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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十八幕 誤解と選択
289/371

第一話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 八起さん


 葵が、僕たちを庇うように教祖と相対(あいたい)したのだ

 葵の声は、落ち着いていたが、触れたら電気が走りそうなほどに、ピリピリしていた


 選ぶとか選ばないとか、一方的な関係だけで成立するものじゃないんです

 だから、自分が選んだものから、選ばれるとは限らない

 それは選択を誤ったということなのかもしれません

 でも、それに選ばれなかったとしても、選ばれなかった方に選ばれたんだと、あたしは思うんです

 もっとふさわしい何かに選ばれたんだと、思うようにしてるんです

 何度でも、また選び直せば良い

 そんなチャンスに選ばれたってことなんです

 二人は、何度だって選び直してくれました

 あたしが二人を選ばなかったんじゃない

 二人が、あたしを選んでくれたんです


 葵の言葉に、僕と悠は、見慣れたはずのキレイな後ろ姿を見つめた

 長い髪は、少し乱れてしまっていたけれど、その奥の背中には、沸き立つような頼もしさと、溢れ出るような美しさがあった

 教祖は顔から笑顔を消し、虚ろな眼差しを葵に向けた

 構わずに葵は肩を僅かに上げ、大きく息を吸い込む


 選択は、どちらか一方だけでするものじゃないし、その時だけで終わるものでもない

 人生は選択の連続だと言うなら、

 八起さん

 あたしは何度だって、

 全部を選びたいの


 火が緞帳か何かに引火したらしく、昇天する竜のような炎が立ち上った

 熱波と悲鳴が渦巻く

 そんな中でも葵の声は、確かな存在感を持って、僕の頭に直接届けられていた

 それはまるで、雨の上がった後、真っ先に目に飛び込んで来る虹のように印象的で、ずっと見ていたくなるほど心地良かった


 八起さん

 あなたは一体、何を選びたいの?

 何に、選ばれたかったの?


 葵の問いに、教祖は答えることなく、文字通り姿を消した

 ホッとしたのも束の間

 先ほどとは比べ物にならないくらい、強烈な風が吹いた

 獣の死骸をヘドロに漬け込んだような臭いに、鼻がありえない方向に曲がる気がした

 収拾がつかないほどに、背中がざわめく

 腹の底から込み上げてくる不吉過ぎる予感に、喉が詰まった

 上を見る

 そこには


 目にしただけで、その真っ暗な闇に引きずり込まれてしまいそうな、巨大な穴があった

 圧倒的な引力と絶望に満ちた穴の周りでは、雷神のイカヅチが群れをなして踊り狂っているようだった


 これが、扉

 あっちの世界への入口


 不快感も忘れて呆気に取られていると、淡い光の筋が、ひょろひょろと扉の中に吸い込まれて行くのが見えた

 一つではない

 十、二十、いやもっと

 よく見ると、色も様々だ

 ちょうど、長く垂らしたスズランテープを掃除機で吸った時のように、儚く尾を引いては扉の中に消えている

 それが、人間の魂であると気づいた瞬間、会場を覆い尽くす悲鳴が、はっきりと聞こえてきた

 名前だ

 自分のパートナーを、何度も呼ぶ声だ


 意識が遠のきそうになる

 それは果たして、扉が持つエネルギーのせいなのか

 どうしても抗えない力への、虚無感から来るものなのか

 答えを出すことも、考えることも諦めて、僕はただ呆然と、自分が内側から崩壊していくような感覚を、他人事のように感じていた


 みんな


 突如、この状況には全くそぐわない、活気のある声が上がる

 葵が僕たちの方を向き、さらに活気のある目を見開いていた


 作戦⑤

 扉が開いても閉じれば良い

 何とかしよう


 この言葉で、僕はやっと魔法が解けたようにフッと息を吐き出すことができた

 葵の威勢に応え、悠がさらに声を張る


 まだ終わってねー

 四人が揃ってる

 オレたちが全員、ここでくたばるまでがタイムリミット、だろ?


 気持ちが、暗闇から勢いよく引っ張り上げられるのが分かった

 僕も思い切り息を吸い込んで、不安や絶望を振り払うよう大声を出す


 決めよう

 扉を閉める

 助けを求める

 諦める

 さあ、どうする?


 うるせぇ

 耳元で騒ぐな


 タイミングばっちしに瞬が起きる

 僕たちから腕を解くと、眼鏡を直し、頭を搔いた

 四人で顔を見合わせる

 答えなんて決まっていた

 僕たちは、これからもずっと同じ答えを、選び続けていくのだから


 葵の瞳が煌めく


 どんな時だって

 何度だって


 葵


 頑固でわがままで人遣いが荒くて

 どんなことにもまっすぐな君を


 選んでしまうのだから

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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