第一話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
八起さん
葵が、僕たちを庇うように教祖と相対したのだ
葵の声は、落ち着いていたが、触れたら電気が走りそうなほどに、ピリピリしていた
選ぶとか選ばないとか、一方的な関係だけで成立するものじゃないんです
だから、自分が選んだものから、選ばれるとは限らない
それは選択を誤ったということなのかもしれません
でも、それに選ばれなかったとしても、選ばれなかった方に選ばれたんだと、あたしは思うんです
もっとふさわしい何かに選ばれたんだと、思うようにしてるんです
何度でも、また選び直せば良い
そんなチャンスに選ばれたってことなんです
二人は、何度だって選び直してくれました
あたしが二人を選ばなかったんじゃない
二人が、あたしを選んでくれたんです
葵の言葉に、僕と悠は、見慣れたはずのキレイな後ろ姿を見つめた
長い髪は、少し乱れてしまっていたけれど、その奥の背中には、沸き立つような頼もしさと、溢れ出るような美しさがあった
教祖は顔から笑顔を消し、虚ろな眼差しを葵に向けた
構わずに葵は肩を僅かに上げ、大きく息を吸い込む
選択は、どちらか一方だけでするものじゃないし、その時だけで終わるものでもない
人生は選択の連続だと言うなら、
八起さん
あたしは何度だって、
全部を選びたいの
火が緞帳か何かに引火したらしく、昇天する竜のような炎が立ち上った
熱波と悲鳴が渦巻く
そんな中でも葵の声は、確かな存在感を持って、僕の頭に直接届けられていた
それはまるで、雨の上がった後、真っ先に目に飛び込んで来る虹のように印象的で、ずっと見ていたくなるほど心地良かった
八起さん
あなたは一体、何を選びたいの?
何に、選ばれたかったの?
葵の問いに、教祖は答えることなく、文字通り姿を消した
ホッとしたのも束の間
先ほどとは比べ物にならないくらい、強烈な風が吹いた
獣の死骸をヘドロに漬け込んだような臭いに、鼻がありえない方向に曲がる気がした
収拾がつかないほどに、背中がざわめく
腹の底から込み上げてくる不吉過ぎる予感に、喉が詰まった
上を見る
そこには
目にしただけで、その真っ暗な闇に引きずり込まれてしまいそうな、巨大な穴があった
圧倒的な引力と絶望に満ちた穴の周りでは、雷神のイカヅチが群れをなして踊り狂っているようだった
これが、扉
あっちの世界への入口
不快感も忘れて呆気に取られていると、淡い光の筋が、ひょろひょろと扉の中に吸い込まれて行くのが見えた
一つではない
十、二十、いやもっと
よく見ると、色も様々だ
ちょうど、長く垂らしたスズランテープを掃除機で吸った時のように、儚く尾を引いては扉の中に消えている
それが、人間の魂であると気づいた瞬間、会場を覆い尽くす悲鳴が、はっきりと聞こえてきた
名前だ
自分のパートナーを、何度も呼ぶ声だ
意識が遠のきそうになる
それは果たして、扉が持つエネルギーのせいなのか
どうしても抗えない力への、虚無感から来るものなのか
答えを出すことも、考えることも諦めて、僕はただ呆然と、自分が内側から崩壊していくような感覚を、他人事のように感じていた
みんな
突如、この状況には全くそぐわない、活気のある声が上がる
葵が僕たちの方を向き、さらに活気のある目を見開いていた
作戦⑤
扉が開いても閉じれば良い
何とかしよう
この言葉で、僕はやっと魔法が解けたようにフッと息を吐き出すことができた
葵の威勢に応え、悠がさらに声を張る
まだ終わってねー
四人が揃ってる
オレたちが全員、ここでくたばるまでがタイムリミット、だろ?
気持ちが、暗闇から勢いよく引っ張り上げられるのが分かった
僕も思い切り息を吸い込んで、不安や絶望を振り払うよう大声を出す
決めよう
扉を閉める
助けを求める
諦める
さあ、どうする?
うるせぇ
耳元で騒ぐな
タイミングばっちしに瞬が起きる
僕たちから腕を解くと、眼鏡を直し、頭を搔いた
四人で顔を見合わせる
答えなんて決まっていた
僕たちは、これからもずっと同じ答えを、選び続けていくのだから
葵の瞳が煌めく
どんな時だって
何度だって
葵
頑固でわがままで人遣いが荒くて
どんなことにもまっすぐな君を
選んでしまうのだから
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次回、明日投稿予定




