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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十九幕 選択と混沌
324/371

第九話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 写真、見る?

 あんたが小さい時の


 そう言ってお袋は立ち上がり、分厚いアルバムを持ってきた

 そこに写るオレと赤ん坊


 あんた、この頃チビでねえ

 ちゃんと食べさせてますかー?って健診のたびに言われて泣きそうだったわあ

 でも、小中学校で六〇センチ近く伸びてね、今くらいの身長に収まってくれたわけよ

 いくらイケメンでも、チビじゃ魅力半減でしょ


 そう言って、お袋はコロコロと笑い、他の写真にまつわる思い出を次々と披露していった

 オレには、どの写真を見ても、その写真に写るのはオレと四つ下の真実(まなみ)にしか見えなかった

 どんな思い出話を聞いても、全くの別人を妹と信じ込むための、こじつけにしか聞こえなかった


 お袋と部屋を出て、親父と婆ちゃんに頭を下げる

 この三人は、オレが真実(まなみ)とあの事件のことを真悠から聞き、一時的に混乱しているだけということで、話を落ち着けたようだ


 今日は泊まっていくんでしょ?


 お袋が聞いてきたが、オレは首を横に振った


 心臓が引き絞られるような空虚感

 脳天が貫かれるような疎外感

 内臓を突き上げてくるような嫌悪感


 目の前に現れた真実(しんじつ)とやらがもたらす感情に、オレはこれ以上耐えられそうになかった

 家を出る

 オレの妹とやらの顔は、視界にも入れなかった


 暫くの間、車の中で呆然と澄んだ星空を眺めていた

 迎えを呼ぼうか迷った

 三人は、オレの話を信じてくれる

 でも、真実(まなみ)のことを、三人は知らない

 共感などしてくれない

 ぜん(・・)が取り憑いているオレには、誰にも見えない真実が見えてしまっている

 だからこそ、誰にとっても当たり前の真実(しんじつ)を、受け入れられなくなってしまっている

 そう考えた

 その瞬間、キンとするような緊張と罪悪感を覚えた


 今のは、ダメだ


 まるでぜん(・・)のせいで、オレがまともじゃなくなったみてーな考え方だ

 ぜん(・・)は、なんも悪くねー

 奥歯を噛み締める

 それと同時に、満天の星々が、突如姿を消した


 ゆう、ごめんね


 すぐにそばで、声がした


 しまった


 そう思わずにはいられなかった

 オレの言動や考えなど、ぜん(・・)には誤魔化しようがない

 ぜん(・・)は、いつものようにオレに引っ付いてきたが、顔は埋めたまま言葉を続けた


 ぼくがみるのは、みんながもとめる、しんじつなんかじゃ、ない

 みんながひとつだけえらんだ、しんじつ

 そのしんじつじゃないものが、少しだけ、みえるだけなんだ

 しんじつはたくさんある

 でも、ひとつしかえらべないから、しんじつなんだ

 ぼくのちからは、やっぱりだめなんだ

 ぼくの、せいで


 オレは慌てて、ぜん(・・)を力いっぱい抱きしめた


 違う

 違う違う

 おめーのせいなんかじゃねー

 まだ、オレの頭の整理が追いついてねーだけだ

 問題ねーよ


 ゆうは、あおいより、ぼくの、えいきょうをうけやすいんだ

 このままじゃ、ゆうがこわれちゃう


 壊れねーよ

 ぜってー大丈夫だから、な?

 頼むから、そんなこと言うなよ

 おめーはすげー力持ってんだ

 おめーに取り憑いてもらって、オレ、ほんとに嬉しいんだよ

 おめーと見る世界が楽しくて、これからも楽しみでしょうがねーんだ

 頼むから一緒にいてくれ、な?

 葵から、おめーのこと、ぜってー大事にするって、託してもらったんだ

 やっぱり無理でしたなんて言えるかよ

 ぜってー何とかするから

 今だけだから

 もうちょっとだけ、待ってくれ


 オレは必死で訴えたが、ぜん(・・)が顔を上げることはなかった

 視界が再び星空に戻る寸前に、ぜん(・・)が呟く

 それが、オレの耳にいつまでも残って、離れなかった


 ぼく、みえるんだ

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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