樹さんが消えてしまったって言ったんだよ
それに、あっちの世界から戻ろうとしても、入口が小さくなりすぎていて、入れなくなっちゃって
すぐそこまでは来ているはずなのにって
それで手ー突っ込んだのか?
うん、まあ、冷静に考えたらおかしな行動なんだけど
でも、そのお陰で僕、戻って来れたんだよ
春樹、おめーはあっちの世界で何してたんだ?
どんなとこだったんだ?
悠が今度は春樹に質問する
春樹は少し考えてから、一つずつ記憶を手繰るように話し始めた
うーん、正直一時間以上もたってたなんて思わなかったよ
ほら、本殿の奥、登って行ったけど、なかなか辿り着かなかったじゃない?
瞬に戻ろうって言われて振り返った時さ、跨いだばかりの水たまりのこと、忘れてたんだよね
思いっきり踏んづけちゃったーって思ったら、全然バッシャーってなんなくて
あれ?って思って足元見たら、周りが全部ただの灰色の世界になってたんだ
怖くなって二人の名前呼んだら、ぎんが来てくれて
その後で、ももも来てくれて、こっちだって手招きしてくれた
ぎんが手を引っ張ってくれてたんだけど、急に目の前からいなくなっちゃってさ
今度は真っ暗闇になって、途方に暮れてたら、遠くで葵の声がして、手が伸びてるのが見えて、そこに向かって走ったんだ
でも、なかなか届きそうで届かなくて
いくら走っても暗闇は変わらないし、疲れないし何なんだろうって思ってたら、急に葵の手が近くに現れてさ、すぐに悠の手も現れて僕の腕を掴んでくれた
身体が持ち上がっていく感じがして安心したよ
でも、その後足の方からまた引っ張られる感じがしたんだ
焦ったよー
この二人の手が、もし離れてしまったら、二度とみんなに会えない気がして
でも、反対側の腕も伸ばせって言う瞬の声のが聞こえて、夢中で伸ばしたら、瞬の腕が現れて、僕を引っ張ってくれた
気がついたら周りにみんながいた
大体、こんな感じかな
走ってた時間って、どれくらいだったんだろ?
一時間もたってたんなら、それくらい走ってたのかな?
ここまで話して、春樹は腕を組んだ
相変わらず、質問が呑気すぎる
気になるとこ、そこか?
ぎんが春樹さんのところ行ったのが、花火始まる一〇分前くらいだよ
葵の説明に、
え、じゃ全然走ってないじゃん
と、驚愕と落胆
なんでそんなに走りてぇんだ、お前は
あっちの世界にはこっちで言う、時間って存在しないんだよ
こっちとあっちを行き来する過程で、相対的にあっちの世界の時間が長いとか短いとかなるだけで
ももは、あっちの世界で起きたことをこっちの世界の時間に合わせたり、うんと圧縮したり、ちゃんと一方向に進むようにしてくれているの
うーん、分かるような分からないような
春樹が神妙な顔つきで、腕を組み直す
焦燥や不安って感情も、時間の流れがあるから感じるんだよね
春樹さんが、引っ張ってもらってる時にそういう感情になったのは、こっちの世界と繋がれたからだと思うよ
おめーはこれからは焦るたびに、こっちの世界にいる幸せを噛みしめるこったな
えー
春樹はやはり、のんびりと答えながら額の汗を拭い、その腕から頭から、タバコの灰まみれであることを再確認した
ってかさ、助けてもらってなんだけど、出口の場所さ、もうちょっと考えてくれても良かったんじゃないかな
引っ張ってもらった時、戻れるんだって、すっごい安心したのに、めちゃめちゃ臭いんだもん
感動が台無し
あ、わり
タバコはオレのせいだ
入口広げるためにさ、水が欲しかったんだけど、一番近くにあったのが、それだったもんで
手水舎行きゃ良かったんだけど
ちょっと距離あったし
お前にしては、えらい機転が利いてたな
はっはっはっはー
それほどでもー
って言いたいところだけど、教えてくれたのはぎんとぜんなんだ
そして悠は、オレのファインプレー第二弾とばかりに、その時のことを語り出した
葵も霊と話す時って、こんな感じなのかなーって
まぁオレはぜんが、みずって言ったの聞いただけなんだけどさ
わはは、と悠が笑う
悠さん
葵は、呆然とした表情で、悠を見つめていた
ぜんが、水って言ったの?
それだけな
ヘレン・ケラーかっての
それを聞くが早いか、葵はカバリと立ち上がり、隣に座る悠の頭に頭突きした
いや、勢い余ってそうなっただけだ
ぜん、ぜん?
少しの沈黙
悠も痛いのを我慢して、固まっている
うん、うん、良かったね
本当にありがとう
そう言って葵は、悠から頭を離した
笑って、泣いている
すごいよ
すごいよ、悠さん
本当に
あなたはすごいよ
悠はポカンとして、葵を見ていた
ぜんは自分のせいで話さなくなった
そう葵は言っていた
こいつは寝てて、そのことを知らなかったし、霊が話すって経験自体、今したばかりなんだから、何にすごいと言われているのか、ピンと来なかったのだろう
しかし、ぜんが口をきいたという事実は、葵にこの上ない驚愕と幸福をもたらしたに違いなかった
悠に抱きついて、ありがとうとすごいを繰り返している
悠は目を白黒させながらも、とりあえず状況を受け入れることにしたらしく、葵の頭を撫でた
春樹も、説明が欲しそうな表情を、俺に向けている
俺は、肩と眉を少し上げて見せた
説明してやろうと口を開く
しかし、それより先に、葵の背中に腕を回そうとしていた悠が、急に慌てた声を上げた
え?
ちょ、待てって
ぜん
まっ
そう言って、がっくりと葵にもたれかかった
腕も両方、肩からだらりと垂れ下がっている
これは、アレだ
除霊した時、悠に取り憑いていた霊が、身体から抜け出た時の、お決まりの症状
ぜんが葵に戻ったのだろう
春樹が遠慮せずに吹き出した
俺もつられて笑う
葵は、悠を
恐らくぜんも一緒に抱きしめながら、
目を閉じ、そっと語りかけた
おかえり、ぜん
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