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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第一幕 邂逅と再会
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第二話 中編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 安丸、という、割と珍しい姓が彫られた判子をポンポン押し、名残り惜しそうに最初の家賃や敷金などが入った封筒を開けることで、悠は無事、古いアパートの部屋の鍵を手に入れた

 その後、何件か電話をかけ、まだ家具も何もない部屋の床の上にカップ麺や菓子パン、コーヒーを並べて誇らしげに言う


 あーあ、これでほんっとに財布ん中、すっからかん


 食料と悠を思い切り見下して、瞬が言った


 お前、夜は焼肉奢るって言ってたよな


 おお、もちろん

 でもさオレ、今手持ちねーから、とりあえず今日はおめーらで払ってくれ

 後でちゃんと返すから


 奢るは奢るでも払いは別

 今どき中年のおっさんでも喜ばないジョークに


 じゃあな、精々一人で頑張れ


 と、瞬は踵を返してさっさと玄関に歩いていく

 悠は、親の後を追う子どものように食い下がった


 瞬ーーー

 頼むよーう見捨てないでーーー

 荷物さ、引っ越し業者に頼んだ訳じゃねーから、自分で運ばねーとダメなんだって

 洗濯機、冷蔵庫、机、本棚、無理だよーーーー

 ぜってー一人じゃ死ぬーーー


 潔く死ね


 生きるわ、そりゃー

 あ、

 あー、そうだ、

 せめてこいつら食ってけって

 食ってる間に気も変わるって


 お湯もねぇのにどうやってカップ麺食うんだ

 かじるのか、ベビスターか


 そうか、ガスの開栓夕方だった

 ってか荷物来るまで、やかんもねーんだった

 盲点だったー


 てめぇには盲点しかねぇよ

 大体金もねぇのに、軽はずみに奢るとか言うんじゃねぇ

 社会人なって少しはまともになったのかと、少しでも期待した俺が馬鹿だったな


 オレも少しは成長したって、今日はたまたま、な?

 昨日マジで帰るの嬉しくてさ

 お土産買っちまったんだよ

 おめーらと実家に

 あ、今食おーぜ

 ぶさぴよ饅頭


 悠はいそいそと、リュックから包装された箱を取り出し、ビリビリと包装紙を破いて蓋を開け、瞬に突き出した

 そこには何ともブサイクな、丸いフィルムのひよこらしい饅頭が整列していて、何対もの白目を瞬に向けている

 ついでに悠も、そのひよこの顔真似をして隣に並んだ


 瞬は、暫く目の合わないぶさぴよちゃんとにらめっこしてから、手前の一つを手のひらに座らせた


 T都銘菓ぶさぴよ饅頭

 まん丸ボディに、たらこクチビルならぬたらこクチバシ

 白目をむいて、申し訳程度の手と髪が付けられている

 ふわふわのカステラ生地の中には白あんが詰まっており、愛嬌のある顔とコロコロした一口サイズの形、何より昔から変わらぬ安定の味で、ロングセラーとなっている


 瞬はぶさぴよちゃんの包みを取ると、口に放り込み咀嚼した

 床に置いてあるお茶のペットボトルを開け、何度か音を立てて飲み込む

 そしてペットボトルに口をつけたまま、悠に向かって人差し指を立て、自分の方にクイクイと曲げる動作をした

 悠はその誘いに答えて顔を近づける

 が、次の瞬間、もんどり打って床に倒れた

 瞬はすかさず、ぶさぴよちゃんたちの巣をキャッチする


 ぎぃやああああああ


 悠は額を抑えて転げ回る

 瞬の情け容赦皆無のデコピンが炸裂したのだ


 デコピンくらいで大げさな、と思うが、あれは間違いなく殺人レベルである

 僕も一度だけ食らったことがあるが、二度とごめんだ

 一方悠は、事あるごとに瞬から強烈過ぎる一発を、大学時代はお見舞いされていた、とある事情で


 ぬぅわあああああ

 効いた、四年ぶりでも効いた

 懐かしー


 悶絶する悠を見ながら、思わず失笑してしまう

 このやりとり、本当に変わらない

 大学時代は何度これを見て笑ったことか

 もはや二人の鉄板ネタと化していたが、四年越しでもその精度に少しの劣化も風化も見られない

 見た目はちゃんとアラサーになっても、おんなじだ


 懐かしい


 すっかり社会人生活が身についてしまった僕には、それがどこか、非現実的なものにも一瞬感じられてしまう

 でも少しずつ、また三人が一緒になれた、その現実味が口の中を満たしていき、頭の中までじんわりと染み込んできた

 つい口元がほころんでしまっていた僕に気づき、悠がおでこをさすりながら言う


 笑い事じゃねーよ

 うっわー首いってー

 ぜってー痣んなる


 僕にもちょうだい

 ぶさぴよちゃん


 おお、食え食え

 うめーぞ


 瞬が僕にぶさぴよちゃんの白目を向けた

 うーん、ほんとに何とも言えない、絶妙なブサイク加減


 それから三人で床に座り、改めて再会を、お茶やコーヒーで乾杯した

 どうせこんなことだろうと、瞬が買っておいた、おにぎりやサンドイッチ、唐揚げなんかも加わえた昼食を食べながら、当然話は、この四年間何してたかってことになる 


 まぁほぼ、悠の話だったけど

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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