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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第一幕 邂逅と再会
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第三話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 そもそもさ、今日ってオレの歓迎会だろ?

 四年ぶりの再会をさ、もっと祝ってくれる気持ちがあっても良いと思う


 自分が奢るから手伝ってくれと頼んでおいて、金がねぇと勘定を人に任せる気満々のやつが、酒も肉もたらふく食べた後にぬかした言葉

 どうやら、デコピン一発くらいでは生ぬるかったらしい


 もちろん祝ってあげたいんだけどさ、奢るって言ったのは悠でしょ


 気の優しい親友がなだめる


 だーかーらー、奢る気持ちはあんだよ

 でも金がないの、奢らないんじゃなくて奢れない、奢りたくても奢れない

 この悲痛な気持ち、分かる?


 地獄のような悲痛を味わわせてやりたい

 口から先に生まれたような、万年金欠人間に一つ、ため息のような失笑を漏らして、隣に座る春樹が、俺に意見を求める視線を送る

 俺は、こいつに何言っても無駄、とばかりに肩をすくめて見せた

 春樹はクスリと笑って、チューハイをチビリと飲むと、


 じゃあ、ちゃんと後で返してよね


 と、望みが一〇〇パーセントないと分かりきったことを言う

 ったく、お前がそんなだから、この馬バカがつけ上がるんだ


 このお人好しの模範みたいなやつとは、大学入学当初からの付き合いだ

 悠がオカルト研究会作るって、掲示板にポスター貼ってたら興味あるって話しかけてきたらしい

 その日のうちにオカルトツアー決行

 数年前に女が自殺した所に、前情報なしで行ったのだが、春樹はその女の特徴から、どんな人間でどうして自殺するに至ったかまで事細かに言い当てた

 それが嘘とか妄想とかではなく、ごく自然に、見たままをそのまま言っているようだったから、悠はもちろん大喜びしたし、俺もこいつは本物だと確信してしまった

 ガキの頃は、霊やお化けの類などは所詮絵空事、心霊現象は全て物理現象、人間の思い込み、脳がバグを起こしただけと思っていたが、悠と付き合ってるうちに、本当に存在するのかもしれない、あってもいいと考えるようになった


 俺の知り得ない世界を、二人は見ている

 本を開いた時に感じるような、全く別の世界に入っていく高揚感

 探求心を急き立てる、現実離れした体験の数々

 一方的に否定してしまうには、あまりに惜しい世界


 それが思い込みだろうが妄想だろうが、何でもいい

 何もねぇところで、大いにはしゃいでは不可解なトラブルを起こして馬鹿騒ぎする

 この二人のお守りをするのが、俺は好きだった


 俺には、まだ読んでいない本がたくさんある


 小学生の時から、週末の恒例行事となっていたオカルトツアーで行った所は、大概ハズレだったが、たまに大当たりする時があり、大抵悠は、何かに取り憑かれたようになっていた

 ように、ではなくて、春樹が言うには本当に取り憑かれているらしいが


 春樹が見えるお陰か、悠が取り憑かれ体質のせいか、その相乗効果か、大学入ってからは、もはやRPGのイベント発生頻度で怪異やら霊障は起き、それを語り始めたらきりがない

 さっきもそのせいで、一時間で終わる作業が、ダラダラ三時間かかりやがった


 その続きとばかりに、悠が話を始める

 春樹は笑いながら相槌を打っては、あの時は悠が、を連呼している

 恐らく悠をトラブルメーカー呼ばわりしているのだろうが、俺からすれば、春樹こそトラブルばらまいたり、大事(おおごと)にしている印象だ


 大学二年の夏の終わり、河童が住むと噂の沼に行った

 入ると足を引っ張られて溺れ死ぬらしい

 何をどう考えても、子どもを近づかせないための方便であることは明白だった

 特攻隊長の悠が入って行ったが、深さも膝にかからないくらい

 恐らく沼の大きさも昔よりずっと小さくなったのだろう

 学校の二五メートルプールの半分ほどの広さだ

 田植えしてる時の方が、よっぽど足を取られる、という悠の感想に春樹も侵入

 が、入って数歩

 そこに穴でも空いていたのか、という勢いで、春樹は沼に沈んだ

 一瞬で姿が見えなくなった春樹を、二人で沼ん中に腕を突っ込んで救出

 後に聞いた春樹の話によると、その沼は昔、山の神を畏れた集落の人々によって数多くの生贄が捧げられた場所だという

 自分には、そこで生贄として死んでいった者たちが一斉に取り憑き、沼に引きずり込んだ、とのこと

 平然と話していたが、俺たちが引っ張り出さなきゃ確実にこいつは、生贄の生贄になってたことだろう


 当然これだけではない


 大学一年の春

 オカルト研究会発足間もない頃

 海がある街には必ずあると言っても過言ではない、飛び降り自殺の名所の崖に行った

 暫くは崖から海を覗いてみたり、辺りを散策してみたりしていたが、春樹の様子が突然おかしくなる

 無表情でフラフラと崖に向かって歩き出し、崖の先端で止まった

 声をかけても反応なし、やべぇと思って走ったが間に合わず、春樹は崖から消えた

 同時に隣を走っていた、悠の姿も消えた

 何が起きたのか分からず、俺は急停止

 辺りを見回しても俺一人

 冷汗と脂汗を同時にかきながら、春樹が消えた崖淵に向かう

 身を乗り出したその刹那、獣のような影が下から飛び出してきた

 それが春樹の首根っこ、と言っても服の襟だが、それを咥えた悠であると分かったのは、悠が人間離れした跳躍力で、俺の後ろに着地し、春樹をそっと地面に口を開けて下ろしたからである

 ちょうどネコ科の動物が、幼い我が子を運ぶ時のそれだった

 その後悠は、力尽きたかのようにその場で倒れてしまって、俺は二人を車まで運ぶハメになる

 後に、事の顛末を二人に話すと、悠がたまたま何かの動物霊に取り憑かれて春樹を助けた、というところで話は落ち着いた

 理由には全く触れてなかったし、春樹はやはり呑気に、大変だったねー、と俺を労って終わった


 とにかく春樹と言う人間は、どんなムチャ振りに応えるイエスマンで、悠の突拍子もないオカルトツアー断行や、俺の頼み(命令)に何でもいつでも肯定し、断らないやつだから、トラブルも来るもの拒まずなのだろう

 俺と悠のいさかいにもよく巻き込まれては、上手く仲裁に入ってくれている

 俺や悠では手に余ることも、春樹がいるお陰で、そつなくこなせることも多々ある

 何でもオッケーオールマイティー人間だ


 霊の見える世界ってのが分からない俺には、想像できないほどの苦労をしてきたのだと思うが、今の春樹の様子からして、今後また性懲りもなく、悠とタッグを組んでやらかすつもりなのだろう

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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