第八話 前編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
突然、教祖が手品師のように指を弾いた
フィンガースナップ、指パッチンだ
その瞬間、僕の身体は、金縛りにあったように動かなくなった
呼吸もできない
瞬きもできない
もう、十分お話されたでしょう?
仰りたいことは理解できました
もう十分です
忠告として、ありがたくお受け致しますよ
声も出ない
頭が働かない
心臓?動いてる?
何をした?
一体、何が起きた?
困惑していらっしゃいますね
催眠術、なんて子ども騙しではないですよ
貴方様方の脳内に、意識に、言ってみれば魂に直接命令しているのです
取り憑かれた人間を見たことがあるでしょう?
霊に魂を支配されるんですよ
わたくしはそれを、意図的に行うことができるのです
教祖は、ここまでゆったりと話すと、思い出したように人差し指を立てた
申し訳ございません
脳幹の働きも、戻してさしあげないとダメですね
再び教祖が指を弾くと、炭酸の栓を抜いた時のように息が吐き出された
目眩がして目を閉じた
干からびそうになっていた眼球に、まぶたが張り付く
声は出ない
なに?
脳内に?
魂に直接?
ヤバい
部屋に焚かれたお香のせいで、さっきから意識に重たいモヤがかかったみたいだ
ぎんも、さっきからずっと大人しい
僕の中から出て来れないでいる?
そんなことが
瞬
見ると、瞬も微動だにできずに、教祖を睨み続けていた
ヤバい
教祖の術は、本物だ
そりゃあ、あんな化け物を作るだけのことはあるか
って、そんなこと考えてる場合じゃなくて
こうやって教祖の話が聞こえて、あれこれ考えられてるってことは、側頭葉、前頭前野は働いている
手足が動かないのは小脳の機能が止められているからか、そこに繋がる神経が遮断されているか、ええーっと
って、こんなこと考えてもしょうがないってば
教祖は葵の髪を、頭を、顔を、身体を愛撫しながら、陶然として話し始めた
わたくしの先祖は、永遠の命を本気で研究してきた科学者でした
科学者なんて言いますと聞こえは宜しいですが、叶いもしない夢と願望に取り憑かれた、愚かな一族です
あのホテルでは、わたくしの先祖の生家あり、呪術や祈祷の類が尊重されていた時代は、それを生業としていました
科学の進歩とともに、その技術を呪術と融合させることに尽力し、生涯を捧げるようになったのです
その技術に目をつけたのが、信霊教の創始者、ブーア・ルクバ
どこか小国の王族だった彼は、莫大な研究費と実験材料の提供をし、見返りとしてその研究成果の全てを要求しました
我が一族は、完全に彼の支配下に置かれたのですよ
富や名声を手に入れたものは、揃いも揃って不老不死を切望します
自分が今の幸せを手放し、この世界から離れてしまうことを、何よりも恐れているのです
もし、その恐怖から解放させてくれる方法があるならば、彼らは惜しむことなく、その有り余る財を投げ打つことでしょう
わたくしの両親もまた、富と名声と、そして不老不死に取り憑かれておりました
その代償として生まれたのが、わたくしであり、人食いなのですよ
教祖は、顔を葵に近づけ、その首筋にキスをした
僕の中で、何かが切れた
いや、何かが繋がったのかもしれない
爆発的に何かが消滅し、生み出された
自分の感情が、今どんな位置にあるのかも分からないまま、僕はただ、呼吸を荒げていた
しかし、それももうすぐ終わります
長かったですよ
本当に
教祖の顔が、葵の首筋から下にナメクジのようにのたうつ
指先が、葵の乳房で芋虫のように動く
目の奥が、溶けてしまいそうなほど熱くなった
バレンタインコンサートで、異世界への扉を開きます
扉を開くのに、生きた魂が必要なことは昔から分かっていました
数が多ければ多いほど、強力で巨大な扉が出現することも知られていました
しかし、生きた肉体から魂を外すのには、さらに大きな力がいるため、いくら生贄を捧げても生み出す扉は脆く、すぐに消えてしまっていたのです
この不死の技術は、生きた魂を保管しておくのに適していました
不老不死なんかより、扉を開くことこそ、世の中のためなるとは思いませんか?
一握りの限られた人間を生かし続けるより、皆が平等に扉を行き来できるようにした方が、遥かに多くの方が喜びを得ることでしょう
不老不死は一握りの限られた人間しか望みません
しかし、全く違う世界でやり直したい、という願望は多くの方が一度は抱くことです
異世界に転生できたら、と
それが叶うのですよ
人と人でないものが当たり前に共存する世界
境界線など存在しない世界
どんな学問も、医療も、兵器も、全く通用しない全く新しい世界です
自然災害に似た、力が全く及ばないものが、近くにいるにも関わらず、それに丸腰も同然の人間たちは恐れ慄くでしょうね
そこに、わたくしが希望を与えましょう
人ならざるものとの共存する術を授けましょう
アメとムチも、必要に応じて使い分けることが可能です
神野様は、わたくしと共に、救済を求める人間たちに手を差し伸べてくれるでしょう
見える以上の力を持った神野様は、幼き頃より辛い思いをしてきたはずですから、喜んでわたくしのそばで、力を貸してくださいます
なにを
こいつは一体何を言っている?
全く意味がわからない
扉を開けるのが世の中のためだとか、平等だとか言って、結局自分に都合の良い世界にしたいだけじゃないか
そんなことより早く、
早く葵から離れろ
葵に、あんな酷いこと言っておいて
何を今さら
お前なんかのところに、葵が行くわけがないだろう
この勘違い野郎
微塵も動かない歯を食いしばりながら、震えることもできない拳を握りしめながら、僕は、確固たる殺意を持って教祖を睨みつけた
教祖は、そんな僕を一瞥もせず、葵に擦り寄せた身体を起こすと、前ボタンを外し始めた
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