第十話 前編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
精巧な機械のように食事の片付けをしていく俺たちを、聡一朗は感心し、椿は呆れるように見ていた
それが終わると、ソファスペースで例の封書が、聡一朗の手によって開かれる
聡一朗は一つ一つにじっくりと目を通し、ふうむ、と息を漏らした
素晴らしい、コンサートへのご招待ですね
椿くん
何が見えましたか?
何か見えたか、ではなく、何が見えたか、と質問するあたり、聡一朗は椿の見る力に少しも疑いがないようだ
椿が端的に説明をする
聡一朗と葵は、やはり几帳面にそれぞれメモを取りながら聞いていた
葵はいつも座っている二人掛けソファを聡一朗と椿に譲り、自分は俺の向かいにクッションを敷いて座っている
その隣で、いつものように床に座る春樹に意見を求める姿を確認しながら、口火を切った
さて、いろいろ推測できる材料は揃って来たわけだが、それを並び立てるのは後にしよう
まずは結論をはっきりさせるぞ
何のことかと、五つの視線が俺に向かう
やつらにとってのXデー、二月一四日が最終期日だ
俺たちはこれを止める
異論あるやつはいるか?
五つの首が横に振られるのを確認し、俺は再び口を開く
バレンタインコンサートの最中に、儀式が行われる
恐らく、あっちの世界の入口を開くためのものだろう
椿が言うところの穴、だな
観客はその材料にされる、もしくは入口が開いた後で何かに使われる
ここまではいいか?
入口が開いた後に使うって、例えば?
春樹が小首を傾げる
分からねぇ
あくまで可能性の話だ
椿が見たものによると、生身の人間が入口を作る材料になるんだろ?
そうなると、苦労して作った成り代わりは一体何に使うんだって疑問が残る
となると、入口ができた後に必要になってくるんじゃねぇかって考えられるだろ?
なるほど
こいつを止める方法は、大きく分けて三つだ
①コンサートを開催させない
②コンサートを開催させても、儀式を始めさせない
③儀式を始めさせても、完遂させない
①に関してだが、今までと同様、情報収集しながらできることをしていくしかない
この封書が既にバラまかれている状態で、コンサートを中止に追いやるような作戦
そのアイデアがあれば聞かせてくれ
そう言って、五人の顔を見回した
会場の爆破予告とかは?
真っ先に手を挙げるやつ
当然冗談だろう
犯罪はダメだよ
バカにマジメが答える
よくあるのは出演者の体調不良、とかだよね
葵がティーカップとハーブティーの入ったポットを持ってきた
そいつに下剤入りの差し入れをしたる
その方がお気の毒ですよ、椿くん
気の毒とか言ってられる状況じゃなかろ?
仮にその出演者が体調不良になったところで、人食いに食わせりゃ良いだけの話だ
俺は知らねぇが、出演者は有名なアーティストばかりなんだろ?
はい
昨今、日本を代表する方々ばかりですね
おめーでも代表曲くらいは聞いたことあると思うぞ?
彼らを失うのは、我が国のかけがえのない財産の喪失に等しいでしょう
橘さん、このアーティスト好きなの?
そいちろはJ‐POP全般好きなんよ
意外
なんかクラシックとか聴いてるイメージ
おーじゃーさ
今度みんなでカラオケ行こーぜー
そいちろはすっげ音痴なんよ
音痴だからこそ、彼らの歌唱力の素晴らしさに底知れぬ感動を得ることができるのですよ、椿くん
私は音痴であることを誇りに思っております
ねぇ、瞬くん
俺を巻き込むな
橘さん、よく瞬が音痴だって分かったあああああああでえええええ
悠が額を押さえてソファの上で転げ回る
こいつの話脱線力の制圧にはデコピンが一番だ
悠を放置し、葵が入れてくれたハーブティーをすする
バカでかい台風でも呼び寄せるような力がない限り、コンサート中止は難しそうだな
俺もいくつか考えたが、どれも法に抵触する、もしくは無関係の人間が犠牲になるものばかりだ
後は、聡一朗の方で、この封書が届けられた顧客リストを入手して、一人一人に注意喚起する
あるいは、当たり障りのない文言でSNSなどで参加を踏みとどませる、などがあるが、労力と時間ばかりかかる割に、大して効果がないものばかりだ
それに、仮に何らかの方法で今回のコンサートを中止できたとしても、やつらは違う日程で、計画を遂行するだけだろう
きりがないってことですね
ああ
それに、次のコンサートは中止させないように、邪魔者は最大限に排除しにかかるだろうな
おれたちが、派手に動き回ってコンサートを中止させるんはハイリスク・ローリターンってことだけぇ
①はナシだがぁ
そういうことだ
次
②コンサートは開催させるが、儀式を始めさせない方法だ
コンサートのどこかのタイミングで、儀式を執り行う人間を見つけ、止める
観客は何事もなくコンサートに参加し、何事もなく帰る
理想的ではあるな
その執行人が誰かを突き止める必要がありますね
そして当日悟られぬように尾行し、儀式を始める前に取り押さえる、という感じでしょうか
ああ
ただ、これも成り代わりで影武者を何人も作られていたらお手上げだし、囮に使ってくることだって十分考えられる
それに、その道のプロでもない俺たちが尾行の真似事なんてしたら、返って自分の首を絞めることになりかねねぇな
私の伝手で、その道のプロにお任せするというのは?
その道のプロでも、人食いの前では成す術なしだろう
当日、おれとそいちろで、それらしい人物を探して尾行する
ビンゴだったら、そんまま確保しよって一件落着
見当外れなら次の作戦③だがぁ
椿がさらりと話を進める
人食いの恐怖と隣り合わせの尾行をさせるのは、さすが気が引けていたのだが、椿は率先してその役を引き受けた
聡明で勇敢
聡一朗がベタ褒めするだけのことはある
何度も修羅場をくぐってきたような態度は、見栄でも虚勢でもないわけだ
ああ
そうなるな
でも、人食いが現れたら
春樹が心配そうな声を上げる
椿は左腕を捲った
手首のすぐ下辺りから赤黒いミミズ腫れが肩に向かって広がっている
こいつが、何とかしてくれるけぇ
そう言って笑うと、俺たちに手のひらを向けて見せた
が、次の瞬間には眉をしかめてその手を凝視した
なんだ、これ?
どうしたの?
春樹の問いに、椿は手首を返した
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