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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十五幕 変化と願望
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第九話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 それ(・・)は、人の形をしていた

 教祖が倒れている、更に奥の壁をすり抜けるように、ゆっくりと這い出て来た

 そして、下から順に身体を少しずつ持ち上げ、最後に、だらりと下がった重い頭を、反動をつけるようにして正面に持ってきた


 その姿

 忘れるものか

 忘れたくても忘れられねー


 ズルリと長い黒い身体

 耳から伸びる、舌のような触角

 両肩から突き出す太い腕と、鎖骨のあたりから伸びる小さな腕

 食虫植物のようなギザギザとした割れ目のある、顔


 そいちろのスケッチ、まんまだがぁ

 ドアの結界から何から、自分の意識がなくなった後に発動するように仕掛けとったんか

 用意周到だのぅ


 椿が、オレたちの前に出る

 化け物は、一体だけではなかった

 一つ、二つ、三つ

 次々と同じ動作で頭をもたげ、薄気味悪いギザギザの顔をこちらに向けている

 化け物を睨み返すように、椿は前を向いたまま、半ば独り言のように言葉を続けた


 床にばら撒かれたやつん中に、石が混じっとったんか

 それに誘われおって、お出ましって訳かのぅ

 どエラいもん隠しおってからに

 そいちろ、ドアに張り付いてろ

 少しでも結界が緩みおったら、その隙に脱出しぃ


 椿くんは?


 おれの左半身は、あれとおんなじバケモンだがぁ

 何とかなろぅ


 何ともならなさそうに椿が言う

 ヤケを起こしたように聞こえたのは、オレだけではなかった


 春樹、葵を頼む


 瞬が葵を春樹に預け、椿の前に進み出た


 てめぇだけじゃ、力不足も良いところだ


 瞬を振り仰いで、椿が声を荒げる


 ばぁか

 ほんっと感覚馬鹿になっとるんな

 あれはもう、人食いなんて生易しいもんでないんよ

 人の恨み、辛み、妬み、嫉み、憎しみ、その全てを取り込みすぎて、人を呪い殺すことしかできなくなったバケモンだっつの

 あれに触れた途端、怨念に焼き殺されろぅよ


 俺には、そういうのは効かねぇだろ


 あんたが大丈夫でも、あんたに憑いとる霊がヤベんだっつの


 瞬は押し黙った


 家族だっつっとったろ

 おれにとっちゃ、家族ってのはゴミ以下だけんど、あんたらにとっちゃ違うんろ?


 ここで、オレは初めて気がついた

 オレたちは、これまでに守護霊を自分の意思で憑けたり解いたりをしたことがなかった

 恐らく、葵に戻ることは可能性なんだろうけど、瞬が言うように、この部屋に入った時から、ぜん(・・)あい(・・)ちゃんの気配がいつもより薄れた感じがする

 出てきたいけど出てこれない、そんな状態なのかもしれない

 せめて、オレがあっちの世界に自分から行ければ、ぜん(・・)と話ができたんだろうけど、いくらそう念じたところで叶うわけがなかった

 春樹は葵を抱きしめたまま、口惜しそうに瞬と椿のやりとりを見ている


 無力


 力不足なんてものじゃない

 今、目の前の状況において、オレたちはあまりにも役立たずだった

 守護霊たちの力に頼ってヒーロー気どり

 椿の言ったことは、揶揄でも何でもない

 やるせなさと歯がゆさと不甲斐なさが、化け物の放つ怨念のように、オレの身体を焼くのが分かった


 どうすればいい?

 一体だけで、森にいた人食い百体分くらいの威圧感がある

 間違いなくボス級の化け物が四体

 椿に任せるべきか?

 オレたちは椿の言う通り、隙を見て逃げ出すことしかできねーのか?

 椿は?

 悪魔に売ったっつー左半身は、確かに未知数の力だし、にわか霊能者のオレとは、天と地ほどの力の差があるだろう

 気に食わねー野郎だが、こういう状況、に一切怯むことなく前に進み出ることができるほど、こいつは勇猛だ

 百戦錬磨と言っても、決して言い過ぎではない

 それでも、さっきから化け物を見つめる目の中では、覚悟と恐怖が渦を巻いている

 額には、ぐっしょりと汗を滲ませている

 椿は果たして無事で済むのか?

 この問いの答えは、椿自身がよく分かっているようだった


 化け物の一体が、教祖に近づく

 恐らく、攻撃対象ではないとプログラムされているだろう

 ゆったりとした動作で、教祖の身体を起こした


 ゴキン


 オレは自分の目を疑った

 化け物が、教祖の頭を噛み潰したのだ

 ギザギザに割れた頭から、教祖の身体がぶらりと垂れ下がった

 血が噴き出るのよりも早く、化け物の大小二つの腕が器用に動き、教祖の身体を持ち上げると、連動して口が開閉した


 バキ

 ボキ

 ゴリ


 口が閉じるたびに、骨の砕ける音が響く

 とうとう毛の一つも、血の一滴も、服の繊維の一本すら残さずに、教祖は化け物に食われた

 次にああなるのが、自分か、もしくはここにいる誰かか

 そんなことを考えてしまい、身体が真っ二つに捻り切られるような激痛がみぞおちのあたりに走り、全身が泡立った


 春樹くん、悠くん、瞬くん

 椿くんの言う通りに

 ドアの近くにいてください

 結界が緩む気配を、あなた方なら感じることができるでしょう


 橘さんがオレたちの間に分け入り、椿に近づいた


 ばぁか

 あんたも一緒に逃げんだっつの


 私は、椿くんのパートナーです

 必ずお役に立てます

 前回もそうだったでしょう?


 ばぁか

 それとはレベルがちげんだっつの

 気が散るんだけぇ下がってろや


 だったら尚更、下がるわけには参りません

 椿くんが全力でもって、あれと対峙できるように、私もまた全身全霊でもってサポート致します

 これ以上、何を言っても無駄ですよ

 身勝手な願望など、申し上げているつもりはありませんから


 橘さんは言葉遣いこそ丁寧だが、自分の意見は決して曲げないという確固たる信念を、十分過ぎるほどに示していた


 私は、椿くんの

 パートナーです


 椿は、舌打ちをするような表情をすると、こちらににじり寄る化け物に、左手を向けた


 何度も言わすなや


 化け物に向かって、ゆっくりと歩みを進める椿

 その後ろに、橘さんが寄り添う


 相棒だっつの

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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