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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第三幕 告白と習慣
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第四話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 いつの間にか、気持ちよく眠ってしまっていた

 程よい弾力で、上等のベッドみたいなソファは、やはり寝るために作られたのだと思う

 至れり尽くせりのもてなしを受けて、僕はまさに、王族にでもなった気分で眠っていたんだ


 瞬に叩き起こされるまでは


 おら、お前ら起きろ

 帰るぞ


 恐らく僕らは、猫の霊にでも取り憑かれていたのだろう

 うにゃっと悠と跳ね起き、のろのろと辺りを見回す

 見慣れない、僕には間違いなく分不相応な部屋と家具

 懸命に記憶を遡って、答えを導き出す

 葵の家、だ


 あーーー

 せっかく気持ちよく寝てたのにー

 葵いいいい

 今日このまま泊めてー


 アホ

 初めて来たその日に、女の家に泊まってくやつがあるか

 片付けて帰るぞ


 悠はブーブー言いながらも、残ったおつまみの袋を閉じたり、グラスを台所に持ってたりした

 僕もゴミをまとめる


 タクシー呼ぶから、乗って帰って

 ママからチケットもらってるし


 葵がスマホを見せながら言う

 僕なんかは、家が近いし申し訳ない


 た・だ・し

 ちゃんとその分働いてもらいますよ?


 そう言って葵はにっこり微笑んだ

 キレイな指先が、台所のシンクに向いている

 そこには、ご馳走が乗っていた大皿や鍋が、山のように置かれていた

 男三人で顔を見合わせる


 春樹さんお皿洗って、その間に二人はテーブル拭いて、床掃除

 終わったら悠さんすすいで、瞬さん拭いて、棚にお片付け


 普段の料理教室でもこんな感じなのかな

 実に慣れた様子で指示を出す

 僕たちは、そうプログラミングされた出来の悪いロボットのように、たどたどしく働き始めた


 春樹さん、洗うのは汚れが少ないものから

 悠さん、水出しすぎ

 瞬さん、あちこち物色しないの

 分からないことは聞く


 ゴミをまとめる葵の注意が飛ぶ

 実に楽しそうだ

 一人暮らしなら面倒なことでも、みんなでやるとゲーム感覚になる

 カチャカチャ食器を鳴らしながら、僕たちは大学最後の夏休み、キャンプに行った時の話を始めた


 大学四年、八月

 二人は既に内定をもらっていて、後は卒業論文を仕上げるのみだったんだけど、飽きっぽい悠は早々にペンを投げていた

 僕は、教員採用試験の一次試験が終わって、結果を待ちながら二次試験の準備

 で、息抜きも必要ってことで


 当時、既に使われなくなっていた山小屋に、キャンプ兼肝試しに行ったんだ

 その山小屋が使われなくなった理由は、登山客の減少

 でも悠に言わせると、その山小屋の利用者が、次々と行方不明になる事件が起きたせい、らしい


 小屋に入って扉を閉めたら、何があっても絶対に、朝まで扉を開けてはならない


 そんな謎ルールがあって、それを反古した利用者が、ことごとく行方不明になってるんだ、と悠は言っていた

 兎にも角にも、オカルト研究会としては放って置くわけにはいかない案件


 大学最後の夏休み、気合い入れて行くぞ


 ということで、キャンプ用具一式とバーベキューセットを、大きいリュックにギュウギュウ詰め込んで、三人で向かった


 行く途中の定食屋で昼ご飯を食べて、山の麓へ

 駐車場から山小屋まで、三キロメートル程だったんだけど、結構急な山道で、パンパンに重たくなったリュックを背負って、更に真夏の炎天下という状況に、僕なんかは一〇〇メートルごとの休憩が必要だった

 やっとこさっとこ、その山小屋に辿り着いた時には、二リットルのペットボトルは空になって、僕は疲労困憊していた

 瞬は、僕より大きい登山用リュックに、食材の入ったクーラーボックスまで抱えているのに、少し息が上がったくらいで平然としている

 僕が休憩を申し出るたびに、面倒くさそうな顔をしていた

 悠も、疲れてはいたんだろうけど、山小屋と対面した途端に元気になっていた


 使われなくなってから、数年は経過しているにも関わらず、小屋の周りは車一〇台位は停められそうなスペースがあって、荒廃した、と言うにはきれい過ぎる山小屋だった

 鍵は付いておらず、ノブをひねれば、誰でも中に入ることができる

 動物に荒らされた様子もない、少し掃除すれば三人で一泊するくらいは、全く問題がないように思えた

 バーベキューの用意を二人に任せて、僕は小屋の中を掃除する


 本当に小屋だけ

 窓もテーブルも電気も何もない、ドアを閉めると真っ暗になってしまうので、ドアは開けたまま

 それに、小屋に入って扉を閉めたら、絶対に朝になるまで扉を開けてはならない、というあのルールがある

 もしここで、ドアが締まってしまったら、僕は朝まで出られないことになってしまう


 いきなり、ドアがバーンと閉まったりしたら


 そんなことを考えて、いちいちドアを振り返りながら行った掃除は、すこぶる効率悪く、鉄板怪異も起きずに終わった

 汗を拭いながら外にでると、バーベキューチームは、既に分厚い肉を焼いたり、コンロで鍋に湯を沸かして、野菜を投入し始めていた

 肉の塊の周りに、焼き目がついたらアルミに包んで、更に新聞紙で包む

 こうして小一時間置いておけば、ローストビーフが完成するのだ

 完成するまで、他の肉を焼いていく

 網の上の肉たちが、食べてほしそうな眼差しをこちらに向けてくると、彼らには塩コショウが振られて、使い捨てのどんぶりに盛られていく


 ほれ、食おうぜ


 悠が紙皿を突き出してくる

 荷物になるから、悠用の缶ビールは二本、僕用のチューハイも二本

 その貴重な一本を開けて乾杯する

 瞬はウイスキーを紙コップに注いで、そのままストレートで飲む

 汗もかいて疲れていたので、酔いも回りやすい

 飲むのは最初だけにして、食べることに専念することにする

 苦労して持って登ってきただけあって、炭火で焼いたお肉たちはめちゃくちゃ美味しかった

 と言っても、僕が運んだのは、かさばる割に重さのない寝袋とか、鍋とか、使い捨てのどんぶり、組み立て式の椅子とかだったんだけど


 鍋で煮ていた野菜が柔らかくなった所で、インスタントラーメンが沈められていく

 三分後、調味袋を開ける

 各々鍋からどんぶりによそって、麺を野菜ごとすすり上げる

 こちらもうまい

 すするって食べ方の偉大さに感心しながら、暑さも忘れて腹を満たしていく

 持ってきた肉と、鍋の中身が底をついてきた頃、悠が最初に作ったローストビーフを切り始めた

 折りたたみ式のまな板とナイフで、器用に切っている


 おおー

 上出来上出来


 感嘆の声が漏れる

 半分ほど切ったところで、空になった鍋の上に、まな板ごと乗せた

 三膳の割り箸、が三方から伸びる


 これはうまい


 ある程度、お腹は満たされていたけど、別格に美味しい

 奥歯で十分にすり潰して飲み込んだ後、レモンチューハイで口に残った肉汁と炭の香りを押し流す

 すると再び、肉を咀嚼したい欲望に駆られて箸を伸ばす

 この繰り返し

 あっという間に、切られた分のローストビーフはなくなってしまった

 残り半分は、僕がおぼつかないナイフさばきで切り分ける

 悠が切ったのより大分(だいぶ)厚切り

 一枚とって見ても、最初と最後で厚さが違う


 僕って不器用だったんだな


 薄々気付いていたことを、確信へと変換

 エンター


 二人は文句も言わずに、見た目二点のローストビーフの小間切れを食べる


 おめーにしては上出来上出来


 と悠


 人間一生懸命生きてりゃいんだって


 と瞬

 え、慰められてる?

 僕ってそういうキャラ?

 薄々気付いていたことを、確信へと変換

 エンター

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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