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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十七幕 帰還と誤解
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第九話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 スタッフオンリーと虚しく書かれたドアを開ける

 舞台袖にあたる広い空間

 誰もいない

 人食いの触角のような重寒い気配が、背中からせり出してきた

 もし、ここにいた全員が、点火するよう指示を与えられていて、一斉に動いているのだとしたら


 焦る一方で、微かな望みに明かりが灯る

 まだ花火が上がったような気配もない

 シンフォニアが響いている

 止められる

 今なら、まだ

 間に合う


 おっせーぞ


 目を見開く

 会場に続く出入り口に向かって、右に曲がったところで、悠がこちらを振り返りながら、わざとらしく手を払っていた

 足元には数十名の人間が仲良く転がっている

 会場のスタッフからアーティストから、服装も様々だ


 瞬さん


 奥の方から、葵が駆けてきた

 ここで何が起きたのか

 想像することはできた

 しかし、度重なるストレスと心身の疲労、それに二人の姿が確認できた安堵で、咄嗟に言葉が出てこない


 瞬


 続けて、春樹が飛び出してきた


 どうしたの?

 って、わぁ

 これもどうしたの?


 分かりやすく驚愕する春樹に、悠が笑う


 おめーさ、オレに電話して切んの忘れてただろ?


 え?

 あ、ほんとだ


 まーオレが切っても良かったんだけどさ、何となくこのままにしといたわけよ

 おめーらの様子も少しは分かるし

 こっからは時間との勝負だって思ってな

 で、おめーが地下駐車場で怪しいやつを見つけたってなった時、オレは考えたわけ

 瞬の考えは恐らく当たってる

 そいつはきっと、儀式成功の鍵を握るやつだろう

 おめーらなら、そいつを止めてくれるはず

 相手からしてみたらどうだ?

 予定していた花火が上がらない

 本命もきちんと置いときながら、いくつも予備策をチョコチョコ用意するチョコザイ野郎だろ?

 義理もねークセに、人の命も心も魂も自分のためなら捧げれっちゅージコチュー野郎だ

 直接火をつけに来るんじゃねーかって、当然思うわけ

 で、来てみたら、ここにいるやつら、みんなふらふらーって会場に行こうとする

 止めた止めた

 すげー止めた

 言っても聞かねーから、ちょっと荒療治だな

 ま、そんな怪我はしてない、多分

 ほとんど気絶


 悠が、両の手のひらを見せる

 脱力した

 ため息が出た

 いつも自分のファインプレーだと騒ぎ立てるから、敢えて無視しているが、今回ばかりは

 本当に助かった


 思わずその場にしゃがみ込む

 癪だが、しょうがねぇ


 悠


 三人の視線が俺に向くのを感じた


 帰ってから飲む酒は、

 俺が奢ってやる


 俺に呼ばれて、無駄に身構えてやがったやつは、気の抜けた炭酸のような笑い方をした

 会場を包みこんでいた音楽と映像が終わり、拍手と指笛が沸き上がる

 俺たちは四人、それぞれに視線を交わし合い、長い戦いの終焉を確認し合った


 帰ったら風呂入って酒盛りだなー

 朝まで飲むぞー

 なんてったって、瞬の奢りだからな


 ウヒヒと悠が笑う


 えー僕もうヘロヘロだよ

 今日はぐっすり寝てさ、お祝いは明日にしよう?


 ヘロヘロっておめー

 オレが知る限りでは、今回のおめーは何もしてねーぞ?

 ぶさぴよちゃんの方が活躍してたぞ?


 え、そうなの?


 んなわけあるか、あほう

 バカ言ってねぇで口を閉じてろ


 俺が指し示した先には、恐らく本物の司会者が持っていたのであろう原稿を持つ葵の姿がある

 葵は、アホ二人が両手で口を押さえるのを見て、目を細めると、マイクに向かってアナウンスした


 以上をもちまして、バレンタインコンサートを終了致します


 更に葵は、地下駐車場で暴走車による追突事故が発生したため、警察の指示があるまではその場で待機をするよう続けた

 見ると、会場の入り口からは続々と警官が入って来ており、せっかくのムードをぶち壊してくれている

 葵はもう一度アナウンスを繰り返すと、苦笑いをして振り向いた


 とりあえず、目的、達成?


 俺たちもつられて笑い合う

 例によって悠が拳を振りかぶり、声を上げた


 儀式の阻止、完了

 勝っ


 語尾が途切れた

 何事かと、全員の目が悠に集まる

 振りかぶった拳がゆるゆると下ろされていき、二つの目が、誰もいないはずの舞台を見つめたまま動かなくなった

 その視線の先を追う


 一人の、女


 見覚えがあった

 ブリーチされたショートヘアに、肉付きの良い身体を(あらわ)にしている

 あの部屋で、教組に(みだ)されていた女だ

 その表情は、最後に見せたあの恍惚としたものだったが、ゾッとするような狂気に満ちていた

 観客の中にも気づく人間が現れ始め、ざわめきが波状に伝播していく

 あちこちから悲鳴が上がり、混乱、動揺は激震となって会場全体を揺るがした

 まずい

 パニック寸前だ

 あの女

 人食いに食われたものだとばかり思っていた

 完全に取り込まれる前に閃光弾を浴びたから、成り代わりにならずに消滅したものだと

 まさか

 最初から


 もう一度、悠に目をやる

 さっきの表情のまま、変化はない

 驚愕と困惑で、瞳が震えている


 悠

 お前、あいつは何に見える?

 あいつは誰だ?


 悠の肩を揺すって怒鳴った

 悠はハッとして俺を見ると、たどたどしく口を開く


 き、教組だ


 この言葉に、春樹も愕然として俺たちを見た

 同時に俺の中では、これまでの出来事が、単純なプラモデルのように次々と連結されていった

 あの女は、成り代わりだったのだ

 教祖は、核に囚われているあの女の魂を解放した

 あの女を淫す行為は、まさにそれだった

 教祖を心酔する女の魂は、解放された後、教祖に取り込まれた

 光から、教祖を守るために

 そして他の人食いに紛れて消え、その後一切姿を現さなかったことで、あたかも戦線離脱したように見せかけたのだ

 もし、女が成り代わりと気づかれたら?

 あの部屋に入ったのが、悠や葵だったら?

 恐らく、それでも問題なかった

 成り代わりを解放する唯一の方法を教えてやる、とでも言えば、十分に揺さぶりをかけることができる

 結果は、同じだった


 だめ


 葵が叫び、走り出した

 その先にいる、女の姿を借りた教組

 その手には、五〇センチメートルほどの金属棒

 その先端に、幾重にも巻かれた古いコード


 俺も、がむしゃらに地面を蹴った

 目眩を奥歯で噛み潰して葵を追う


 女の、もう片方の手が動く

 ライターに火がつく

 小さな炎は、すぐに金属棒に延焼した

 べったりと酸化した油と蓄積された埃を纏ったコードに、引火点の低い灯油でもかけていたのだろう

 ゴムが焼けて出る煙と炎色反応によって、禍々しい松明と化したそれを、女は、教祖は、自分の足元に近づけた


 まただ


 また、やられた


 いつからだ?

 コンサートを止めれば良い

 コンサートさえ終われば

 そう、誤解していたのは


 コンサート自体が儀式になっている

 俺たちが、これに気づくことも計算されていた

 気づかれたとしても問題なかった

 プログラム通りのコンサートを遂行することで、また、これでもかと時間稼ぎをすることで、儀式をコンサート内で行っていると錯覚させた

 俺たちは勝手に、タイムリミットをコンサート終了までと設定していた

 今やコンサートは終わり、観客は帰るのみ

 警察も消防も到着して、俺たちは儀式を止めたつもりになっていた


 教祖の足元に置かれた打ち上げ花火

 その導火線上で、不気味な輝きがチリチリと動き、煙火筒の中へと吸い込まれていく

 時間にして、一秒にも満たない刹那

 教祖のヒビ割れた笑顔から漏れ出た言葉を、俺は確かに聞いた


 想定内の誤差、ですね


 ズドン、という地鳴りとともに、花火が打ち上がる

 俺はコートから腕を抜きながら、渾身の足裏に力を込め、葵の元に飛んだ

 ほとんど体当りするようにして、葵の背後から覆いかぶさり、コートを被る


 鼓膜が引き裂かれるような爆音が、頭上で轟いた


 それは紛れもなく


 俺たちの、敗 北 を 意味 していた


 第十七幕 帰還と誤解  完

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、第十八幕突入

完成まで、暫くお待ち下さいませ


SPECIAL THANKS TAMO

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