表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
取り憑かれて  作者: 恵 家里
第一幕 邂逅と再会
5/347

第二話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 ってか、まーおめーらは変わんねーな

 見た目から中身から

 四年だぞ、四年

 生まれたての赤ん坊も、ベラベラ喋って走り回ってるってのに


 悠がクロワッサンをサクサク言わせながら、僕と瞬を交互に見る


 中学生は大学生、大学生は社会人なってんだ

 少しくらいおっさんなってたらイジり甲斐もあったのによー


 よく分からんが、ブーたれている

 そんな悠は、というと四年の上京によって、すっかり見た目は都会かぶれになった

 もともとパッチリした目にイタズラっぽい口元、幼さが多少残る小動物系の顔立ちをしており、悠が言うに、こういう顔が好きな女はいつの時代も一定数いるとのこと

 流行りに敏感で、オシャレにも気を遣う性格もあって、モテ男気質に更に磨きがかかった感じだ


 んだよ、人の顔ジロジロ見て


 親戚は女の子が多く、妹もいるため、女の子と接するのも慣れていて人懐っこいもんだから、さぞかし遊んできたことだろう


 いや、悠はなんかチャラ男になったなぁって


 素直に垢抜けたって言えよ


 ちゃんと自覚してやがる

 そこはかとないイラつきを覚え、何とか凹ませることを言ってやりたくなった


 でも、バスの女の子の名前も聞けなかったんでしょ

 色男くん


 悠のおにぎりを食べる口が止まる

 そのまま頭を抱えて唸りだした


 そーなんだよー

 オレとしたことがー

 あんなカワイイ子と知り合いになれるチャンスなんてないのにーー

 うああああああ


 心の中でガッツポーズを決めて、そんなにカワイイ子なら僕も会ってみたかったな、とフォローしてあげる


 だから夢だろ、そりゃ


 瞬が無慈悲な言葉を投げる


 車に酔いすぎて幻覚見たんだ


 これにピクッと反応して悠がガバリと顔を上げる


 それだよ、それ


 幻覚を認めた、

 わけではなかった


 オレさ、バスから降りて来た時、全然大丈夫だったじゃん

 その子がおまじないしてくれたからなんだって


 ああ、オカエリナサイご主人サマってアレか


 おいしくな~れってやつね


 メイドじゃねー

 いや、メイドのカッコもぜってー似合うけど、ちげー

 ちゃんとスーツ着てた、仕事できますって感じの


 妄想と現実の行き来で忙しそうだ


 でも言われてみれば、瞬の車乗っても大丈夫だったよね

 車酔い克服したんだなーって思ってた


 いや、してねーしてねー

 その子がおまじないしてくれるまで、マジ死んでたんだって

 ほら、オレって取り憑かれやすいじゃん

 昔から、体質的に、動物霊に、バスとか乗るとさ

 春樹も言ってたじゃん

 寄って来やすいんだって、そういうのが


 それをおまじないとやらで撃退したと


 そんな感じじゃね?

 マジ、一気に目が覚めたって感じでさ

 世界ってこんな明るかったんだーってなった


 瞬が残念そうにため息をつく、


 良かったな、金持ってなくて

 名刺とか渡されなかったか

 お困り事ありましたら是非って


 霊感商法じゃねー

 んなもん貰ってたら、ぜってーなくさねーし


 てめぇじゃ金づるにならねぇって思ったんだろ


 だーかーらー

 そんなんじゃねーんだって


 果たして悠の愛しの彼女は、夢か妄想か幻覚か

 現実に存在してても、あなたには悪い霊が取り憑いてますよ、と何ら効果のないおまじないやら物を売りつけてくる詐欺師、というのが瞬の見立てである

 まぁ僕は、やっぱり夢だったんじゃないかなーって思うけど

 車酔いは行くとこまで行って克服したとか?


 そんなこと話しているうちに荷物が届けられる


 悠が前のアパートで詰めたダンボールが、玄関に積まれていく

 使っていた家具家電は売って、実家で使ってないものを送るように頼んだらしい

 足りないものは、明日実家に行って軽自動車を一台拝借し、リサイクルショップで購入するらしいが、財布のコンディションからして、拝借するのは車だけでは済まなそうだ


 で、おめーらは何してたんだ

 この四年間


 段ボールから出したものを、引き出しにしまいながら、愛しの彼女の話と、自分の輝かしい業績の数々を吐露したた後で、やっと悠は僕たちに話を回してきた


 僕は県の教員採用試験を受けて、小学校教諭になった

 最初の赴任校がたまたま近くだったので、大学生の時から暮らしていたアパートでそのまま生活している

 これと言って、取り柄も秀でた才能もない僕だけど、逆に不得意なものもない

 小学校の先生ってのは、結局何でも教えなきゃダメだし、こだわり持っちゃったらどんどん授業は遅れてしまう

 子どもと接するのも苦にならないから、自分で言うのもなんだけど、結構先生って職業は向いていると思っている


 そんな話をカーテンを取り付けながらすると、悠は適当な返事をしながら


 ま、たしかにおめーに似合ってるよな

 せんせーって子どもに群がられてイジられてんの


 と、絶妙に嬉しくも悲しくもない言葉をくれた


 瞬は?


 ダンボールから取り出した本を、一冊ずつ確認しながら本棚にしまっていた瞬は、甚だ面倒くさそうな顔を悠に向ける


 取り立てて何もねぇよ


 と一言

 当然、予想の範疇だった悠はあっけらかんと、そら順調なようで、とダンボールから服を取り出してはクローゼットにしまっていった


 ガラクタがダンボールから顔を出すたびに、それにまつわる思い出話に花が咲く


 エントリーナンバー一


 赤ちゃんのへその緒でも入っていそうな、木箱に収めされているカタツムリの殻


 小学生の悠が、殻を外したカタツムリはナメクジになるのか、という素朴な疑問を解消すべく、無理やり殻を外すという残酷な実験をしたのだ

 結果はもちろん身体が途中でちぎれてしまい、カタツムリは死んでしまう

 逆にナメクジに殻を与えても、入ろうともしない

 どうやら別の生き物であるようだ、と少年悠は結論づけた

 しかしその後、どういうわけか、暫く悠はナメクジやカタツムリの様にしか地を這うことしかできなくなった

 きっとカタツムリの祟りだ、ということで子どもなりに供養し、今でも大切に保管している、というもの

 ちなみにこの話には、後日談がある

 カタツムリのようにしか動けなくなって、途方に暮れる悠だったが、その時、既に親友になっていた瞬が、一緒になってカタツムリの真似をし、学校も休み、寝転んだままできる遊びを一日中付き合ってくれたっていう、心温まるエピソード

 瞬は恥ずかしがって、

 あの頃は学校行ってもつまらなかったからな

 他に友達もいなかったし、お前と遊んでる方がいくらかマシだっただけだ

 もうすんな、その話

 と不機嫌になるので、二回目以降は割愛している


 エントリーナンバー二


 大量の五寸釘


 大学二年の夏だったと思う

 ダイダラボッチが出ると噂の山に行こう

 ということで、夜の山道へ悠の運転で出発

 途中から歩いて森の中を暫く進むと、少し開けた場所に出た

 時間になるとここに現れる、というので深夜一時、固唾とコーヒーを飲んで待つが、全く気配なし

 でも二時になろうとする所で足音が近づいていることに気付いた

 見ると女が、いかにも、といった格好で、丑の刻参りを始めた

 気づかれないように退散しようとしたんだけど、女の周りにヤバいものが集まって来ているのが見えた

 女の邪念、怨念に導かれるように何体もの動物霊が、辺りを漂い始めていた

 案の定、悠が狐か何かの霊に取り憑かれて、女に襲いかかる

 もちろん驚いた女は、悲鳴を上げて逃げる

 女の残した五寸釘で悠が、というか悠に取り憑いた狐が集めて遊び始め、それに夢中になっている所を、瞬のデコピンが炸裂して終了


 エントリーナンバー三


 石炭、格好良く言えば黒いダイヤ


 魔物の口、と呼ばれる洞窟に大学一年の秋に潜入捜査

 中に入ると決して出てこれない

 入ったら骨になって、別の洞窟から吐き出される

 骨が出る穴は、その時によって変わる

 ということで、我らオカ研の出番って訳だ

 結論からいうと、その洞窟は昔掘られた鉱山の坑道跡

 何十年か前にガス爆発で百人以上の死傷者を出し、さらに石油がエネルギー資源として台頭したお陰で、立て直すまでもなく閉山

 子どもを近づかせないために、そのような噂をたてたのだということだった

 亡くなった炭鉱マンのほとんどは成仏

 もしくは自然と消えてしまうくらい弱々しくなっていた

 けれど、たくさんの動物霊を取り込んでしまって、成仏するにできない男の霊がその中にいた

 この霊が、やはり悠に取り憑いてしまって、洞窟の奥へ行ってしまう

 そして落ちていたツルハシで掘削を始めてしまって、長い間に放置された坑道は崩れそうになった

 ニヤニヤして、ツルハシを狂ったように振り続ける悠

 近づくに近づけず、このまま坑道が崩れるのを待つしかないのかと焦る中、瞬は振り回されているツルハシをヒョイヒョイと避けて、

 続きは生まれ変わって、工事現場か餅つきでやってくれ、と、デコピンして終了


 とまぁ、こんな話をしながら、ダラダラと片付けは一進一退を繰り返し、その後届いた大型家電も協力しながら運び入れ、ガスも水道も使えるようになって、ようやく悠の部屋は人間が住めるものになってきた

 悠は、最後の一つとなったダンボールを開け、恐らく仕事道具と思われる書類やら、やっぱりガラクタやらを取り出していった

そして急に、お宝でも見つけたような笑みを浮かべる


 いたいた、オレの相棒ちゃん


 そう言って、手に持ったお宝を披露した

 悠の相棒、けん玉ちゃんだ

 悠は考え事をする時に、けん玉で遊ぶ癖がある

 遊ぶと言っても腕前はなかなかで何段?とか、ちゃんとした段位も小学生の段階で取得しているらしい

 悠はけん玉の技の数々を、軽いモーションで次々と決めていき、最後は世界一周という技で締めた


 最後に剣先で玉を思い切り刺すのが、何度見ても、久しぶりに見てもやっぱりカッコいい

 感嘆の声と拍手が、自然と僕から上がる

 悠の一芸が終わって外を見ると、既に薄暗くなっており三人とも腹ペコだった


 おっしゃー終わったー

 ありがとう

 マジで助かった

 おめーらが引っ越しする時も、手伝ってやるからな

 感謝しろよ


 やってもらったやつが、何故か恩を着せてくるミラクル

 まぁ、最後に良いもの見せてくれたから許そう

 そう思ったのも束の間、

 飯だ飯ー、と金を出さないやつが言ったので、

 やっぱり許さない方向に、気持ちの指針は大きくブレた

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ