第六話 前編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
悠は、焚火に薪を突っ込み、引っ張り出しては振り回して大道芸人になったかと思えば、
◯ラ、メ◯ミ、メラゾ◯マ
フ◯イア、ファ◯ラ、◯ァイガ
と、ゲームの枠を超えた大魔法使いになり、神妙な口調で
今のはメ◯ではない、メラ◯ーマだ
などと、雑魚魔力を吐露して遊んでいる
プラコップに二杯目のハイボールを作っていると、コテージから春樹と葵が仲良く出てきた
ジャージやスウェットに着替えて、すぐにでも寝れる格好になっている
雑魚魔法使いの音頭で盛大に乾杯し、焚火を囲んで二次会が始まる
酒が進んでくると、花火の袋が破られ、スターマインさながらに、炎色反応を起こした火花が盛大に飛び散った
手持ち花火がある程度底をついてくると、噴き出し花火に切り替わる
こちらも悠や春樹が次々と点火させて、辺りはナイター中のスタジアムのように明るくなった
葵が手を叩いて喜んでいる
花火なんて何年ぶりだろうか
社会人なってからはやってないから、六年ぶりか
大学までは毎年やってた
花火はもともと江戸時代、疫病や飢饉で亡くなった人の慰霊、または悪霊退散を願って打ち明けられたのが 発祥と言われている
迎え火や送り火と同じだ
だから、現在では、お盆前後の夏の風物詩になっている
悠がこのことを知ってるか否かは定かではないが、あの場所で花火を上げれば霊が出るだの、打ち上げ花火を北東に向かって何発打てば霊が寄ってくるだの、毎年凝りもせずに、ネタを拾ってきては実践していた
大抵は、はしゃぐだけはしゃいで終わったが、一度だけ、春樹が急にぶっ倒れたことがあった
本人は貧血だって言ってたっけ
締めの定番、線香花火を四人で垂らしながら、悠がその話をする
四つの小さな火の玉を眺めているうちに、線香花火の状態変化も四つであったと思い出した
始めは点火後、火の玉がどんどん大きくなっていく「蕾」
おめーあん時さ、もしかして何かに取り憑かれてたのか?
うーん、よく覚えてないんだけど、花火が消えたあとに、多分女の霊、かな?
いた気がする
力強い火花が散り出す「牡丹」
ふうん、まぁすぐ目ー覚ましてくれたから良かったよ
なあ葵、花火してるとやっぱ霊って寄って来んのか?
より一層激しく火花を散らす「松葉」
そういう子もいると思うけど、あんまり関係ない気がするなー
でも火自体にさ、人を惹きつける特別な力はあるよね
生きてても死んでても関係なく
安心、畏怖、鼓舞、神秘、脅威、救済
神のような存在であると同時に、生活を豊かにするための道具でもあるから
火花が一本、また一本と落ちていく「散り菊」
それが終わると、四つの火玉がポトンポトンと落ちていった
静寂
薪がパチパチと燃える音が、静けさを際立たせている
何となく全員が神妙な面持ちになっていると、葵が花火の燃えカスをバケツに入れ、顔を上げた
そういうギャップが、魅力なのかな
友達の彼氏でも褒めるように言うと、俺たちに線香花火を一本ずつ配った
ギャップ萌えー
神の宿る火に対し、悠が罰当たりなことをぬかして線香花火に火を点ける
俺たちもほぼ同時に点火し、移ろいゆく火花の表情を、飽きもせずに眺めていた
花火が終わり、酒と焚火を囲んで三次会が始まる
さっきの続きだけどさ、火ってやっぱり偉大だよね
人間以外の生物は本能的に恐れているから、弱い人間が夜に猛獣襲われることなく、生き残って来れたんだもんね
春樹が火をフォローする
火がもたらした恩恵は、何も危険から守ることだけじゃねぇ
半分ほどの重量になったウィスキーボトルを傾ける
それはクックとさえずりながら、黄金色に輝く液体を氷の上に落とした
へぇ、他にはどんな?
お前は何だと思う?
春樹はうーむと片腕を組んで、ぬるくなったチューハイを舐める
はいっと小学生みたいに、手をあげたやつが答えた
暖房だな
火があるお陰で、人間は寒い土地でも暮らせるようになった
なるほど、と膝をポンと叩いて春樹が
じゃ、明かりもだね
暗いところでも暮らせるようになった
と、人差し指を立てる
だな、あとは?
二人で同じ顔をして考え込む
葵はニコニコしてその様子を見ている
保護者か、お前は
その後、二人は鍛冶、鋳造、焼畑農業、儀式、焼却などと順調に意見を出す一方で、
あぶり出し、百物語、誕生日会などと趣旨から外れたことも言い始めた
一番大事なのが出てねぇな
俺個人的な考えでは、火の役割の中では最重要なやつだ
えー
もーねーよ
あ、分かった、焼き鳥
本人は冗談で言ったつもりだったのだろう
正解
俺の言葉に、え、の状態で顔が固まる
食物を調理することだ
これによって食べ物の保存が可能になる
さらに咀嚼や消化にかかる時間が激減した
さて、空いた時間で何ができる?
そりゃーまた狩りに出たりだ、木の実とったりできんじゃね?
うんうん、と春樹も頷く
口にずっと食べ物入れてモゴモゴやってたら、できねぇことがあるだろ
あ、という表情になって春樹が
喋る時間が増えたんだ
と、目を輝かせた
御名答
そう言われて、嬉しそうにチューハイを舐める
俺たちの祖先も、こうやって火を囲みながら、今日あった出来事とか話したんだろうな
自分の知恵を共有する
相手の経験から学ぶ
過去の記憶を子どもたちに伝えていく
知識が蓄積が可能になる
まぁ記憶ってのは曖昧だから、文字が発明されるまでは、蓄積っつっても微々たるものだがな
それでも、喋るってコミュニケーション取ることで、集団の統率が取れるようになった
狩猟採集の効率が爆上がりしたのは確かだろうし、嘘や駆け引きから、約束や会議といった高度な意思疎通ができるようになった
お化けとか幽霊の話ってのは、いつからされるようになったんだろうなー
悠のお気楽質問
お化けではないが、人知を超えた神の存在はずっと信じられていたんだろうな
シュメール人は粘土板に神話を残している、紀元前三千年だ
少なくともそれよりずっと前から、人間の力が到底及ばない存在ってのは、語り継がれていたんだろう
未知の存在を仕立て上げて、特定の場所や人間を恐れさせて、近づけないため
もしくはその逆、敬い妄信させることで求心力を得るため
宗教なんかの起源だ
そういう神話の類って、啓蒙活動の一環だったり、ある種のプロパガンダだったんだろうね
人の数が増えるほど、同じ思想を持った集団が統率しやすいから
葵が、本の感想でも言うように呟く
おいおいおいおい、葵ー
悠が続きを遮った
夢がねーなー、おめーは
人が神だの、お化けだの、宇宙人だの
未知の存在を語る理由なんて、一つしかねーだろ
いつもの流れ
ビール片手に悠の大演説が始まった
おっもしれーからだよ
誰も知らない存在、底知れない力を持つ存在、常識が全く通用しない存在
そんなんにオレたちは、興味持たずにはいられねーんだ
そんなもんありっこない、ただの空想、妄想だ
そう言いたいやつには言わせておけ
見えないから、分からないからって楽しむことを諦めた連中だ
オレは諦めなかった
だから瞬とずっとオカルト追っかけ続けてたし、おかげで春樹と仲良くなれた
春樹と初めて行った心霊スポットでさ、オレ、本当に嬉しくなったんだ
始まるって思った
オレと瞬と春樹で、今まで見たことも経験したこともない、すげーことが始まるって
悠は星を仰いだ
さっきの花火の火の粉が、そのまま天井に張り付いたような、一面の恒星
悠の演説は続く
実際その通りだった
スカもあったけど、曰く付きの場所に行くたびに何かが起こった
オレがずっと信じていた存在、それがいるんだって証明するには十分すぎる体験
三人でいるのが、オレはサイコーに楽しかった
悠の顎は、空に向いたままだ
だからさ、オレだけ上京しなきゃならなくなった時は本当凹んだぜー
ぜってー早く帰ってきてやる、そればっか考えてたな
悠がビールを飲む
俺たちは何も言わずに飲む
四年
待った甲斐があったんだよ
あの日、葵とサイコーの形で出会うために
四人がこうやって一緒になれるように
オレが、もっとオカルトと関われるように
悠は立ち上がり、葵を見た
おめーと出会った時、オレ、やっぱり思ったんだ
始まるって
葵
オレたちは、もう知っちまってるんだよ
この世界に関わる楽しさを
おめーにとっての日常は、オレたちにとって奇跡の連続なんだ
これからも四人でいられる、そう考えただけで、
オレ、世界中の人間にも幽霊にも、
全部に感謝したくなっちまうよ
上空で輝く星に負けないほどの、目の輝きを放って、悠は笑った
葵は、悠の顔を半ば呆然と眺めると、視線を自分の梅酒缶に落とした
少し紅潮しているようにも見えるが、焚火の当たり方のせいかどうかは、判然としない
一方悠は、暗がりでも分かるくらいに、顔を点火した線香花火のように真っ赤にしていた
あれ、オレ、今告った?
などと言って狼狽している
葵はフッと息を吐くと、静かに口を開いた
悠さん、ありがとう
ずっと嫌がられてばかりだったことが、こんなふうに喜んでもらえる日が来るなんて、思ってもみなかったよ
そして今度は、先程よりも長く、ふうと息を漏らした
昔はね、もっといたみたいなの
霊たちと話せたり、見えたり、分かる人が
でもどんどん減っていった
知らなくても、分からなくても良いことだものね
むしろ分かってしまうことで、受ける弊害の方が多くなって、生存競争に負けたって感じかな
この子たちは、受け入れている
それも進化なんだって
時の流れとともに、次世代を残すのに不利な特徴は消えていくのが必然だって
だからせめてね
見える人、分かる人には、分からなくても共有できる人には、
この子たちのことを思ってほしいんだ
存在を認知してあげるだけでいい
それだけで十分なんだよ
思いにすごく敏感なんだ
この子たちは肉体がない
だから、気持ちを発散したり解消したりできないの
脳がないから忘れることも美化することもできない
思いはそのまま残り続けて、他と混ざり合って強くなっていく
消えたりなんかしない
ふっと顔を上げる
その表情は「牡丹」を彷彿とさせた
ごめん、話逸れた
とにかく、あたしにとってはね
この子たちのことやあたしのこと、みんなが当たり前に受け入れてくれたことが、
葵の顔がほころぶ
「松葉」だ
世界中の人間にも幽霊にも、
全部に感謝しても、
足りないくらいなんだよ
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