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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十九幕 選択と混沌
312/371

第四話

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 悠が運転する車の中、太陽はやっと本領発揮してきたらしく、俺の膝で眠る葵の左頬をそっと温めた


 その周りの髪は、いびつに刈り取られ、常に付けていたはずの赤いピアスがない

 なくしたら嫌だから、と結婚指輪は家に置いてきたことは記憶しているにも関わらず、寝息を立てる葵の姿が、今にも幻のように消えていきそうな錯覚に、どうしようもない苛立ちを覚えた


 事態の収拾にてんやわんやの聡一朗と椿、その他大勢の公務員たちを置いて、俺たちはいち早く帰路に着いた

 廃車の烙印を押された聡一朗のBMWに手を合わせ、奇跡的に無事だった悠のボロ車に乗り込み、一〇分ほど力走したところである

 当然、病院行けだ、家に泊まれだ、焦る聡一朗に止められたが、


 後日祝勝会開催

 要連絡

 ハッピーバレンタイン


 とだけ言い、車に乗り込んだ

 悠はどんな身体と頭の作りをしているのか、救助活動をしているうちに、いつもの動きとテンションを取り戻していた

 椿と戻ってきた春樹も、どういうわけかホクホク顔で葵を背負っていた

 そんな二人は車に乗り込んでからも延々と、あの悪夢のような出来事を、武勇伝と笑い話に換えて歓談を楽しんでいる

 ため息が出た

 二人とも、どうかしている

 取り憑かれ慣れの差によるものなのか

 俺は今すぐにでも寝落ちしそうなところを、不安と空腹とやるせなさで堪えているというのに


 お

 コンビニあった

 腹減っただろ?

 何か適当に買って来るぞ?


 僕も行くよ


 おめー、その肩の傷

 ダメージ加工には見えねーぞ?

 即通報もんだぞ?


 あ、そっか

 もう痛みもないから忘れてた


 その点オレはキレーなもんよ

 ちょっと待ってな


 でも悠、待って


 あんだよ

 何か変なとこでもあんのか?


 お金、ないでしょ


 潔く春樹から受け取った五千円を握りしめ、悠はぶさぴよと共にコンビニに吸い込まれていった


 わりぃ、春樹


 やっと声を出した俺を、春樹が振り返って見てきた


 全然

 これくらいさせてよ


 これも、そうだが

 他にも、いろいろだ


 それはお互い様

 瞬がいなかったら、僕たちはこうして四人揃って車に乗ることなんて出来なかった

 でもそれは、悠でも葵でも、僕でも同じこと、でしょ?

 いつも通りだよ

 あ、でもさ、お礼は言いたいな

 瞬

 今回も身体張ってたくさん助けてくれて、ありがとう


 それは、本当にいつも通りの、春樹の言葉だった

 頭の中でまどろていたモヤがすっきりと晴れ、冬暁(ふゆあかつき)に朝日がすっと差し込むむような、いつも通りの言葉

 俺は葵の短くなった髪を撫で、ああ、とだけ呟いた

 春樹は俺のそんな様子に、ふふふと笑うと、コンサートでの俺の行動一つひとつを拾い上げては、いつも通り褒めちぎった

 俺は、こんな時でも春樹を喜ばせる言葉の一つも出てこない自分に嫌気が差しながらも、それを全く意に介さない親友の存在に、ただただ、感謝した


 ほれ瞬

 その殺人兵器感まる出しの顔は、腹が減ってるからだろ?

 とりあえず食えって


 そう言ってコンビニから戻ってきた悠が、顔面が隠れるほどの紙袋を突き出してきた

 湯気とあの独特の香りが、折り目から漏れ出ている


 ほれ春樹も


 うわー肉まんだぁ

 あったかいの食べたかったんだよぅ


 ガキのように喜ぶ春樹に、ペットボトルのお茶とおつりを渡しながら、悠は缶コーヒーの栓を開けた


 瞬もお茶でいいか?


 ああ


 喉もカラカラだよねぇ

 悠、コーヒーで大丈夫?


 オレのカフェイン依存を舐めんな

 死闘から奇跡的に生還した後で、事故って死にたくねーだろ


 疲れたら僕、いつでも運転代わるからね


 んな無免許運転させるほど、へばってねーよ


 僕、免許持ってるってば


 んな嘘が見抜けねーほど、へばってねーよ


 嘘じゃないってば


 免許あろうがなかろうが、春樹

 とりあえずお前はそこに座っとけ


 うわ、瞬まで

 ひど


 そんなことを言い合いながら、車は再び走り出した

 温度とカロリーを取り込んだお陰か、体温と気持ちが順調に高推移していく

 とにかく今は、早く家に帰って風呂入って寝たい

 社会人の誰もが抱くような願望を、言い合う余裕すら出てきた

 悠と春樹は、元の生活が愛おしいだとか、葵の料理が待ち遠しいだとか、遠慮もなくぬかし始める

 バレンタインパーティだ、祝勝会だ、ゲッショクパーティだと調子づいたところで、話の暴走を阻止することにした


 そういやぁ

 お前らとの同居生活も、今日で(しま)いだな


 悠と春樹は、暫く表情筋を停止させた後、揃って特大の雷に打たれた

 ぶさぴよ顔のまま、顎をカスタネットのように動かしている

 そんなことをしながらも、悠の運転は安定していた

 思わぬ特技だ


 葵との約束だったろう?

 (ほとぼ)りが冷めるまで一緒に暮らす

 熱りは冷めた

 今日一日は待ってやる

 明日には出ていけ


 今度は二人の全身が、噴火前の火山のように震え始めた

 そして、ご多分に漏れず、鬼だ畜生だと喚き散らかす

 事態の収拾と制裁に、デコピンの有用性が跳ね上がった頃、葵が目を覚ました


 葵いいいいいい

 オレはもう、空調が効いてて、掃除が行き届いてる部屋で、毎日おめーの飯を食わなければ死んでしまう身体になってしまったんだー


 僕も、今マンション出たりしたら、生活落差で死んじゃうよぅ


 潔く死ね


 え、ちょ

 どうしたの、みんな


 葵もさー、オレたちがいなくなったら悲しいよなー?

 ずっといてほしいよなー?


 僕もいきなり一人になったりしたら、寂しいよぅ


 悲しくねぇし寂しくもねぇ

 とっとと失せろ


 ええーとお


 その後、恐らく無事にマンションまで辿り着いた俺たちは、風呂に入り、去年のキャンプ以来、四人で頭を並べ、ほぼ丸半日寝ることになった

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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