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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第四幕 習慣と執着
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第三話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 お、あいつら、ビーチバレー始めたぞ


 悠がいちいち葵の実況中継をするので、わざわざ視認しなくても、様子が手に取るように分かる

 といっても、眼鏡を外しているから、一〇〇メートル以上距離が離れてしまうと、ほとんどのものがボヤケてしまうのだが

 目はそこまで悪くはないが、運転する時だけかけるのが面倒なので、水に浸かる時以外はかけっぱなしにしている


 悠としては、イケてる夏男を葵に見てほしかったのだろう

 それなのに、葵はこちらに一瞥もくれることなく、春樹と海を楽しんでいるようだ

 相当面白くないと見える

 中継の声色に、小姑のような粘着性が含まれ始めた


 なぁ、オレたちもあっち合流しようぜ

 二対二でやった方が楽しいって


 俺は、昼飯までボードやる


 正午前、腹を空かせたサーファーがいなくなって、悠々と波を滑れるようになった

 今やめてしまうにはもったいない

 葵と春樹で楽しんでるなら、別に俺たちが介入する必要もないだろう


 すみませーん


 横から女の声

 真新しいウェットスーツにサーフボード、いかにも初心者丸出しの、若い女二人が俺たちと並んで歩いていた


 すっごいサーフィン上手ですよねぇ

 私たち始めたばっかりで上手く波に乗れなくてぇ

 教えてくれませんかぁ?


 身体をヘビのようにくねらせるくせに、猫なで声を出す

 こういうのは、悠に任せるのが一番だ


 じゃあ頼んだ


 岸から離れるように、進行方向を変える


 ちょ、ちょっと瞬、待てって


 悠が慌ててザブザブと追いかけて来る


 二人相手は無理だって

 ちょっとくらい付き合ってやろーぜ


 んな面倒くせぇことできるか


 変わんねーな、おめーは

 こういうのも夏の思い出ってやつだろ

 新しいことに挑戦しろよ

 せっかく声かけてもらったんだ


 意味分かんねぇ


 吐き捨てたところで左腕を掴まれた

 女の一人が、獲物を見据えるような上目遣いで、絡みついてきたのだ

 この女は間違いなくヘビ年だな


 お願いしますぅ

 ほんの少しでいいんでぇ


 初めてヘビ女を顔を確認する

 今どきに染められた髪に濃い化粧

 獣のように眼球いっぱいに広がる黒目が、夏の光をブラックホールのように吸い込んで、鈍い輝き放っている

 瞬きするたびに、つけまつ毛がまぶたに突き刺さり、不自然にヌルついた唇に悪寒が走るのを覚えた

 これに美しさや色気を感じる人間がいるというのだから、つくづく好みや価値観は千差万別、互いに理解干渉し合えないものであると再認識する

 一瞬、葵の姿が頭をかすめた


 問答無用で蹴り飛ばしそうになるところを、辛うじて堪え、左腕をヘビ女の呪縛から振りほどく


 悪いが、お前らの相手をする気はない

 男あさりをしたいなら、他でやってくれ


 そう言い、踵を返して岸へ向かう

 暫く女と一緒にポカンとしていた悠も、自分にまとわりついていた女を手をほどいて、ついてきた


 やめんのか?


 ため息をついてから答えてやる


 萎えた


 コテージ外にあるシャワーホースで、身体とボードを洗い、眼鏡をかける

 ボードとウェットスーツをママに返却


 あら、もうおしまい?

 お昼までまだあるわよ


 大してまだ()いてない


 ママー、飲み物もらってくなー


 ペットボトルを傾けながら、外の様子を見る

 変わらず、葵と春樹はボールを突き合ってるようだ

 笑い声がここまで聞こえてくる

 空になったペットボトルを、くずかごに投げ込むと、その方向へ歩く

 悠は目的を察して、一足先に駆け出しており、既に春樹のスパイクをキレイに上げていた

 葵のトスを受け、無慈悲な悠のアタックが、春樹が顔面にぶち当たる


 思わず失笑し、走り出す

 思い切りアクセルを踏み込み、ギアを一気に最大まで上げる


 全身の血流が踊る

 神経が張る

 鼓動が高鳴る

 腹と頭から湧き上がる高揚感に、鼻から吸った暑い空気を混ぜ込んで、思い切り口から吐き出した


 舞い上がったボールは、再び葵と悠のコートへ

 悠が拾い、葵が上げ、狙いすました悠のスパイク

 俺は春樹の前に滑り込み、レシーブする


 春樹、上げろ


 お返しとばかりに、悠の顔面めがけて渾身の一打

 ぬわーとか声を上げながらも、悠は両腕を出して見事に受けた

 遠くに跳ね上がったボールを、葵がバックトス

 ネットすれすれにコートに入ったところを春樹が拾う


 確かビーチバレーでは、指の腹を使ったフェイントなんかは反則だったはずだが、細かいルールは無視だ

 高くトスを上げて、春樹が立て直す時間を稼ぐ

 砂浜に足を取られるのも計算して、チームワークを図るのが、ビーチバレーの面白いところだ


 なんちゃってビーチバレーも、ラリーするだけで十分に白熱し、時間はあっという間に過ぎた

 葵と春樹がへばって座り込んでしまい、無制限のタイムアウトを宣告する

 昼飯を食いにコテージに向かった


 昼飯は、炙ったワタリガニで出汁を取ったつゆで食べる素麺

 いったい何人前茹でたのか

 祭りの金魚すくいに使われるようなプールに、タプタプと素麺と氷が泳いでいる


 片付け大変だから、残さないのよ


 じゃ、量を考えろ

 誰が()える昼飯を作れと言った


 と、言いたいのは山々だったが、いかんせん腹ペコだったので、とりあえず食えるところまで食ってみることにする


 見た目の割に、そこまで量ないから大丈夫よ


 ママが大皿に盛られた豚しゃぶサラダを、テーブルにどっさ(・・・)と置いたところで、五人がプールを囲んで手を合わせた


 入れ食い状態の素麺たちを、五膳の割り箸がどんどん釣り上げては、口の中へ滝登りをさせていく

 あおよそ人害によって絶滅に追い込まれた動植物たちのように、あっという間に素麺たちもその数を激減させ、二〇分後には近絶滅種に指定された

 しかし人間たちは容赦なく、隅に追いやられた数本の命をも摘み取りにかかる


 はー、食った食った


 こうして特別指定区域の素麺たちは絶滅した

 大皿の豚しゃぶサラダも忽然と姿を消す


 なぁ、ビーチバレーの続きしよーぜ


 悠が立ち上がってボールをもてあそんだ


 ごめーん

 あたしね、午後からは店番しなきゃなんだ

 それにもう、紫外線一年分浴びたし


 そうそう、これ以上はお肌に悪いわよ

 アタシはちょっと用事あるから、頼むわね


 はーい


 じゃ、二対一だな

 順番に


 ちょっと待って

 僕一人で二人の相手は無理だよ

 それに僕ももうヘトヘト

 葵と店番、


 だーめーだ

 おめー審判やれ

 オレと瞬で真剣勝負すっから


 えー


 一応ブー垂れてはいるが、必ず春樹はオッケーすることは明確だ

 悠の真意が、本当に審判が必要だと思ったのか、これ以上春樹と葵を二人にさせることを阻止するためだったのかは不明

 ということにしといてやる


 ママは後片付けを俺たちに押し付けて、どこかに姿を消した

 プールを排水口があるところまで移動し、四人で洗う

 当然のように、悠が中に入って泳ぎ出したので、プールの端を思い切り持ち上げてやって、水攻めの刑に処す

 昼飯の前にもシャワーは浴びてたが、絶え間ない天地からの熱エネルギーに、身体は常に発汗を余儀なくされ、真水のありがたみを再認識させられる


 バーベキューの準備しておくよ

 あんまり無茶しないで休みながら、ね?


 葵が見送る

 今更だが、日焼け防止にTシャツを着て、先ほどの特設コートに向かった

 バーベキューの時間まで三時間ちょっと

 足腰立てなくなるくらい、打ち込んでやる

 悠が地元に帰ってきて二度目の夏

 たまりにたまったツケとウップンを、ここで晴らしてやろう

 波と、汗と


 血と涙で


 俺のそんな考えと表情を、目ざとく読んだ悠が、

 この炎天下の中


 顔を、青くした

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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