第三話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
さーて
どんなサーブが来んのかなっと
腰を落として、しっかり臨戦態勢をとる悠
好戦的すぎる眼差しが、垂れ目に向けられている
俺も悠に倣った
エンドラインの後ろに下がった垂れ目が、ボールを眺めている
打つのか、と思ったら、こちらに話しかけてきた
なあ、どうせなら何か賭けないか?
驚いたように、ひげが振り返って垂れ目を見た
おい、というのも聞かずに、垂れ目は続ける
あそこの売店、売ってあるもの全部、おれ達が負けたら買ってやる
ってのはどうだ?
思いがけない申し出に、思わず悠と顔を見合わせた
オレらが負けた場合は、オレらが買うってか?
言っとくけど金はねーぞ
お前はな
いや、あんたらさ、あの売店の関係者か、その知り合いだろ?
それ買うとか、意味ねーじゃん
あんだけ店ん中往復して、真ん前でプール素麺してりゃ、そう思われて当然か
じゃあどーすんだ?
悠の問いに、再び垂れ目はボールに目を落とした
売店に、ーーーー
急に声のトーンが落ちたので、内容が聞こえない
何?
垂れ目が顔を上げた
何か、意を決したような表情
売店のあの子、あんたら知り合いだろ?
あの子?
今、売店にいるのは
見ると、ちょうど来店したカップルに、どぶづけから取り出したペットボトルを、タオルで拭いて渡している葵の姿が確認された
お金を受け取り、笑顔で頭を下げている
何かが、俺の神経を爪弾いた
だったら何だよ
悠の声のトーンも、一気に急降下
おれ達が勝ったらさ、あの子紹介してほしいんだ
何て言って紹介してもいいし、それだけでいい
あとは自分でやるから
そう言っているうちに、垂れ目の視線も声も垂れていった
表情は見えないが、耳が異常に赤いのが分かる
見た目に似合わずにオタオタと、俺たちと垂れ目の間で首を振っていたひげが、見かねたように口を開いた
わ、悪い
こいつ、いきなり
実はさ、あの子を海で見かけてさ
こいつ、一目惚れしちまったんだ
一緒にすげえ親父がいたからさ、声かけれなかったんだけど、その後、あ、あんたと一緒にいるの見てさ
そう言って、春樹を見る
で、ほんと悪いと思ってんだけど、ずっと追っかけてたんだ
チャンスないかって
で、バレーの相手をしてあわよくばってか?
悠が柄にもなく、ため息をつく
あのなー、そういう時はさ
分かってる、言いたいことは
こんなセコいことしないで、普通に話しかければ良いって
垂れ目が赤い顔を上げた
垂れている目の奥から、必死さがにじみ出ている
でも、どうしても嫌われたくなくて、失敗したくなくて
でさ、康介、あ、こいつのことなんだけど、バレーやって仲良くなったからどうだって言ってくれて
で、いざ来てみたら葵の姿が見えねーっと
鈍くせーな
悠の言葉に、垂れ目の瞳が輝く
あ、葵って言うのか、あの子
しまった、という表情の悠
鈍くせぇのはお前だ
康介と呼ばれたひげも、必死で訴えてきた
でも、途中で様子見に来てくれるってのもあるし、終わった後でも一緒についてって挨拶とかすりゃいいだろって
おれが無理やり大志、こいつのことな、こいつの手ぇ引っ張って連れてきたんだよ
康介の言葉を受けて、大志と呼ばれた垂れ目が後に続ける
やっと出会えたって思ったんだ
顔もスタイルも、大口開けて笑うところも、
全部が好き、なんだよ
そして少し間をおくと、何かに気がついたように頭を上げた
葵ちゃん、もしかして誰かの恋人、とかか?
俺たち三人全員が一瞬困惑するのを見て、大志は察したようだ
違う、よな?
じゃ、おれ達とそう立場変わらないだろ?
出会った順番が、早いか遅いかだけだ
その言葉に、恐らく俺は、
俺たちは、
やられた
そう思った
俺たちは偶然、葵の内情を知るシチュエーションに立ち会っただけだ
それがなければ、悠のように名前も聞けなかったことを後悔してうなだれるか、大志のように機会を伺って、遠くから見ているのが関の山であっただろう
もしくは全く無干渉か
大志が言葉を続ける
でも、特別な関係でなくても、あんたらにとって葵ちゃんが大事な人だってのはよく分かる
だから、紹介だけでいいんだ
別に嘘ついてくれとか、一晩貸せとか言ってるわけじゃない
絶対傷つけたりしない
負けたら何もしないで帰る
約束する
頼むよ
この通りだ
大志が頭を深々と下げる
康介は大志の様子を見て、ポリポリと頭を掻いた
こいつさ、この年まで全然女とか興味なくてさ
心配になるくらいだったんだけど
それが今日、あの子に会って、
何かほんと、衝撃だったみたいでさ
まじで普通に話しかけろよって感じなんだけど、このチャンス逃したら、断られたらって考えると行くに行けないみたいでさ
ほんと鈍臭くて、馬鹿みたいに不器用なんだ
おれからも頼むよ
こいつに一度だけで良んだ
チャンス与えてやってくれ
康介も頭を下げた
俺たちは、暫く何も言えずに、二人の後頭部を見ていた
恐らく、そこに自分を重ねていたんだと思う
平たく言えば、同情していた
同じなんだ、俺たちと
少しタイミングが違っただけ
それだけだ
でも同時に、
目の前の二人に、猛烈な拒否反応を示している自分もいた
こっち側へは踏み込ませたくない
こっち側?
そうだ
こいつらは葵の秘密を知らない
俺たちはそれを受け入れるだけの、経験や環境がそろっていた
でも、
それだけだ
こいつらが、葵の秘密を受け入れないという証拠は何もない
もしかしたら俺たちより、そっち方面に強いかも分からない
だとしても、だ
だとしても?
だとしても何だ?
自分の思考回路の迷走し始めていることに気づき、ため息が出た
何を考えている、俺は
葵の相手が誰であろうと、それをお互いが納得して、幸せに過ごしていればそれでいい
俺がわざわざ介入する必要も、そんな面倒くせぇことする気もねぇ
俺は、
俺は葵に執着など
ない
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