第十一話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
聡一朗
瞬が橘さんに手を差し出した
卵もう一個くれ
それと
瞬が、手渡された卵で、軽やかにテーブルを叩く
教祖の術に関しては、俺たちも分からねぇことだらけだ
何が起きたのか、それを理解することすら難しい
何の成果も上げられなかった
これ自体が、大きな成果だろ
瞬が
人を、慰めている
この世の終焉を軽く感じながら、オレは滲み出した唾を飲み込んだ
葵が、橘さんに変わって鍋をかき混ぜる
聡一朗さん
大変なご苦労をされましたね
労うことしかできず、申し訳ございません
橘さんは、ハッとしたように少し顔を上げると、眼鏡を外して目を擦った
葵先生
お心遣いに感謝致します
しかし、あなたが誰よりも大変な思いをされていたことは、あの部屋での記憶がない私でも、よく分かるのですよ
今度は葵は菜箸を止め、橘さんを見た
橘さんは眼鏡をかけ直すと、いつもの優しい微笑みをたたえながら、葵から菜箸を受け取る
自分がこのまま腐っていてもしょうがない、そう思い直して前を向くのが分かった
橘さんは、本当に強い人だ
さあ、うどんができましたよ
私はこのすき焼きの締めのうどんが、全ての麺類の中で一番好きです
橘さんは、やはり優雅にうどんをよそっていった
オレたちは、ありがたくうどんをすすり上げる
肉の旨味が存分に溶け込んだ割り下に絡まるうどん
絶品のK点なんて、軽く超えてしまっている
うんめー
最高
すき焼きは、これだがぁ
随分コシが強いうどんだな
このうどんはですね、
暫くの間、うどんをすする音と、橘さんのうんちくが交互に飛びかった
瞬が箸を置く
椿
聡一朗に、昨日あの部屋で起きたこと、説明してやってくれ
そして明日もう一度、一緒にホテルに行ってくれねぇか?
もち
って、あんたらはどーするんよ?
一緒に行きてぇのは山々だが、明日から俺たちは仕事だ
これ食って片付けたら帰るよ
急に現実を突きつけられ、オレと春樹はうへぇと呻いた
来週頭に、情報交換と最終確認
あとは当初の作戦通り、コンサートを意地でも止めるしかねぇ
あれこれまた時間をかけて組み直したものが、得策とも思えねぇしな
それに正直、分かねぇことだらけの今の状態で、バレンタインパーティまで突っ走って、まともな判断ができるかも怪しい
一度、普段の生活に戻って、冷静になって考えてぇんだ
オレたちは当然、異議を唱える事なく、頷いて押し黙った
葵がデザートのシャーベットを置いていく
ほろ苦いレモン味と、果汁感たっぷりのブドウ味
卵と肉の脂質でまったりとしていた口の中が、スッキリと洗い流されて行く
熱い風呂に、茹でダコになる寸前まで浸かった後で、ひんやりと澄んだ冬の風に当たったようだ
来週、みんなでバレンタインパーティしたいよね
明るい声で葵が言う
多少無理をしているのが分かったが、オレも声をトーンアップさせて答えた
それならさ、バレンタインコンサート止めて、祝勝会しようぜ?
鼻血出るほどチョコ食って、酒飲むの
ずっと酒我慢してただろ?
解禁しよーぜ、か、い、き、ん
しっかりハメを外す気だな
去年、葵が作ったガトーショコラはマジんまかった
え、おれも食いたい
それに入ってるラム酒で、春樹は酔っ払ってたな
今年は酒抜きでよろ
かしこまりました
でも、アルコールは焼いてる間にほとんど飛ぶと思いますよ?
僕が酔っ払ったのはさ、一緒に飲んだら美味しいって、強いお酒二人が勧めてきたからでしょ
あの日のチョコとお酒は、僕、致死量だったと思う
それはおめーが、オレがもらったチョコのほとんどを食うからだ
チョコの致死量は一般的に体重の一割程度と言われている
当然、チョコや人間で差があるがな
お前なら七キロ弱ってところだから、問題ねぇ
ちょ、体重バラさないでよ
女子か
今年も楽しみだなぁ
悠の持って来る、段ボールいっぱいのチョコレート
おめーな、人のチョコ当てにすんなよ
おめーもそれなりにもらうだろ
クラスのカワイー女の子から
分かりやすくバカにしてるでしょ
春樹くん、私はチョコの数で春樹くんの人間性を測ろうなんて愚かなことは致しませんからね
あ、はい
えっと?
橘さんも、すごい量のチョコ貰いそうですよね
おめー、まさかそっちも狙ってんのか?
致死量は狙うなよ
春樹くん、お察しの通りです
あれは年中行事のようなものですよ
女性の皆様が思いを込めて用意して下さったものを、廃棄するのは忍びないのですが、如何せん量が多くて
できるだけ、ナマ物や要冷蔵品はご遠慮していただいておりました
椿くんが来て下さってからは、その憂慮がなくなったので、ありがたい限りです
バレンタイン前日から、ポストの前に段ボール置いとくんよ
すぐいっぱいになるんけどな
各運送会社からも一箱ずつ届くん
差出人不明のやつも結構あるけぇ、おれが毒見してやらんといけんがぁ
ぜってー致死量いってんだろ
聞くだけで血糖値が上がる話だな
そいちろが毎年ごてーねーに全員にお返しするから、増え続けるんよ
モテ過ぎるのも大変だなぁ
モテキャラはオレに定着していたはずなのに、橘さんの前ではモブも良いところだ
張り合うのは諦めて葵を見た
クスクス笑いながら、じゃあ来週はゲッショクパーティかな、験を担いでもう一回節分パーティする?と聞いてくる
オレは、そーだなーと曖昧な答えを返した
豆まきチョコ漫談に花を咲かせながら、オレの頭だけは、冷静に返っていく
バレンタインコンサートが終わったら
オレたちは
果たして、誰も欠けることなく、こうしてまた食卓を囲むことができるのだろうか
真実は
果たして、どうなるのだろうか
儀式を阻止、できたとして
不老不死のまま生きていく?
この世に魂を縛られたまま
誰の記憶にも、残ることなく
パチン
冷静とネガティブを履き違えている自分の頬を打つ
違う
確かに、真実の未来の記憶は、もう紡がれることはない
もう、真実は帰って来ない
変えようがない
それが、真実
でも
真実のことは、オレが、ずっと覚えてる
あいつの減らず口や悪態、どこまでも冷たくて合理的な思考、認めざるを得ないキレイな顔立ち
瞬を全く恐れねーくせに、春樹には雑魚い
好きな食べ物は中トロの握り
嫌いな食べ物は煮すぎた味噌汁のワカメ
口角を上げて寿司を噛み締める顔
げんなりと味噌汁をかき混ぜる顔
自分で打った頬から目の辺りが、じわりと痛んだ
ほら、な?
ちゃんと、覚えてる
これが
真実だ
だから
真実、おめーは
おめーが一番幸せになれる方法を
オレが間違わねーで判断できるよう
どうか
魂のどっかで
願っててほしいんだ
第十六幕 願望と帰還 完
本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問
次回、第十七幕突入
SPECIAL THANKS TAMO




