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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十八幕 誤解と選択
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第二話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 そうして、椿は少しずつ、慎重に扉へ進んで行った

 ある瞬間、扉に吸い込まれそうになる

 いや、確かに椿が、扉を引き寄せているようだ

 すると、扉の一部が剥がれ落ち、そこから一筋の糸が椿の左手に向かって伝った

 糸から、白い蒸気のような煙が立ち上る

 それは、汗だくになりながら、祝詞を唱え続ける椿によって、祓われている霊たちだった

 椿の左手と扉を繋ぐ糸は、いつの間にか五指それぞれから一本ずつ伸びている

 いと(・・)の糸だ

 椿に取り憑き、糸で扉と椿を繋げている

 あれを通して霊たちを引き寄せることで、椿との力のバランスを保っているのだ

 さすがガチ霊能者

 いと(・・)の能力を上手く使ってやがる

 オレは感心し、とりあえず頭だけは働かせることにした


 待てよ?

 いと(・・)の糸で、あの扉をぐるぐる巻きにするってのはどうだ?

 いくらなんでも、あのデカさは無理か

 それに、いと(・・)の糸も無限に出せるわけではないだろう

 ああやって、少しずつでも扉の拡大を抑えながら、タイミングを待つ

 扉は、こっち世界において安定した状態ではないはずだ

 教祖によって緻密に、周到に準備されていたからこそ開いた扉だ

 一気に大量の魂を吸い込むことで、あんだけ巨大でとんでもねー化けモン扉になっている

 あんなのが、あっちこちで自然発生してたら、たまったもんじゃねーしな

 現に、椿がああやって浄霊してくれている間、魂の吸収がストップしているようだ

 ただ、こっちの出方を見てるだけとか、力を溜めてる最中とか、ばく◯ん岩的なことではない、よな?

 葵の守護霊たちはどう考えてる?

 葵は何か、守護霊たちから聞いたのだろうか?

 やっぱり、鎮魂しか方法はないのか?

 鎮魂によって、魂や霊を全て浄霊させるしか

 今は椿のお陰で、それをさせずに済んでいる

 でも

 椿が力尽きた時、もしくは、状況がこれ以上悪い方向に進んだ時、オレたちはまた、最悪の選択を迫られることになるのだろう


 全滅か

 鎮魂か


 選ぶまでもないことなのは分かってる

 全員が助かる可能性がある方法ではなく、わざわざ全員が死ぬ選択をするのは、あまりに非合理だ

 でも、ゴリゴリの合理性や道理どーりの選択ほど、今のオレたちにとって無意味なものはない


 どうにかして、葵に鎮魂をさせないでオレたち全員が助かる方法を見つけ出す

 ないなら生み出す

 必ず方法はある


 葵


 オレは、何が何でも

 全員が生きる道を、選ぶからな


 不意に、椿の様子が変わった

 何かに気づいたように、頭をもたげて扉を睨みつける

 どうしたのかと聞こうとした瞬間、見えた

 椿が衝撃波を受けたように、吹っ飛ぶ姿が

 今の椿に重なって、見えてしまった


 椿、やべーって


 オレが叫ぶの同時、椿が振り向き、伏せろと怒鳴った

 しかし、全てを言い終える前に、椿は浮いた

 まるで巨大な見えない手に掴まれ、払いのけられたかのように、あっけなく、無抵抗に、非道なほどスローモーションで、椿は後ろに吹っ飛んだ

 扉に繋がっていた糸が切れ、煙のように消える

 オレは前からぶつかって来るような圧力に押されながら、椿の行方を目で追った

 その終着点

 やべー

 あの勢いと高さなら、何もない床でも二、三カ所の骨折は覚悟だが、それだけでは済みそうにない

 そこでは、剥き出しになった骨組みが、血肉に飢えたように椿を待ち構えていたのだ


 椿


 オレのつま先が、床にヒビを入れる

 アスリートが放った槍の如く、オレは空中を滑空し、椿の元へ飛んだ

 オレの手が、椿を捉えたのとほぼ同時、横から一つの影が、風のように現れた

 その風は椿の身体を包むと、オレを巻き込んだまま床にふわりと着地

 というわけにはいかず、バランスを崩し、三人でゴロゴロともつれ合って転がった


 だ、大丈夫ですか

 椿くん

 申し訳ございません、悠くん

 お怪我は?


 ガバリと起き上がり、真っ先に椿を抱き起こした風の正体


 そいちろ

 逃げろっつったよな?


 椿が、優しすぎる風神の如き橘さんを睨みつけた

 橘さんは胸を張る

 肩に乗っかっているりり(・・)まで偉そうだ


 はい

 仰せの通り、一度逃げてから、こうして馳せ参じた次第でございます


 屁理屈言うなや


 屁理屈だろうが、退屈だろうが、私が参らなければ、椿くんは確実にお亡くなりになってました


 安丸がおったがぁ


 風神様が、チラリとオレの方を見た

 オレは、そーっと二人から顔を背ける

 頭の上で、ぶさぴよちゃんとしろ(・・)が、くわーと鳴いた


 椿くん

 屁理屈はいけませんよ

 命を助けられた場合は、その理由背景如何問わず、まずは感謝の意を示さなければ


 屁理屈だろうが、卑屈だろうが、今すぐとっとと逃げやがれ


 こんな時でも、変わらずに繰り広げられる夫婦漫才を聞きながら、オレは視線を春樹たちの方へ向けた

 大きくふっ飛ばされたのは椿だけで、三人はノックバックしたか、床を転がっただけのようだ

 葵を庇った瞬が、また目眩を起こしたようで、そばで葵が心配そうに覗き込んでいる

 少し離れたところでは、春樹が目を擦っている

 目に砂でも入ったのだろう

 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間

 その春樹の元に、影が迫るのが見えた

 風神様でも雷神様でも、ましてや救済や慈愛などでもない

 怨恨、苦痛、絶望、狂気

 そんなものが凝縮されて、どす黒い嵐のようになった塊が、大型ダンプのように春樹に突っ込んでいる

 扉の欠片か、もしくは他で発生してしまった扉の出来損ないか


 なにまた、意味わかんねーもん引き寄せてんだよ、おめーは


 再び地面を蹴る

 あれは、いくらぎん(・・)でも祓いきれそうにない

 最悪、春樹もろとも灼かれてしまう

 トレースタイプなら避けようがない

 オレの横をかすめて、しろ(・・)が稲妻のように宙を引き裂き、春樹に警報を鳴らす

 春樹は異変に気づき、顔を引きつらせた


 春樹


 爆弾が投下されたような衝撃

 身体中の皮膚を剥がし取られるような激痛

 息が詰まって、はらわたがぐちゃぐちゃと混ぜられたような吐き気がせり出してきた

 こんなのに直撃されたら


 埃と怨霊の残骸が煙のように舞う中、えづきながら春樹がいた場所に目を凝らす

 姿が見えない

 脂汗に冷や汗が混ざり、不快な雫となって背筋を伝った


 春樹


 いた

 腰を抜かしたような体勢で、口を半開きにしている

 ホッとして春樹の視線が向く先を確認する

 その途端、

 オレの体温は、史上最高速度で急降下していった

 流れ出た汗が凍りつく


 くくくくくくくくくく

 かかかかかかかかかか


 忘れもしない

 か行を連発する、あの笑い方

 二メートル以上のぬるりと長い身体

 脚まで伸びる、ベタベタした少量の髪

 大きな目に細長い瞳孔

 鼻は出ておらず、小さな穴が二つのみ

 びっしりと表面を覆う白い鱗


 そしてそいつは、いや、その御方はやはり、口元を白い着物の袖で隠していた

 くねくねと身体をよじらせながら、ぬめぬめとした視線で春樹を舐め回す


 なあんだい、なあんだあい?


 クセの強い喋り方

 去年の夏の出来事が

 草を踏みつけた感触が

 小川の匂いが

 骨の折れる音が

 血のりのように、べったりと喉に絡みつく唾の味が

 あの山での恐怖とともに蘇る


 あまりに鮮明に

 あまりに如実に

 あまりに、横暴に


 オオアマウワテバラミス様


 まずは親友を助けていただき、ありがとうございます


 さて、誠に恐縮ですが

 ワタクシめ


 決してあなた様にだけは

 お会いしとう、ございませんでした

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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