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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十九幕 選択と混沌
327/371

第十一話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 橘さんと石黒くんが出迎えてくれたマンションで、盛大な祝勝会が始まった

 一流シェフによる一流食材を使った一流料理の数々が、テーブルを埋め尽くしている

 中華はあの店から出前してもらい、フレンチに至っては、わざわざマンションにシェフを呼んで作ってもらったらしい

 しかし、それら料理の全てが大したものではないと錯覚してしまうほどに、橘さんはイメージチェンジした葵を褒め称え、激賞し、昂り過ぎて涙を流した

 石黒くんは、そんな橘さんに呆れながらも、約束のガトーショコラを受け取り、目を輝かせた


 中華は、前回ご好評いただきました品々を

 フレンチはこちらから

 パテドカンパーニュ

 ブイヤベース

 コックオヴァン

 フォアグラのテリーヌにトリュフを添えて

 リドヴォのブッフサレもご用意致しました


 とりあえず高級だってことは分かった


 これにケバブが揃えば、世界三大料理網羅だな


 瞬の呆れた声に、橘さんはすぐに反応する


 さすが瞬くん

 そちらもオーブン内で絶賛待機中です

 身を削ぎ落とされることを、今か今かと待ち焦がれていることでしょう


 全員が苦笑する中、始めはやっぱりこれでしょう、とシャンパーニュの栓が開けられた

 見たこともないような透き通った黄金色の液体に舌が震え、二度と口にすることはないであろう料理に歯がざわめいた

 石黒くんや悠は、うめーうめーと鳴きながら、次々と料理を口に流し込む

 橘さんや瞬は、流れるような仕草でグラスを口に運んでは、料理の発祥起源やシャンパーニュの味について話す

 僕は、どちらの側にもつけずに、もたもたと肉を切り分けては、舌と歯とフォークがあちこちで起こす衝突事故の収拾に明け暮れた

 ふと、葵の料理がほとんど減っていないことに気がつく


 葵

 食欲ない?


 僕の声に、橘さんがガバリと立ち上がった


 申し訳ございません、葵先生

 お口に合いませんでしたか?


 葵は慌てて首を横に振った


 いいえ

 どの料理も、とっても美味しいです

 食べたいって気持ちはあるんですけど

 コンサートが終わってから、ずっと胸やけしてる感じで


 そーいや、最近食欲ねーよな

 前なんかワインも残してたし


 口いっぱいの高級料理を、惜しげもなく胃袋に送り込んだ悠が言った


 相当、無茶苦茶しおったからのぅ

 あのびび(・・)っつー大蛇も、まだ戻っとらんのだろ?


 お酒にめっぽう弱い石黒くんが、炭酸水を飲みながら言った

 葵は頷きながら、レンズ豆を一粒、フォークに刺して口に運ぶ


 あたしって、みんなが憑いてないとポンコツだなあ


 なんとも情けない言葉に、僕は思わず吹き出した


 あれだけのことをした後だもの

 葵は元気な方だよ

 仕事も行って、家のこともやって

 僕だったら入院してたと思う

 点滴付けて寝たきり


 ほーほー

 ふきなもんふってねへりゃーはほふっへ


 僕の後に悠が続いたが、は行が多過ぎて理解できない


 葵を労いたいなら、とっとと出ていけ


 さらに瞬が続いたが、慈悲がなさ過ぎて理解できない

 橘さんが、新しいグラスに炭酸水を注ぎ、かき混ぜながら葵の前に置いた


 葵先生

 私が疲れた時に飲む、レモンとハーブのビネガー、ソーダ割りです

 気分がスッキリしますし、料理にも合いますよ


 葵は、それを半分ほど一気に飲み、すごく美味しいです、と笑った

 橘さんは安心したように席に戻ると、コンサート後に行われた捜査について話してくれた


 報道の通り、死者、行方不明者はゼロで間違いないということ

 コンサートに行った人やその家族に咎められたり感謝されたりで大変だということ

 でもまぁ、その対応やら何やらは問題ないということ

 コンサートの関係者、参加者、また信霊教の幹部に至るまで、今回のことは不幸な事件だったと口を揃えて言っているということ

 警察は、犯行予告も声明文もなく周到に爆弾を仕掛けた実行犯を、内部と外部両方から捜査するつもりということ

 スマホや会場のカメラ、押収したパソコンに残っている映像は、天井近くで爆破が起きた以降はほとんど残っておらず、残っていても不鮮明で解析できないということ

 パソコンの方は、石黒くんがもう少し調べてみるということ


 僕たちも順に、ここに来るまでに話し合ったことを、橘さんと石黒くんに話した

 教祖の助けを得て、扉を閉じたこと

 しかし、会場にいた全ての成り代わり、影求印の魂を失ったこと

 そして、影求印とその周りで起きたこと

 つまり、影求印は全く別の人間としてこの世界に現れ、それを取り巻く全ての人間は、記憶を上書きすることで、それを受け入れてしまっている、ということだ


 橘さんは唸った


 コンサートに行ったと言う方のご家族にお話を聞くと、人によって若干ですが、証言にばらつきがあるのですよ

 すんなりと受け入れている方から、自分の勘違いかもしれないけど、と少し違和感を感じている方、人が変わってしまったようだ、と嘆かれる方から様々です

 影求印、成り代わりの成り代わり

 そう考えると納得できてしまいますね


 石黒くんが頷きながら、ケバブを食い千切る


 そいちろの気を引きたくて、わざと話を盛っとる思っとったがぁ

 上書きの度合いは、影求印と接した時間や、個人の取り憑かれやすさと関係があるんかのぅ


 そう言って、炭酸水を流し込む

 二人には、悠の妹のことは言っていない

 だから、記憶を上書きされているのが僕たち自身で、ぜん(・・)が取り憑いている悠だけに、妹が全くの別人に見えてしまっていることは、知る由もない

 僕は、石黒くんの推察に、それらしく頷くことしかできなかった

 初対面が影求印だった葵はともかく、もっと前から知っている僕や瞬まで、たった一度影求印に出会っただけで、こうもキレイに上書きされてしまっているのはおかしい

 そもそも瞬は、小さな霊にも取り憑かれないはずだ

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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